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第2章 お城の外へ。常識を知る
大商人ガーナン
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オレの果断な決断により、月に10億円ほどの経費を削減できた。
……といっても、過大すぎる食費を削るだけなんだよな。しかも、これでもぜんぜん足りない。
「食費の件はそれでよし。他はどうなっておるのじゃ?」
「次にディニッサ様たちの衣装代です。指輪やネックレスなどの小物もあわせて、月平均金貨21万枚ほどを使っています……」
高そうな服着てるからなあ……。
指輪とかの宝石もすごいし。食費に10億円よりは、まだしも納得できる。
納得はしても、許しはしないが。
「ユルテ、いったいどれほど服を買っているのじゃ。金をかけすぎじゃろう」
「でも姫様に同じ服を着ていただくわけにはいかないでしょう。本当は髪飾りや指輪も変えたいのを、我慢して使いまわしているんですよ?」
「ま、まさか、一回着ただけで服を捨てているのか!?」
「捨てませんよ、もったいない。姫様がお召になった衣装は、私たちがありがたく頂戴しています」
「サイズがあわんじゃろ」
「何を言っているのです。部屋に置いておくだけで幸せになれるでしょう?」
え、侍女たちの部屋には、ディニッサの使用済み衣類が山のように積まれているってことか? ……なんかストーカーっぽいな。これ男だったら相当キモいぞ。
「今後わらわに許可無く、服、装飾品を買うのは禁止じゃ」
「そんなっ。いまある分の服を使い切ったらどうするんですか!?」
「洗ってまた着ればいいじゃろ。というかアレじゃな……。ケネフェト、豊富な資金を持っていて、服や宝石を買い取ってくれそうな商人に心当たりはないかの。信頼できて、ルオフィキシラル教徒だとなお良いのじゃが」
「それならちょうど、ガーナンという大商人と今日会う約束をしています」
「ああ、それは良いな。わらわも同行しよう」
「ひ、姫様、なにをなさるおつもりですか」
「服も宝石も、最低限を残して売っぱらうつもりじゃ。あ、ユルテたちが持っている分も没収するから、そのつもりでいよ」
「そんなひどいっ。アレを奪われたら、当番日じゃない夜を、なにを拠り所にして耐えればいいというのですか!」
知らんがな。ユルテは無視してケネフェトと話を続けよう。
「ケネフェト、今すぐ行くのは問題かの?」
「そうですね。先触れをだしてみましょう。彼の邸宅はここからすぐ近くにあるので、そう時間はかかりませんし」
「ひ、め、さ、ま!!」
「ああもうっ。一人寝が寂しいなら、これからは四人でいっしょに寝ればよいじゃろ。べつに愛を語らうわけでもなし、二人きりである必要もなかろう」
オレの体を揺らしながら喚いているユルテに、そう告げた。
ある意味ハーレムだが、べつだん下心はない。
彼女たちとは始終くっつきっぱなしですでに慣れてしまった。
それに、この体になってからというもの、その手の欲望自体どんどん希薄になっているようなのだ。
もっとも、見た目小学生くらいの幼女が女に欲情してたら気持ち悪いから、それはそれでかまわないのだが。
「みんなでいっしょに……。たしかにそれはいい案ですね。なぜ今まで思いつかなかったのでしょう」
ややあって使者が戻り、訪問を歓迎するとの返事を受けた。
* * * * *
商人の家は、官府のいくつか隣にあった。
大きさや家の形は、まわりの邸宅と大差ない。
しかし手入れが行き届いているせいか、他より立派に見えた。
玄関から中に入ると、エントランスホールでドワーフが出迎えてくれた。
背はディニッサよりすこし高いくらいだが、横幅は広い。長いアゴヒゲをたくわえ、鋭い視線をオレにむけていた。頑固オヤジという言葉がピッタリな風貌だ。
「ようこそディニッサ様。わしがガーナンですじゃ。歓迎いたしますぞ」
「うむ。急に押しかけてすまなかったの」
低く渋い声でガーナンが挨拶する。ますます巌のような印象が強くなった。
ドワーフの年齢はよくわからないが、多くの経験を重ねたものが持つ威厳のようなものを感じた。
それにしても社長自らお出迎えか。それなりに重要視されているようだ。
やはりルオフィキシラル教徒だからなのかな?
* * * * *
ガーナンに案内されて、壮麗な応接間に入る。
ディニッサの城のように金で飾った派手さはないものの、よく吟味された品のいい部屋だった。
なんとなくドワーフのイメージとは違うが、金持ちになると趣味も洗練されるのかもしれない。
「さて、今日はどんな御用ですかな?」
「ケネフェト、そなたの用件を先に済ますがよい」
「え、ディニッサ様をお待たせするわけには。僕は後で結構ですので」
「わらわの話は時間がかかるかもしれぬ。後のほうが都合が良いのじゃ」
再度言い聞かせると、ケネフェトはうなずいてガーナンと商談をはじめた。
ちなみにオレの話に時間がかかるというのは嘘だ。
服と装飾品を買ってくれるか聞くだけなので、たいして時間は必要ない。
ケネフェトを先に回したのは、ガーナンの様子を見るためだった。
話を聞いていると、ガーナンは手広くやっているようだった。
兵士の食料や備品、さらには兵士用宿舎の修理も議題に上がっている。
……頼めば、オレが壊しちゃった塔の修理もやってくれそうだな。
どうもガーナンは、相場より安い値段で請け負ってくれているみたいだ。
ケネフェトが恐縮しながら何度も頭を下げていた。
地位としては、ケネフェトが騎士でガーナンは平民なのだが、どんな世界でも金を持っているヤツは強いらしい。
オレが観察しているように、ガーナンもオレを値踏みしているのだろう。
ケネフェトとの会話中も、何度も視線をむけてくる。ガーナンの眼差しは、心を読もうとするかのように鋭いものだった。
……これから、歴戦の商人と交渉をしないといけないわけだ。
新入社員に毛が生えたていどのオレが、どこまで渡り合えるか。
気は重いが、いっちょがんばってみましょう。
……といっても、過大すぎる食費を削るだけなんだよな。しかも、これでもぜんぜん足りない。
「食費の件はそれでよし。他はどうなっておるのじゃ?」
「次にディニッサ様たちの衣装代です。指輪やネックレスなどの小物もあわせて、月平均金貨21万枚ほどを使っています……」
高そうな服着てるからなあ……。
指輪とかの宝石もすごいし。食費に10億円よりは、まだしも納得できる。
納得はしても、許しはしないが。
「ユルテ、いったいどれほど服を買っているのじゃ。金をかけすぎじゃろう」
「でも姫様に同じ服を着ていただくわけにはいかないでしょう。本当は髪飾りや指輪も変えたいのを、我慢して使いまわしているんですよ?」
「ま、まさか、一回着ただけで服を捨てているのか!?」
「捨てませんよ、もったいない。姫様がお召になった衣装は、私たちがありがたく頂戴しています」
「サイズがあわんじゃろ」
「何を言っているのです。部屋に置いておくだけで幸せになれるでしょう?」
え、侍女たちの部屋には、ディニッサの使用済み衣類が山のように積まれているってことか? ……なんかストーカーっぽいな。これ男だったら相当キモいぞ。
「今後わらわに許可無く、服、装飾品を買うのは禁止じゃ」
「そんなっ。いまある分の服を使い切ったらどうするんですか!?」
「洗ってまた着ればいいじゃろ。というかアレじゃな……。ケネフェト、豊富な資金を持っていて、服や宝石を買い取ってくれそうな商人に心当たりはないかの。信頼できて、ルオフィキシラル教徒だとなお良いのじゃが」
「それならちょうど、ガーナンという大商人と今日会う約束をしています」
「ああ、それは良いな。わらわも同行しよう」
「ひ、姫様、なにをなさるおつもりですか」
「服も宝石も、最低限を残して売っぱらうつもりじゃ。あ、ユルテたちが持っている分も没収するから、そのつもりでいよ」
「そんなひどいっ。アレを奪われたら、当番日じゃない夜を、なにを拠り所にして耐えればいいというのですか!」
知らんがな。ユルテは無視してケネフェトと話を続けよう。
「ケネフェト、今すぐ行くのは問題かの?」
「そうですね。先触れをだしてみましょう。彼の邸宅はここからすぐ近くにあるので、そう時間はかかりませんし」
「ひ、め、さ、ま!!」
「ああもうっ。一人寝が寂しいなら、これからは四人でいっしょに寝ればよいじゃろ。べつに愛を語らうわけでもなし、二人きりである必要もなかろう」
オレの体を揺らしながら喚いているユルテに、そう告げた。
ある意味ハーレムだが、べつだん下心はない。
彼女たちとは始終くっつきっぱなしですでに慣れてしまった。
それに、この体になってからというもの、その手の欲望自体どんどん希薄になっているようなのだ。
もっとも、見た目小学生くらいの幼女が女に欲情してたら気持ち悪いから、それはそれでかまわないのだが。
「みんなでいっしょに……。たしかにそれはいい案ですね。なぜ今まで思いつかなかったのでしょう」
ややあって使者が戻り、訪問を歓迎するとの返事を受けた。
* * * * *
商人の家は、官府のいくつか隣にあった。
大きさや家の形は、まわりの邸宅と大差ない。
しかし手入れが行き届いているせいか、他より立派に見えた。
玄関から中に入ると、エントランスホールでドワーフが出迎えてくれた。
背はディニッサよりすこし高いくらいだが、横幅は広い。長いアゴヒゲをたくわえ、鋭い視線をオレにむけていた。頑固オヤジという言葉がピッタリな風貌だ。
「ようこそディニッサ様。わしがガーナンですじゃ。歓迎いたしますぞ」
「うむ。急に押しかけてすまなかったの」
低く渋い声でガーナンが挨拶する。ますます巌のような印象が強くなった。
ドワーフの年齢はよくわからないが、多くの経験を重ねたものが持つ威厳のようなものを感じた。
それにしても社長自らお出迎えか。それなりに重要視されているようだ。
やはりルオフィキシラル教徒だからなのかな?
* * * * *
ガーナンに案内されて、壮麗な応接間に入る。
ディニッサの城のように金で飾った派手さはないものの、よく吟味された品のいい部屋だった。
なんとなくドワーフのイメージとは違うが、金持ちになると趣味も洗練されるのかもしれない。
「さて、今日はどんな御用ですかな?」
「ケネフェト、そなたの用件を先に済ますがよい」
「え、ディニッサ様をお待たせするわけには。僕は後で結構ですので」
「わらわの話は時間がかかるかもしれぬ。後のほうが都合が良いのじゃ」
再度言い聞かせると、ケネフェトはうなずいてガーナンと商談をはじめた。
ちなみにオレの話に時間がかかるというのは嘘だ。
服と装飾品を買ってくれるか聞くだけなので、たいして時間は必要ない。
ケネフェトを先に回したのは、ガーナンの様子を見るためだった。
話を聞いていると、ガーナンは手広くやっているようだった。
兵士の食料や備品、さらには兵士用宿舎の修理も議題に上がっている。
……頼めば、オレが壊しちゃった塔の修理もやってくれそうだな。
どうもガーナンは、相場より安い値段で請け負ってくれているみたいだ。
ケネフェトが恐縮しながら何度も頭を下げていた。
地位としては、ケネフェトが騎士でガーナンは平民なのだが、どんな世界でも金を持っているヤツは強いらしい。
オレが観察しているように、ガーナンもオレを値踏みしているのだろう。
ケネフェトとの会話中も、何度も視線をむけてくる。ガーナンの眼差しは、心を読もうとするかのように鋭いものだった。
……これから、歴戦の商人と交渉をしないといけないわけだ。
新入社員に毛が生えたていどのオレが、どこまで渡り合えるか。
気は重いが、いっちょがんばってみましょう。
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