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12・13日目 アオ視点
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翌日も、朝から気温が上がって青空が広がっていた。いつも通り庭先のベンチに行こうと思って、縁側で立ち止まる。
“そりゃそうだろ、目の前で倒れられたら焦るし! 部活の手前熱中症とかの対処方法くらいは習ってたからまだ対応できたけど、頼むから少し自重してくれ”
暑さにやられて倒れた時、焦った顔でどなっていたななしくんの声がふと浮かんだ。
「自重か」
手元のスケッチブックに目を落とす。
今日は縁側にいようかな。
そんな事を考えながら、その場に腰を下ろす。
青から始まった私の世界は、ゆっくりと……でも確実に色を増やし始めていた。
時間を忘れて、絵の世界に没頭する。
それでもふと脳裏に浮かぶななしくんの存在に、暗くもやもやとしていた感情がゆっくりと晴れていっているのが分かった。
それは絵筆を持つ度に、色をのせる度に実感として気付かされた。
前よりも無心で、前よりも心を込めてる。
不思議な感覚。
戻りたいと思った世界を突き抜けて、それ以上に居心地のいい穏やかな居場所。
これが聖ちゃんの言う、前に進むことなのかな。
一日一日、戻りたいという気持ちが変わっていく。
昨日見た、少し前の過去の自分。
振り返る事が出来たのは、自分の気持ちが穏やかになったから。
それは、ななしくん効果の賜物だ。
戻ってるんじゃない。もとの自分を取り戻すんじゃない。これからの自分を生きていく、未来。色を渇望する心は、絵を渇望する心は以前とは比べ物にならない。
「……いい、お天気」
いつも通り。
聞こえるのは、蝉の声、川風が揺らす草の音。川の流れ。
ここに来てよかった。
馬鹿な自分を理解することができてよかった。
これ以上……、自分の絵を貶さずに済んでよかった――
――そして。
「こんにちは、アオさん」
いつもの日常ではない声が、夕方に差し掛かる風景に響いた。
夕方とはいえまだ明るい日差しの中、その人影は三人。
最近見たその姿に、自然顔がほころぶ。
「ななしくんの、お友達」
縁側に座ったまま呟くと、さすがに声は届かなかったのか土手に留まったまま庭に入ってもいいかと問いかけてくる。
それに大きな動作で頷くと、私はスケッチブックを縁側に置いて立ち上がった。
三人は土手から庭先に入った直ぐの場所に自転車を止めて、こっちに歩いてくる。その姿を目で確認しながら台所に行って麦茶をグラスにいれて戻ると、縁側の傍に三人が立っていた。
「あ、アオさん。おかまいなく」
三人の中で一番落ち着いている辻くんが、申し訳なさそうに頭を下げた。一緒にいるさ……さ……、部長くんと伊藤くんは喜びの声を上げてお盆の上のグラスを手に取った。
「ありがとうございます、おねーさん!」
「頂きます、おねーさん!」
兄弟じゃないかしらと思えるくらい、タイミングのいい会話。辻くんは困ったように二人を見てから、もう一度頭を下げた。
「もし体調が良ければ、庭先でお茶しませんか?」
おやつ買ってきたんです、そう言うと手に持ったビニール袋を少し上げた。
「うわぁ、ありがとう。でも縁側の方が、涼しいよ?」
すでに縁側の傍にいるのに、庭先のベンチを指さす辻くんに首を傾げる。すると立ちながら麦茶を喉に流し込んでいた部長くんが、だってな……と伊藤くんをみた。
「家に上がったら、ななしくんに怒られそうだし」
「だな。家に上がったら、ななしくんに速攻打たれそう。態々ボール持ってきて」
よくわからないけれど、とりあえずななしくんに遠慮しているような言葉に、思わず口端が緩んだ。
「ななしくんは、大事にされてるんだねぇ」
その言葉に、弄られてるとも言います、そう笑った辻くんが、この中で一番怖そうな気がしました。
“そりゃそうだろ、目の前で倒れられたら焦るし! 部活の手前熱中症とかの対処方法くらいは習ってたからまだ対応できたけど、頼むから少し自重してくれ”
暑さにやられて倒れた時、焦った顔でどなっていたななしくんの声がふと浮かんだ。
「自重か」
手元のスケッチブックに目を落とす。
今日は縁側にいようかな。
そんな事を考えながら、その場に腰を下ろす。
青から始まった私の世界は、ゆっくりと……でも確実に色を増やし始めていた。
時間を忘れて、絵の世界に没頭する。
それでもふと脳裏に浮かぶななしくんの存在に、暗くもやもやとしていた感情がゆっくりと晴れていっているのが分かった。
それは絵筆を持つ度に、色をのせる度に実感として気付かされた。
前よりも無心で、前よりも心を込めてる。
不思議な感覚。
戻りたいと思った世界を突き抜けて、それ以上に居心地のいい穏やかな居場所。
これが聖ちゃんの言う、前に進むことなのかな。
一日一日、戻りたいという気持ちが変わっていく。
昨日見た、少し前の過去の自分。
振り返る事が出来たのは、自分の気持ちが穏やかになったから。
それは、ななしくん効果の賜物だ。
戻ってるんじゃない。もとの自分を取り戻すんじゃない。これからの自分を生きていく、未来。色を渇望する心は、絵を渇望する心は以前とは比べ物にならない。
「……いい、お天気」
いつも通り。
聞こえるのは、蝉の声、川風が揺らす草の音。川の流れ。
ここに来てよかった。
馬鹿な自分を理解することができてよかった。
これ以上……、自分の絵を貶さずに済んでよかった――
――そして。
「こんにちは、アオさん」
いつもの日常ではない声が、夕方に差し掛かる風景に響いた。
夕方とはいえまだ明るい日差しの中、その人影は三人。
最近見たその姿に、自然顔がほころぶ。
「ななしくんの、お友達」
縁側に座ったまま呟くと、さすがに声は届かなかったのか土手に留まったまま庭に入ってもいいかと問いかけてくる。
それに大きな動作で頷くと、私はスケッチブックを縁側に置いて立ち上がった。
三人は土手から庭先に入った直ぐの場所に自転車を止めて、こっちに歩いてくる。その姿を目で確認しながら台所に行って麦茶をグラスにいれて戻ると、縁側の傍に三人が立っていた。
「あ、アオさん。おかまいなく」
三人の中で一番落ち着いている辻くんが、申し訳なさそうに頭を下げた。一緒にいるさ……さ……、部長くんと伊藤くんは喜びの声を上げてお盆の上のグラスを手に取った。
「ありがとうございます、おねーさん!」
「頂きます、おねーさん!」
兄弟じゃないかしらと思えるくらい、タイミングのいい会話。辻くんは困ったように二人を見てから、もう一度頭を下げた。
「もし体調が良ければ、庭先でお茶しませんか?」
おやつ買ってきたんです、そう言うと手に持ったビニール袋を少し上げた。
「うわぁ、ありがとう。でも縁側の方が、涼しいよ?」
すでに縁側の傍にいるのに、庭先のベンチを指さす辻くんに首を傾げる。すると立ちながら麦茶を喉に流し込んでいた部長くんが、だってな……と伊藤くんをみた。
「家に上がったら、ななしくんに怒られそうだし」
「だな。家に上がったら、ななしくんに速攻打たれそう。態々ボール持ってきて」
よくわからないけれど、とりあえずななしくんに遠慮しているような言葉に、思わず口端が緩んだ。
「ななしくんは、大事にされてるんだねぇ」
その言葉に、弄られてるとも言います、そう笑った辻くんが、この中で一番怖そうな気がしました。
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