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第2章 お城の外へ。常識を知る
異界の宗教
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「……なあ、あやつはなにを謝っておったんじゃ?」
「トゥーヌル様は、教会関係者が政治に関わることを禁止されていましたから」
政教分離? 聖職者を、国政から完全に排除しているのか。
メリットも多いんだろうがよく実施できたものだ。この世界での宗教の立ち位置は、どうなっているんだろう。
「じゃあ、ルオフィキシラル教会ってなんじゃ。わらわの先祖が神様って設定なのかの?」
「いえ、姫様が神です」
「え……?」
「ですから、ルオフィキシラル教会は、姫様とトゥーヌル様を崇拝する者たちの組織です」
現人神かよ……。
「他にどんな神がいるんじゃ? まさかわらわたちだけが信仰されている、ということはないじゃろ」
「歴代の魔王たちの多くが、それから偉業をなした魔族などが、神と呼ばれていますね」
「太陽の神や、火の神なんかはおらんのか?」
「どうして、太陽を崇めるのです? 太陽には言葉が通じないじゃないですか。なにもしてくれないでしょう?」
なにかしてくれるから信じるのか。ずいぶん即物的な宗教だな。
そういうことなら、なにもしないディニッサも神様失格だと思うんだが、どうなんだろう? 他の魔族に、本尊チェンジとかあるんだろうか。
「……ユルテ、わらわは法を定められる地位にある、と考えても良いのか?」
「ええ、もちろん。領内の法律は好きに決めてけっこうですし、姫様自身はルールを破っても誰も文句は言いません」
なるほど。状況は把握した。戻って連中を安心させてやろう。
オレたちは、再び建物の中に入った。
* * * * *
──みんな、まだ土下座していた。
ディニッサに対する恐怖のせいか? それとも、宗教心からか?
どっちにしても、引くわ、この状況……。
「みな、立つがよい。わらわの決定を告げる」
ひれ伏していたエルフたちが、左右を確認しながらのろのろと立ち上がった。
「今回の件は不問とするのじゃ。また今後、ルオひき」かんだ。が、知らん顔で続ける「……ルオフィキシラル教徒だけは、教会に所属していても政務に関わることを許す」
歓声があがった。おそらく厳しい罰を予想していたのだろう。
「ディニッサ様、寛大な処置に感謝します」
「うむ」
「ディニッサ様!」
ケネフェトの礼に頷き返していると、横から教団のエルフが声をかけてきた。
彼は、またもや下座っていた。
「僭越ながらお願い申し上げます! ぜひ、大聖堂までおこしくださいませ。ディニッサ様のご尊顔を拝することができれば、信者一同これほどの喜びはございません」
「ば、ばか、失礼だぞ」「畏れ多いことを……」
熱心な信者がオレに願うのを、近くにいるエルフたちが慌てて止めている。
立場的に、こういう直訴はマナー違反なのかな?
さて、どうするか。顔を出すくらいはぜんぜんかまわないんだが、行くと不愉快な目にあいそうだからなあ……。
ここにいる信者は純真そうだ。けど大聖堂には、私腹を肥やしていて、偉そうな態度の大神官とかがいるに違いない。宗教団体は上にいくほど腐っているヤツが増える、というのがオレの宗教観だ。
偏見かもしれないが、歴史を見る限り、腐った宗教関係者が多すぎる。
……まあ、王や貴族なんかもロクでもないヤツばかりだから、宗教に限らず権力を持つとダメだということかもしれない。
「ケネフェト、このような自儘な訴えは許されておるのかの?」
「は、いえ、あとで僕がキツく叱っておき──」
「罰を与えるとしたら、どんな刑になるのじゃ」
ケネフェトの言葉を遮り、問いかける。
部屋が静まり返った。
「は……。ディニッサ様に無礼を働いたということで、絞首刑に処されます」
「!?」
思わず吹き出しそうになった。
ちょっとお願いしただけで首吊りなのかよ!?
「……か、覚悟の上の発言かの? それとも口がすべっただけか」
「覚悟の上にございます!」
土下座したままのエルフは、ためらいもせず言い切った。
この信仰心はどこから溢れてくるんだろう。ディニッサはなにもしてあげてないはずなのに。無宗教者のオレには、よくわからない境地だ。
「そなたの勇気に免じて、その願い聞き届けるのじゃ。大聖堂を視察する」
再び歓声が上がった。
みんな感動して、目をうるませている。
正直なところ、必死過ぎてちょっと気持ち悪かった。
けれど、こっちの世界のことがわからない今、あまり敵を増やしたくない。
「ケネフェト、大聖堂より戻ったのちに聞きたいことがあるのじゃ。領内の組織管理、財政、軍事、法と治安、農業と産業、土木、教育についての資料を用意せよ。先に述べたものより優先してとりかかるがよい」
「……。」
「どうした、不明点があるかの?」
「い、いえ、ただちにとりかかります」
突然訪れて好き勝手言っている、と不満なのかな?
……よくみると、そうではないらしい。彼の顔には感嘆の思いが浮かんでいる。
うん、あれだな。不良が雨の日に、捨て猫に傘をやる理論だな。
引きこもりのディニッサが、ちょっとまともな事をいったから驚いたんだろう。
比較対象が底辺っていうのは、意外とやりやすいかもしれん。
さて、次は大聖堂だ。どうなることやら……。
「トゥーヌル様は、教会関係者が政治に関わることを禁止されていましたから」
政教分離? 聖職者を、国政から完全に排除しているのか。
メリットも多いんだろうがよく実施できたものだ。この世界での宗教の立ち位置は、どうなっているんだろう。
「じゃあ、ルオフィキシラル教会ってなんじゃ。わらわの先祖が神様って設定なのかの?」
「いえ、姫様が神です」
「え……?」
「ですから、ルオフィキシラル教会は、姫様とトゥーヌル様を崇拝する者たちの組織です」
現人神かよ……。
「他にどんな神がいるんじゃ? まさかわらわたちだけが信仰されている、ということはないじゃろ」
「歴代の魔王たちの多くが、それから偉業をなした魔族などが、神と呼ばれていますね」
「太陽の神や、火の神なんかはおらんのか?」
「どうして、太陽を崇めるのです? 太陽には言葉が通じないじゃないですか。なにもしてくれないでしょう?」
なにかしてくれるから信じるのか。ずいぶん即物的な宗教だな。
そういうことなら、なにもしないディニッサも神様失格だと思うんだが、どうなんだろう? 他の魔族に、本尊チェンジとかあるんだろうか。
「……ユルテ、わらわは法を定められる地位にある、と考えても良いのか?」
「ええ、もちろん。領内の法律は好きに決めてけっこうですし、姫様自身はルールを破っても誰も文句は言いません」
なるほど。状況は把握した。戻って連中を安心させてやろう。
オレたちは、再び建物の中に入った。
* * * * *
──みんな、まだ土下座していた。
ディニッサに対する恐怖のせいか? それとも、宗教心からか?
どっちにしても、引くわ、この状況……。
「みな、立つがよい。わらわの決定を告げる」
ひれ伏していたエルフたちが、左右を確認しながらのろのろと立ち上がった。
「今回の件は不問とするのじゃ。また今後、ルオひき」かんだ。が、知らん顔で続ける「……ルオフィキシラル教徒だけは、教会に所属していても政務に関わることを許す」
歓声があがった。おそらく厳しい罰を予想していたのだろう。
「ディニッサ様、寛大な処置に感謝します」
「うむ」
「ディニッサ様!」
ケネフェトの礼に頷き返していると、横から教団のエルフが声をかけてきた。
彼は、またもや下座っていた。
「僭越ながらお願い申し上げます! ぜひ、大聖堂までおこしくださいませ。ディニッサ様のご尊顔を拝することができれば、信者一同これほどの喜びはございません」
「ば、ばか、失礼だぞ」「畏れ多いことを……」
熱心な信者がオレに願うのを、近くにいるエルフたちが慌てて止めている。
立場的に、こういう直訴はマナー違反なのかな?
さて、どうするか。顔を出すくらいはぜんぜんかまわないんだが、行くと不愉快な目にあいそうだからなあ……。
ここにいる信者は純真そうだ。けど大聖堂には、私腹を肥やしていて、偉そうな態度の大神官とかがいるに違いない。宗教団体は上にいくほど腐っているヤツが増える、というのがオレの宗教観だ。
偏見かもしれないが、歴史を見る限り、腐った宗教関係者が多すぎる。
……まあ、王や貴族なんかもロクでもないヤツばかりだから、宗教に限らず権力を持つとダメだということかもしれない。
「ケネフェト、このような自儘な訴えは許されておるのかの?」
「は、いえ、あとで僕がキツく叱っておき──」
「罰を与えるとしたら、どんな刑になるのじゃ」
ケネフェトの言葉を遮り、問いかける。
部屋が静まり返った。
「は……。ディニッサ様に無礼を働いたということで、絞首刑に処されます」
「!?」
思わず吹き出しそうになった。
ちょっとお願いしただけで首吊りなのかよ!?
「……か、覚悟の上の発言かの? それとも口がすべっただけか」
「覚悟の上にございます!」
土下座したままのエルフは、ためらいもせず言い切った。
この信仰心はどこから溢れてくるんだろう。ディニッサはなにもしてあげてないはずなのに。無宗教者のオレには、よくわからない境地だ。
「そなたの勇気に免じて、その願い聞き届けるのじゃ。大聖堂を視察する」
再び歓声が上がった。
みんな感動して、目をうるませている。
正直なところ、必死過ぎてちょっと気持ち悪かった。
けれど、こっちの世界のことがわからない今、あまり敵を増やしたくない。
「ケネフェト、大聖堂より戻ったのちに聞きたいことがあるのじゃ。領内の組織管理、財政、軍事、法と治安、農業と産業、土木、教育についての資料を用意せよ。先に述べたものより優先してとりかかるがよい」
「……。」
「どうした、不明点があるかの?」
「い、いえ、ただちにとりかかります」
突然訪れて好き勝手言っている、と不満なのかな?
……よくみると、そうではないらしい。彼の顔には感嘆の思いが浮かんでいる。
うん、あれだな。不良が雨の日に、捨て猫に傘をやる理論だな。
引きこもりのディニッサが、ちょっとまともな事をいったから驚いたんだろう。
比較対象が底辺っていうのは、意外とやりやすいかもしれん。
さて、次は大聖堂だ。どうなることやら……。
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