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第2章 お城の外へ。常識を知る

街の外へ

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 配下の武官のうち8割は──と言ってもわずか4人だけど──街を離れているという。すぐに会えないのは残念だが、ある意味チャンスとも言える。

 武官たちは魔物退治に向かったようなので、うまくすれば彼らの実力をじかに把握できるだろう。実戦でどのように動いているかを見れば、来たるべき戦争の参考になるはずだ。

「武官の行き先はわかるかの? 彼らの働きぶりを見ておきたいのじゃ」
「それは……」

 ケネフェトが口ごもった。
 ──なんだろう。行き先を知らない、というカンジではないな。
 どちらかと言うと、行き先を言いたくない、か……?

「ファロン、あいつ嫌い。会いに行かないほうがいいよー」

 考え込んでいると、ファロンが口を出してきた。
 どうやら、武官の中に反りが合わないヤツがいるらしい。

「あいつって誰じゃ?」
「ノラン」

 ……誰だよ。名前だけ出されても、オレにはわからない。
 詳しい説明をしろ、とケネフェトに目で訴えてみた。

「ノラン・キオコ・フェーヴリレ。武官の長で、ディニッサ様の遠い親戚にあたります。ディニッサ様のお姉様が嫁いだ、三つ目族の子孫ですね」

 察しよく、ケネフェトが答えてくれた。有能。
 しかし親戚で、武官のトップか……。

「ファロンは、どうしてノランが嫌いなんじゃ?」
「あいつがディニッサ様のこと嫌ってるから」

 ノランがどうというより、単にディニッサの敵であるという認識か。
 ──けど、どうしてディニッサが嫌われているんだ? ディニッサはずっと引きこもっていたんだから、ほとんど面識もないだろうに。

 ……ああ、そうか。それが原因か。
 おそらくノランとやらは、生真面目なタイプなんだろう。
 その手の謹直な人は、いい加減でやる気が無いヤツを嫌う傾向がある。

 ちょっと面倒だが、ある意味助かったとも言えるのかな。

 ディニッサの引きこもりに苛立っているくらいだから、権勢欲や物欲が少ない人物だと予想できる。その手の欲望が強い人間にとっては、上司が引きこもって何も口出ししない状況なんて天国みたいなものだから。

 ノランが欲望にまみれた人物じゃなさそうなのは良い。
 ただ、別の懸念が生まれるな。ノランと面会すること自体が危険かもしれない。

 ノランはディニッサの親戚だ。ダメ領主の代わりに、自分が国を治めようと考えてもおかしくない。今まで行動をおこしていないのだから、その気はないのかもしれないが、ディニッサと会えずその機会がなかっただけとも考えられる。

 ……危険はあるけど、会ってみるしかない。
 少し考えたあとで、オレはそう決断をくだした。

 オレ、侍女3人、ケネフェト、武官5人。ルオフィキシラル領には、わずか10人しか魔族がいない。たった5人の武官といえど、我が領の全戦力の5割にあたるということだ。

 これをしっかりと掌握しなければ、とても戦争などできるものではない。
 よってノランとは、なるべく早く和解しておく必要がある。

「危機を前に、味方同士で争っているわけにはいかぬ。ノランがわらわを嫌っておるなら、なおさら会ってみなければなるまい」

「さすがはディニッサ様! じかに顔を合わせれば、きっとノラン様もわかってくれるでしょう」

 そう言うケネフェトからは、当初の憂いが消えていた。
 オレがノランの気持ちを知って、なおも会いに行くと言ったからだろう。

 ケネフェトが棚に向かった。そして取り出した紙切れをオレに渡す。

「定時連絡で送られてきた地図があります。これを持っていってください」

 地図を見ると、現在の彼らの位置からこれから行く予定の場所まで、かなり細かく書き込まれていた。

 それは、生真面目というノランの人物予想を裏付けるものだった。
 これならきっと大丈夫だ。ちゃんと話をすればわかってくれるはず。

 オレが真面目になったとアピールすれば、協力してくれる可能性は高い。
 「え、ディニッサ様って実はこんなに良い子だったの」作戦である。引きこもりのダメ人間との落差が大きい分、ちょっとした事でも驚いてもらえるだろう。


 * * * * *


 地図をたよりに道を進んでいく。さいわい、目的地は街から近かった。
 ……魔物が街の近くで暴れてると考えると、さいわいでもないか。

 街道は狭く、舗装もされていない。
 これでは、街で馬車を見かけなかったのにも納得だ。道はデコボコしているし、石ころはゴロゴロしているし、まともに車輪が回らないだろう。

 首都から伸びる主要道がこの有り様なのだから、他は推して知るべしだ。
 交通インフラは、国の発展に欠かせない。早急に道路整備を始めよう。

 ──目的に向かう道すがら、商人や農夫とすれ違った。彼らにノランたちの行方を聞いてみたのだが、残念ながら知っている者はいなかった。

 ……ちゃんと会えるのか?
 少し不安になってきた。他の仕事をこなしながら、街で待っていたほうが賢かったかもしれない。

「地図だけで探すのは難しいかもしれんの……。やつらも動き回っているようじゃし」

「ファロンが探す?」

 オレのぼやきに、機嫌よく鼻歌を歌っていたファロンが反応した。
 ……どうやって探すつもりだろう? 獣人はすごい探知能力を持っていたりするのかな?

「そうしてもらえると助かるな。頼むのじゃ」
「わかったー」

 ファロンは、目をつぶってなにやら集中しだした。

 一分ほどたった後だろうか、ファロンのまわりに小さく黒い球体がいくつもあらわれた。みるまにその球体の黒い色が薄れていく。黒い球体が消え去ったあと、その場には数十匹のキツネがいた。

「もしかして召喚魔法か? すごいの」
「うん。キツネしか呼べないけどねー」

 使い手がめったにいないという、上級魔法の「召喚」と「固定」。
 両方とも身近に使える者がいたようだ。

 しかしユルテがそのことを知らなかったということは。もしかして侍女三人は、あんまり仲がよくなかったりするのか?
 表面上だけ笑顔で実は──ってパターンだとキツイな……。
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