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12・13日目 アオ視点
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今日も、昨日と同じ真っ青な夏空が広がっていた。
吸い込まれてしまいそうなくらい、深く青い空。
ななしくんに、引き戻してもらえた青の色。
どこかで、ななしくんも見てたらいいな……そう思った。
夏の午後は、とても静か。
とくにここは隣の家との間も空いているし、目の前は川。
暑い最中、散歩する酔狂な人はそうそういない。
聞こえるのは、蝉の声、川風が揺らす草の音。
川の流れ。
人間の存在さえ忘れてしまう、人の気配は欠片もないこの家で。
私は希う。
もう一度、あの、感覚を。
もう一度、あの、場所に。
青色を、いくつも紙にのせていく。
薄いものから濃いもの。
白みがかったもの、たくさんの青。
「ななしくん、今、どこにいるんだろう」
ぽつり、呟く。
綺麗な青は、ななしくんが傍にいなくても心に鮮やかに映る。
けれど、ななしくんがいるともっともっと鮮やかで爽やかだ。
しばらく来れないって言ってた。
しばらくって、どのくらいだろう。
約束もしていないのに、毎日来てくれるななしくん。
「ふふ、優しいよねぇ」
ほわり、笑みが浮かぶ。
目の前の青が、鮮やかさを増していく。
「ななしくん効果だねー」
絵筆は色水を吸って、白を染め変えていく。
白一色の画面が、いくつもの色に染まっていく。
そうだね。うん、そう。
描いている時は、無心じゃない。
少し前、自分が口にした言葉を否定する。
大切なものを思い浮かべながら描いたら、その絵には私の心が宿るのかもしれない――
吸い込まれてしまいそうなくらい、深く青い空。
ななしくんに、引き戻してもらえた青の色。
どこかで、ななしくんも見てたらいいな……そう思った。
夏の午後は、とても静か。
とくにここは隣の家との間も空いているし、目の前は川。
暑い最中、散歩する酔狂な人はそうそういない。
聞こえるのは、蝉の声、川風が揺らす草の音。
川の流れ。
人間の存在さえ忘れてしまう、人の気配は欠片もないこの家で。
私は希う。
もう一度、あの、感覚を。
もう一度、あの、場所に。
青色を、いくつも紙にのせていく。
薄いものから濃いもの。
白みがかったもの、たくさんの青。
「ななしくん、今、どこにいるんだろう」
ぽつり、呟く。
綺麗な青は、ななしくんが傍にいなくても心に鮮やかに映る。
けれど、ななしくんがいるともっともっと鮮やかで爽やかだ。
しばらく来れないって言ってた。
しばらくって、どのくらいだろう。
約束もしていないのに、毎日来てくれるななしくん。
「ふふ、優しいよねぇ」
ほわり、笑みが浮かぶ。
目の前の青が、鮮やかさを増していく。
「ななしくん効果だねー」
絵筆は色水を吸って、白を染め変えていく。
白一色の画面が、いくつもの色に染まっていく。
そうだね。うん、そう。
描いている時は、無心じゃない。
少し前、自分が口にした言葉を否定する。
大切なものを思い浮かべながら描いたら、その絵には私の心が宿るのかもしれない――
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