31日目に君の手を。

篠宮 楓

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26日目~28日目 原田視点

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今回で辻・岸田ターンは終了です。
次話から、ななしターンに戻ります^^
いやー、辻が黒かった(笑
趣味に走って、すみませんm--m

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 そこまで考えて自嘲気味に口端をあげたら、ぽんぽんと頭に重みがかかった。顔をあげれば、辻がその大きな手をゆっくりと岸田の頭にのせていた。
「優しいのは、岸田さんでしょう。原田に罪悪感を持たせたくなかったんだよね? どこまでお人好しなんだろ」
 まったく。
 そう溜息をつく辻はほんわかと微笑んでいて、一瞬、目を奪われた。

 ……顔の整ってる人は、本当に得だ。

 少し優しくするだけで、こっちの感情丸め込めちゃうんだから。
 ふてくされ気味に頬を膨らませて、唇をかんだ。

 ホントは、分かってる。
 それだけじゃない事。
 でもそう思わないと、優しさで泣けてくるから。

 その手の温もりが最近ずっと感じていた辻への不信感を、ゆっくりと溶かして行く。

 今考えれば、辻くんは全て気付いていたんだ。私が原田くんを好きな事だけじゃなくて。
 原田くんの好きな人の事。
 原田くんの気持ち。
 言われた言葉やされた態度はきついものだったけれど、それは全て事実で正論だった。正論だからこそ、辛かった。そして歯に衣を着せぬ彼が言ってくれた言葉が、卑怯だと貶した自分の想いを掬い上げてくれた。

 ――原田に罪悪感を持たせたくなかったんだよね?

 きつい言葉でも、ちゃんと伝えてくれる辻くんの言葉だから。それを、素直に受け入れられる。


 目を伏せると、しゃがみ込む膝に置かれている辻の左手が見えた。同じその右手が、置かれている自分の頭。失恋したばかりの自分には、甘すぎる温もりだ。馬鹿みたいに、泣きたくなってしまう。

 岸田はそれだけは嫌だと、そっと体を引いた。 
 届かなくなった辻の手のひらが、岸田の頭から外れる。
「ごめんね。辻くんに、嫌な態度、取って。あと、その……ありがとう」
 これ以上、辻の傍にいたら泣いてしまいそうだ。
 辻は右の手のひらに視線を向けてから、いや……と微笑んだ。
「本当は思いっきり振られてくれればよかったのになーと思ってるから、その態度でいいと思うよ」

 ……

「え?」

 優しい笑みとは裏腹の、全く似合わない言葉に岸田の思考が止まる。
 思いっきり振られ……?

 意味が解らないとばかりに見上げてくる岸田に、辻は一層笑みを深めて右手を下ろした。
「だって俺、さっさと諦めるか、振られるかしてくれないかなーって思ってたし」
 お礼を言われる事なんて、何もないよ。
 そう続ける辻に対して、岸田は呆気にとられて何も言えない。口をあんぐりと開けて、ただ辻を見上げていた。
「さすがにさっきは本音駄々漏れすぎで苛めすぎたなーと思ってさ。ほら、僕も子供だしさ」
 本音駄々漏れ過ぎ?

「それですぐ戻ってきたんだけど、岸田さんが原田といるのが見えたからさ。悪い事したなー、でも先に進めるかなーって気持ちが二対八」
 二対八って……。
「悪いと思ってないんじゃ……」
 まだ理解できていないまま、ただ気が付いたことを言葉にすれば、辻はこてりと首を傾げた。
「ほんの少しは思ってるよ。だからさ」

 そこまで口にした時、辻のズボンのポケットに入っていた携帯が震えだした。それを取り出して画面に視線を移した後、辻はすぐに岸田見下ろしてニコリと笑った。
「僕が拾ってあげるから。早く原田の事、忘れよっか」
「……は?」

 僕が、拾って、あげる?

 思っても見ない言葉に、岸田の思考はパニックに陥る前に固まった。
 意味、が。
 意味が解らない……。

 辻はにこにこ笑いながら、動きまで固まっている岸田の腕を取って一緒に立ち上がった。
「もうすぐ昼ごはんだね」
 突然普通の会話に戻されて、岸田の困惑は収まらない。
「ちょ、え、今のって……っ」
 懸命に言葉を紡ごうとする岸田の背を、辻は軽く押した。惰性で、二・三歩前に進む。

「ほら、顔でも洗ってきたら?」
「え、顔?」
「うん、酷いよ」
「え、酷い?」
「うん」

 よく分からないままもう一度背を押されて、岸田は歩き出した。
 酷い顔のまま原田に会えば、どうした? と尋ねられるだろう。それだけは嫌だから。

 だから、今は。

――僕が拾ってあげるから

 考える事を、放棄した。
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