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ディニッサは、夢の世界で陽菜を見つけることができました。
入れ替え魔法の影響か、陽菜は夢の世界でも眠っています。
ディニッサは心配になりました。自分のせいで陽菜が死んでしまうかと思ったのです。
基本的には、ディニッサは優しい女の子なのでした。
けれど陽菜は、すぐに目を覚ましてくれました。
ホッとしたディニッサは、陽菜に声をかけます。
「ようやく目を覚ましたか。安心したのじゃ。わらわが誰か、わかるかの?」
「……ディニッサ?」
陽菜の様子に変わったところはありません。
ディニッサのことも、ちゃんとわかっているようです。
「うむ。記憶はたしかなようじゃな。では現状の説明をしようか」
「はは、現状ってなにそれ。ホント変な夢」
陽菜は笑ってディニッサの言うことを聞いてくれません。
どうやら夢を見ていると思われたようです。この世界で会ったのが失敗でした。灰色の空間でフワフワ浮かんでいる状態なのですから、夢だと思うのも自然でしょう。
* * * * *
いくらディニッサが説明しても、陽菜は納得してくれませんでした。
ディニッサは仕方なく、海への連絡を優先することにしました。陽菜の兄は、何も悪くないのに巻き込まれてしまったのですから、そのまま放置するわけにはいきません。
夢の世界が消えて、まばゆい光がまわりに溢れました。
壁も天井も金色に輝く、とても豪華な部屋がまわりに広がります。
それは、ディニッサのお城のお風呂なのでした。
お風呂には、銀色の髪の女の子と金色の髪の女の人がいます。中身が海のディニッサと、侍女のユルテです。
本物のディニッサと陽菜が突然あらわれたわけですが、二人とも気付く様子がありませんでした。ディニッサたちは、透明人間のようになっているのです。あちらの景色は見えるのですが触ることはできません。また、むこうに声は届きません。
これはディニッサにも意外なことでした。
せっかく海にアドバイスを送ろうとしたのに、意思の疎通ができないのです。
「もう時間切れじゃ」
結局、なにもできないまま魔法が解けてしまいました。
* * * * *
「お兄ちゃん、起きてよ。重いよ」
ディニッサは陽菜に揺り起こされます。
魔法から先に復帰したのは陽菜の方でした。
「今度は、そなたの方が先に目覚めたようじゃな」
「お、お兄ちゃん、変なこと言わないでよ」
* * * * *
最初は疑っていた陽菜ですが、そのうちディニッサと兄が入れ替わったことを信じてくれました。自分の兄が、夢の中のできごとを知っているのですから、さすがの陽菜も信じざるを得なかったのです。
「なあ、そろそろ食堂にいかぬか? わらわはお腹がへってしまったのじゃ」
陽菜が現状を把握したところで、ディニッサは要望を告げました。
さっきからお腹がペコペコなのです。
陽菜たちはこんな立派なお城に住んでいるのだから、さぞや素晴らしい夕食が出て来ることでしょう。ディニッサは期待でワクワクしました。
「食堂? やだよ。もう暗いし、外に出たくない」
しかし陽菜の反応はつれないものでした。
けれどそれも仕方ありません。二人の認識が噛み合っていないのです。
「外? どうして外にいかなければならぬのじゃ。ここは3階あたりじゃろ?」
「5階だけど。それがどう関係あるの?」
「5階もある城の保有者が、食堂ひとつ持っていないなどありえんじゃろ?」
「城? あー、ディニッサの常識だと、そうなるんだ……」
城主なのですから、城の内部にいくつかの食堂があるのが当然です。じっさいにディニッサのお城には、身分や人数により違った食堂が用意されています。けれどここは陽菜の城などではなく、ただのワンルームマンションです。もちろん食堂などありません。
ディニッサの勘違いに陽菜がため息をつきます。
ただの賃貸マンションなのに、お城などと思われても困ります。
「ここはワンルームマンションといって、たくさんの人たちがそれぞれ暮らすおうちです。私たちの自宅は、奥の鉄の扉から内側だけです。はい、わかった?」
ディニッサは驚愕しました。
「はあ!? 狭すぎじゃろ、家畜ですらもっとマシな家をもっていよう」
ディニッサのお城では天馬が飼われているのですが、もっと立派で広々とした厩舎が与えられています。とは言え、それはディニッサが特別だっただけです。あちらの世界でも、普通の人はそれほど良い暮らしはしていません。
「お兄ちゃんが頑張って働いたお金で借りている家に、文句言わないで」
ディニッサの言いように、陽菜は気を悪くしたようでした。
ディニッサは反省しました。貧乏で人間以下の惨めな暮らしをしているとしても、それを責めるのは良くないことです。
「む……。それは、悪かった。そなたらは、最下等の貧民なのじゃな。こういう暮らしをしている者も、いるとは聞いた事がある」
「そこまで貧しくないよ……」
ディニッサは、陽菜たちが悲惨な境遇にいるのだと理解しました。
そして、多少助けてやっても良いな、などと偉そうに考えたのでした。
入れ替え魔法の影響か、陽菜は夢の世界でも眠っています。
ディニッサは心配になりました。自分のせいで陽菜が死んでしまうかと思ったのです。
基本的には、ディニッサは優しい女の子なのでした。
けれど陽菜は、すぐに目を覚ましてくれました。
ホッとしたディニッサは、陽菜に声をかけます。
「ようやく目を覚ましたか。安心したのじゃ。わらわが誰か、わかるかの?」
「……ディニッサ?」
陽菜の様子に変わったところはありません。
ディニッサのことも、ちゃんとわかっているようです。
「うむ。記憶はたしかなようじゃな。では現状の説明をしようか」
「はは、現状ってなにそれ。ホント変な夢」
陽菜は笑ってディニッサの言うことを聞いてくれません。
どうやら夢を見ていると思われたようです。この世界で会ったのが失敗でした。灰色の空間でフワフワ浮かんでいる状態なのですから、夢だと思うのも自然でしょう。
* * * * *
いくらディニッサが説明しても、陽菜は納得してくれませんでした。
ディニッサは仕方なく、海への連絡を優先することにしました。陽菜の兄は、何も悪くないのに巻き込まれてしまったのですから、そのまま放置するわけにはいきません。
夢の世界が消えて、まばゆい光がまわりに溢れました。
壁も天井も金色に輝く、とても豪華な部屋がまわりに広がります。
それは、ディニッサのお城のお風呂なのでした。
お風呂には、銀色の髪の女の子と金色の髪の女の人がいます。中身が海のディニッサと、侍女のユルテです。
本物のディニッサと陽菜が突然あらわれたわけですが、二人とも気付く様子がありませんでした。ディニッサたちは、透明人間のようになっているのです。あちらの景色は見えるのですが触ることはできません。また、むこうに声は届きません。
これはディニッサにも意外なことでした。
せっかく海にアドバイスを送ろうとしたのに、意思の疎通ができないのです。
「もう時間切れじゃ」
結局、なにもできないまま魔法が解けてしまいました。
* * * * *
「お兄ちゃん、起きてよ。重いよ」
ディニッサは陽菜に揺り起こされます。
魔法から先に復帰したのは陽菜の方でした。
「今度は、そなたの方が先に目覚めたようじゃな」
「お、お兄ちゃん、変なこと言わないでよ」
* * * * *
最初は疑っていた陽菜ですが、そのうちディニッサと兄が入れ替わったことを信じてくれました。自分の兄が、夢の中のできごとを知っているのですから、さすがの陽菜も信じざるを得なかったのです。
「なあ、そろそろ食堂にいかぬか? わらわはお腹がへってしまったのじゃ」
陽菜が現状を把握したところで、ディニッサは要望を告げました。
さっきからお腹がペコペコなのです。
陽菜たちはこんな立派なお城に住んでいるのだから、さぞや素晴らしい夕食が出て来ることでしょう。ディニッサは期待でワクワクしました。
「食堂? やだよ。もう暗いし、外に出たくない」
しかし陽菜の反応はつれないものでした。
けれどそれも仕方ありません。二人の認識が噛み合っていないのです。
「外? どうして外にいかなければならぬのじゃ。ここは3階あたりじゃろ?」
「5階だけど。それがどう関係あるの?」
「5階もある城の保有者が、食堂ひとつ持っていないなどありえんじゃろ?」
「城? あー、ディニッサの常識だと、そうなるんだ……」
城主なのですから、城の内部にいくつかの食堂があるのが当然です。じっさいにディニッサのお城には、身分や人数により違った食堂が用意されています。けれどここは陽菜の城などではなく、ただのワンルームマンションです。もちろん食堂などありません。
ディニッサの勘違いに陽菜がため息をつきます。
ただの賃貸マンションなのに、お城などと思われても困ります。
「ここはワンルームマンションといって、たくさんの人たちがそれぞれ暮らすおうちです。私たちの自宅は、奥の鉄の扉から内側だけです。はい、わかった?」
ディニッサは驚愕しました。
「はあ!? 狭すぎじゃろ、家畜ですらもっとマシな家をもっていよう」
ディニッサのお城では天馬が飼われているのですが、もっと立派で広々とした厩舎が与えられています。とは言え、それはディニッサが特別だっただけです。あちらの世界でも、普通の人はそれほど良い暮らしはしていません。
「お兄ちゃんが頑張って働いたお金で借りている家に、文句言わないで」
ディニッサの言いように、陽菜は気を悪くしたようでした。
ディニッサは反省しました。貧乏で人間以下の惨めな暮らしをしているとしても、それを責めるのは良くないことです。
「む……。それは、悪かった。そなたらは、最下等の貧民なのじゃな。こういう暮らしをしている者も、いるとは聞いた事がある」
「そこまで貧しくないよ……」
ディニッサは、陽菜たちが悲惨な境遇にいるのだと理解しました。
そして、多少助けてやっても良いな、などと偉そうに考えたのでした。
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