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形勢が逆転しましたわ

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 イルヴァ妃の侍女じじょは水晶を見守り人に渡しました。
 再生された映像には、目の前にモンティージャ公爵が映っておりました。きっと二人で話をしていた時に、イルヴァ妃が小さな映像記録水晶を懐に忍ばせていたのでしょう。
 映像の中のモンティージャ公爵は、とても上機嫌な顔をしております。

『それで、バレンティア殿下に罪をきせる算段はついたのですか』

 声だけのイルヴァ妃が、モンティージャ公爵に問いかけました。

『ああ、証人を買収、もしくは脅すことにした。一つを捏造ねつぞうしたとなれば、あとの証拠も怪しまれるからな。まあ、一応、証拠は消しているが……ダンドロ帝国にもらった高価な調度品を捨てるのはとても心苦しい』

 距離の近さからモンティージャ公爵の音声もばっちりと入っておりました。
 モンティージャ公爵の発言は決定的であり、もう何も言い訳はできないでしょう。とてつもない、何よりの証拠になります。

『脅して……』
『ああ、主にカジェタノにやらせている。親兄弟、妻をさらったり……やり方は様々だ。カジェタノは相手の一番に嫌がることをするのが上手い』

 映像の中のモンティージャ公爵は嫌な笑い声を上げました。心無い者の笑い方です。

『……マヌエラ殿下には、伝えたのですか』
『伝えた。まあ、マヌエラも薄々気づきながら、万が一を思って知らぬふりをしていたのだろうがな。しかし知らなかったでは済まない金額だから、さすがにこちらに手を貸したよ。せっせと貢いで正解だった』

 映像の中のモンティージャ公爵は、楽しそうに話を続けます。

『それにしても、バレンティアを失脚させるのが、こんなにも上手くいくとはなあ……バレンティアは操り難いから、マヌエラをそそのかせと言ったが……わが息子ながら悪事が上手いな』

 私はとても腹が立ちました。モンティージャ公爵とカジェタノはこの国を帝国に売るつもりだったのでしょうか。



 映像が全て流れ終わると、謁見えっけんの間は静まり返りました。

「他の証拠は、裁判の時までに提出いたします」

 エドガルドの言葉に意識を取り戻したのか、みなざわざわと各々の話を始めます。
 するとモンティージャ公爵が少し後ろに後退し、次に出口に向かって走り出そうとしました。しかし近衛兵が捕らえます。

「お前、なぜ、なぜ裏切ったあ!」

 モンティージャ公爵の呪詛のような声が謁見の間に響き渡りました。

「わ、私は知らなかった! 本当……本当よ! 騙された……騙されたのよお!」

 動揺したマヌエラが顔を手で覆いながら叫びました。そしてその場に座り込みます。マヌエラとカジェタノの後ろにも、近衛兵がつきました。
 カジェタノは奇妙な程の無表情で立ち尽くしておりました。

「陛下、ご決断を」

 宰相が王に向かって言いました。
 王は頭を抱えておりましたが、しばらくすると顔をあげました。目を細めてイルヴァ妃を見つめますが、視線を反らし口を開きます。

「マヌエラ、並びにモンティージャ公爵とカジェタノ……そしてイルヴァを捕らえろ」

 王の一言で四人に拘束具が取り付けられました。これによって魔法も使用することはできません。

「うう……許さん……許さんぞ……」

 モンティージャ公爵は低い声で言いながら、イルヴァ妃をねめつけます。しかし両手を拘束されたイルヴァ妃は、視線を真っ直ぐに向け全く動揺していないようでした。
 私は美しいイルヴァ妃の顔を見続けます。

「こんなことが許されるのか……」

 不気味なほどに静かだったカジェタノが、突如として口を開きました。

「全て、全て貴方の思い通りですか、バレンティア!」

 カジェタノの大きな声に、私は肩を揺らしました。

「自身の力でマヌエラと入れ替わり、我々の弱点を見つけ払い落とす……さぞや良い気分でしょうねえ」

 カジェタノは暗い淀んだ瞳で私を見ました。

「……しかし貴方も罪を犯しているでしょう」

 また濡れ衣を着せようとしているのでしょうか。私は腹が立ち一歩前に出るとカジェタノを見据えて言いました。

「何を、また濡れ衣をきせるつもりか」

 カジェタノは無表情に戻ると静かに口を開きました。

「濡れ衣? この期に及んでまさか……貴方の罪はエドガルドと密通している、という事実です」

 私は大きく目を見開き動揺しました。決して密通などはしておりませんが、好きあっていることは確かです。
 男と違い、子供を産める人数が限られている女王は、七代貴族以外と体を重ねてはいけません。それは女王として教育を施された私にも当てはまります。ですから私とエドガルドが密通しているとしたら、何かしらの罪に問われるのです。
 私の動揺をさとったのか、王が怪訝な顔をして言いました。

「バレンティア……本当か?」
「違います! 決して密通などは……」

 そこまで言って、私はきつく瞳を閉じました。決して密通などはしていないけれど、でもエドガルドと結ばれたいと思ってはいます。

「だから……バレンティア殿下の心が私に無いことを知っていたから……だから私は今回、このようなことをしてしまったのです!」

 カジェタノの叫びに、謁見の間はざわつきました。カジェタノはあくまでも私のせいにしたいようです。
 私は目を開き慌てて言い訳をしようとして、しかし今こそ覚悟を見せる時だ、と口を閉じゆっくりと息を吐きました。
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