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SS番外集
とある日のいちゃいちゃ。
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「……おいしそー」
ぽつり、呟いた声が原田の耳に届いた。
課題をやっていた原田は、珍しくかけてあるテレビに視線を移す。近くでスケッチブックを手に絵を描いていたはずのアオの視線が、テレビ画面に向けられていたからだ。
「……ケーキ?」
思わず呟けば、それを引き継ぐようにテレビ画面の向こうで、アイドル達が手に持ったスプーンをこちらに向けた。
そのスプーンには、すくわれたチョコケーキ。
『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』
思わず、口から飲んでたお茶を流しそうになった。もちろん外側に向けて。
……ケーキとキスって、比べられるのか。
どっちが好きとかあるのか。
俺的にはどっちも……
「……」
「……」
視線を感じて、思考の海から這い登る。
思わず顔を向けると、アオと目があった。
きょとんとしたその目が、何かを訴えている。
訴えられている。
「……」
「……」
やばい、まずい、なんだこれ。
何か望まれている、何か期待されている。
「……」
「……」
アオは挙動不審な俺を見てニコリと笑うと、立ち上がって台所へと歩いて行った。
見ると手元のグラスが空になっていて、おかわりを取りに行ったらしい。
ホッとしたような、なんかちょっともったいないような。
「……もったいないってなんだ!」
「何言ってるの、ななしくん」
「……!!」
思わず飛び上がった。
座ったまま飛び上がるという、偉業を成した。
阿呆だ。
アオはそんな俺を不思議そうに見ながら、持ってきたお盆を座卓の上に置いた。
「おやつ食べよう、おやつ」
買っておいたんだー、と見せられたそれは。
「え、これ……」
透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボンのパッケージ。
……さっき、これ、テレビの向こうに見なかったか?
「うん、初恋ショコラ。昨日CMで見たら、おいしそうだったんだもん」
原田の疑問を払拭するかのように、アオはそのパッケージに包まれたプラスチックケースをことりと目の前に置いた。
「まだ佐々木くん達来ないよね?」
「え……? あ、う……おう」
ちらりと時計を見れば、あいつらが来ると言った時間の一時間前を針は差している。アオは嬉しそうに笑うと、 スプーンを俺に手渡して自分の席に腰を下ろした。
「今日、ななしくんしか来ないと思ってたから、二つしか買ってなかったの。来る前に食べちゃおう?」
えへへーと悪戯っぽく笑うと、パッケージを破いて中身を取り出した。つられるように原田もそのパッケージに手を掛ける。
その美味しさとローカロリーという事、そして国民的アイドルと呼ばれる人気芸能人がCMしている事もあって人気商品だと聞く。
佐々木が確か、買えない買えないって騒いでいた気がする。
テレビをあまり見ない原田でも知ってる、コンビニの人気商品。
アオが二人で食べようと買っておいてくれたことが、何気に嬉しい。
黒い色の蓋をぱかりと開けて、いざ食べようとしたその時。
「ケーキと私のキス、どっちがすき?」
口元に差し出された、小さなスプーンにすくわれたケーキ。その指先を辿っていくと、アオの興味津々な顔。
「……な」
ぼんっ、と顔に血が集まる。
思い出すのは、つい箍が外れたあの日のこと。
本人は悪戯程度にしか思っていなかった軽いキスに、思いっきり爆発した自分の欲。
三人が帰った後、猛省して謝り倒した。
「……前のでこりた……だろ」
また馬鹿な事をしてしまいそうで、思わずその手を軽く押しのけてしまった。
これでいい。
……怖がらせたら、少しでも拒否られたらへこむ。
そう自分に言い聞かせて、スプーンを持ち直したら。
「……ななしくん……」
「……!」
アオの声に、がばっと顔を上げた。
そこには、へにゃりと眉尻を下げたアオの姿
「ごめんね。前にも迷惑かけちゃったのに、またやっちゃった」
「え?」
アオが謝る事なんて、何も……っ。
「私がふざけるからいけないんだよね。うん、ごめん!」
そう申し訳なさそうに笑ったその声は、原田の箍を外すのに確実に有効だった。
「……え?」
自分のスプーンを座卓に放ると、スプーンごとアオの手を掴んでぐっと引き寄せた。
アオの短くあげられた声ごと、その唇に自分のそれを重ねる。ほんの少しあわされたそれは、すぐに離れた。
「ケーキとあんたは、同列に、ならない」
真っ赤な顔のままそう言うと、原田はアオの手を離してケーキをかきこむように食べ始めた。アオはぽかんとした表情で原田を見ていたけれど、嬉しそうに目を細めるとがばりと原田に抱きついた。
「ななしくん、かわいい!」
「んなっ、かわいいってなんだ!!」
原田の首筋に顔を埋めたアオは、抱きしめた腕に力を込めた。
「大好きだよ、ななしくん」
そりゃどーも……、そう小さく呟く声が微かに耳に届いた。
おまけ。
「……ほんの三十分、早く来ただけなんだけどな」
「まぁ、見られてもいいって事だろ。土手から見える居間でイチャこらしてるんだから」
佐々木と井上が、柴垣の横から中を覗く。
少し早めに来てみたら、なんだかキスシーンに出くわしてしまった。
「まぁ、少し時間ずらして行けばいいんじゃねーの」
そう佐々木が土手の方へと視線を逸らしたその時。
「こんにちはー、アオさん」
「「……!!」」
辻が何の躊躇もなく庭へと入っていった。
大きな挨拶と同時に。
時間をずらそうとしていた佐々木と井上は、堂々と歩いていく辻の後姿を呆気にとられたように見つめていて。その辻の向こうでは、慌てふためく原田とアオの姿が見える。
「……辻、容赦ねーな」
「……岸田と上手い事いってないからなー」
意外と一番子供っぽいの、辻なんじゃないか? という疑問の元、二人は辻の背中を追いかけて原田達の元へと向った。
----------------------------------------
以前参加した、初恋ショコラ『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』、企画投稿のお話です。
ぽつり、呟いた声が原田の耳に届いた。
課題をやっていた原田は、珍しくかけてあるテレビに視線を移す。近くでスケッチブックを手に絵を描いていたはずのアオの視線が、テレビ画面に向けられていたからだ。
「……ケーキ?」
思わず呟けば、それを引き継ぐようにテレビ画面の向こうで、アイドル達が手に持ったスプーンをこちらに向けた。
そのスプーンには、すくわれたチョコケーキ。
『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』
思わず、口から飲んでたお茶を流しそうになった。もちろん外側に向けて。
……ケーキとキスって、比べられるのか。
どっちが好きとかあるのか。
俺的にはどっちも……
「……」
「……」
視線を感じて、思考の海から這い登る。
思わず顔を向けると、アオと目があった。
きょとんとしたその目が、何かを訴えている。
訴えられている。
「……」
「……」
やばい、まずい、なんだこれ。
何か望まれている、何か期待されている。
「……」
「……」
アオは挙動不審な俺を見てニコリと笑うと、立ち上がって台所へと歩いて行った。
見ると手元のグラスが空になっていて、おかわりを取りに行ったらしい。
ホッとしたような、なんかちょっともったいないような。
「……もったいないってなんだ!」
「何言ってるの、ななしくん」
「……!!」
思わず飛び上がった。
座ったまま飛び上がるという、偉業を成した。
阿呆だ。
アオはそんな俺を不思議そうに見ながら、持ってきたお盆を座卓の上に置いた。
「おやつ食べよう、おやつ」
買っておいたんだー、と見せられたそれは。
「え、これ……」
透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボンのパッケージ。
……さっき、これ、テレビの向こうに見なかったか?
「うん、初恋ショコラ。昨日CMで見たら、おいしそうだったんだもん」
原田の疑問を払拭するかのように、アオはそのパッケージに包まれたプラスチックケースをことりと目の前に置いた。
「まだ佐々木くん達来ないよね?」
「え……? あ、う……おう」
ちらりと時計を見れば、あいつらが来ると言った時間の一時間前を針は差している。アオは嬉しそうに笑うと、 スプーンを俺に手渡して自分の席に腰を下ろした。
「今日、ななしくんしか来ないと思ってたから、二つしか買ってなかったの。来る前に食べちゃおう?」
えへへーと悪戯っぽく笑うと、パッケージを破いて中身を取り出した。つられるように原田もそのパッケージに手を掛ける。
その美味しさとローカロリーという事、そして国民的アイドルと呼ばれる人気芸能人がCMしている事もあって人気商品だと聞く。
佐々木が確か、買えない買えないって騒いでいた気がする。
テレビをあまり見ない原田でも知ってる、コンビニの人気商品。
アオが二人で食べようと買っておいてくれたことが、何気に嬉しい。
黒い色の蓋をぱかりと開けて、いざ食べようとしたその時。
「ケーキと私のキス、どっちがすき?」
口元に差し出された、小さなスプーンにすくわれたケーキ。その指先を辿っていくと、アオの興味津々な顔。
「……な」
ぼんっ、と顔に血が集まる。
思い出すのは、つい箍が外れたあの日のこと。
本人は悪戯程度にしか思っていなかった軽いキスに、思いっきり爆発した自分の欲。
三人が帰った後、猛省して謝り倒した。
「……前のでこりた……だろ」
また馬鹿な事をしてしまいそうで、思わずその手を軽く押しのけてしまった。
これでいい。
……怖がらせたら、少しでも拒否られたらへこむ。
そう自分に言い聞かせて、スプーンを持ち直したら。
「……ななしくん……」
「……!」
アオの声に、がばっと顔を上げた。
そこには、へにゃりと眉尻を下げたアオの姿
「ごめんね。前にも迷惑かけちゃったのに、またやっちゃった」
「え?」
アオが謝る事なんて、何も……っ。
「私がふざけるからいけないんだよね。うん、ごめん!」
そう申し訳なさそうに笑ったその声は、原田の箍を外すのに確実に有効だった。
「……え?」
自分のスプーンを座卓に放ると、スプーンごとアオの手を掴んでぐっと引き寄せた。
アオの短くあげられた声ごと、その唇に自分のそれを重ねる。ほんの少しあわされたそれは、すぐに離れた。
「ケーキとあんたは、同列に、ならない」
真っ赤な顔のままそう言うと、原田はアオの手を離してケーキをかきこむように食べ始めた。アオはぽかんとした表情で原田を見ていたけれど、嬉しそうに目を細めるとがばりと原田に抱きついた。
「ななしくん、かわいい!」
「んなっ、かわいいってなんだ!!」
原田の首筋に顔を埋めたアオは、抱きしめた腕に力を込めた。
「大好きだよ、ななしくん」
そりゃどーも……、そう小さく呟く声が微かに耳に届いた。
おまけ。
「……ほんの三十分、早く来ただけなんだけどな」
「まぁ、見られてもいいって事だろ。土手から見える居間でイチャこらしてるんだから」
佐々木と井上が、柴垣の横から中を覗く。
少し早めに来てみたら、なんだかキスシーンに出くわしてしまった。
「まぁ、少し時間ずらして行けばいいんじゃねーの」
そう佐々木が土手の方へと視線を逸らしたその時。
「こんにちはー、アオさん」
「「……!!」」
辻が何の躊躇もなく庭へと入っていった。
大きな挨拶と同時に。
時間をずらそうとしていた佐々木と井上は、堂々と歩いていく辻の後姿を呆気にとられたように見つめていて。その辻の向こうでは、慌てふためく原田とアオの姿が見える。
「……辻、容赦ねーな」
「……岸田と上手い事いってないからなー」
意外と一番子供っぽいの、辻なんじゃないか? という疑問の元、二人は辻の背中を追いかけて原田達の元へと向った。
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以前参加した、初恋ショコラ『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』、企画投稿のお話です。
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