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そういう終わりってアリですか。2

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重光先生の所に新しく入った秘書の子の名前が、沙織さんと知ったのはほんの少し前。
燗に知られるとうっとうしいから、なんとかばれないよう配達先で教えてもらった。
久遠沙織さん。
可愛いよなぁ……。

昼に見た彼女の姿を思い出しながら、雪に呼ばれてテーブルに着く。
そこに並べられた夕飯を見た途端、醸は素で呟いた。
「……なんでここんとこ、飯がイカ続きなの?」
疑問に思いつつ、醸は端を手に持つ。
イカ刺しと、イカと里芋の煮っ転がし。塩辛……。
コレステロール満載だなオイ。

そんな醸の言葉に何も反応せずに、燗は晩酌を楽しんでいるようだ。
机の真向いでイカ徳利に入った日本酒をイカお猪口に注いで、くぴくぴとさっきから杯を進めている。
醸と雪はほどほどしか飲まないが、燗と吟はザルだ。
さすが酒屋を継ぐべく生まれた男。
そこから考えれば吟がここを継げばよかったんじゃないかとも思うけれど、燗と吟は昔からご近所様に「混ぜるな危険」と言われていたから無理だっただろうと醸は納得はしている。
似た者親子、仲もいいけど喧嘩すると収拾がつかなくなるのだ。
学生の頃バイトだといっていろんな地方に月単位で行きまくっていた(そうすることで、両親の砂吐き攻撃から逃げていた)吟は、元々のべらんめぇ口調にいろんな土地のお国言葉が混ざり合っている。
それで喧嘩されると、カオスすぎて誰も近づけない。
母親である雪は、そんな二人の横でも普通に笑ってご飯を食べていられるからあてにならないし。

吟がいてもいなくても大変なのは変わらないけれど、それでも出て行ってほしくはなかった。
忙しい両親に代わって、醸を面倒見てくれた姉の吟。
口も悪ければ態度も悪い燗そっくりな姉だけれど、醸にとっては大切で大事な姉。
いつか姉孝行をするんだというその思いで育ってきたのに、成人して社会人になったらその途端姉の引っ越し。

それもこれも……、燗と雪の所為なわけだが。

ちらりと視線だけ上げれば、居酒屋「とうてつ」の女将、籐子さんお手製の塩辛をアテに、イカ徳利からイカお猪口に注いだ日本酒を飲む燗。
どんだけイカ尽くしだよ!!
朝になればイカソテー、昼になればイカリングフライ、夜はいかめしの時もある。
イカは好きだけど、限度ってものがあるだろう!

親父ながらムカツク。
そう思いながらイカ刺しを食べていた醸は、視線を感じて顔を上げた。
ばちっと燗と目が合う。
燗の口元がニヤリと引き上げられているのに気付いて、思わず顔をしかめた。
「なんだよ」
「……いやぁ、お前がイカ食ってるの見るとなんかこう、おセンチになりそうだ」
「おセンチ?」
「センチメンタル? 哀愁? 切なさ? 馬鹿息子?」
「うるせぇよ、馬鹿親父」
喧嘩売ってんのか。
俺は里芋とイカの煮っころがしに箸をつけながら、ため息をついた。
「なんで息子がイカ食ってんの見て切なくなるんだよ。感情のメーター吹っ切れた? てか、まだ常識残ってた?」
べらべらと文句を言えば、燗はフッと笑ってくぴりと杯を仰いだ。
「知らないってのは一番いいねぇ。イカ様食ってるお前、すんげぇ切ないぜ醸くんや」
「馬鹿じゃないの」
イカに様付けって、とうとう脳みそ酒に漬かったか。





そしてしばらくの後。





『重光先生と久遠さんご婚約おめでとうございます!』




「は?」





こうして篠宮酒店時期店主 篠宮醸くんの恋は、芽吹くこともなく足の裏でこれでもかと踏みつけ摘み取られたのである。



「イカの馬鹿野郎ぉぉぉぉ!!」
やっとイカ尽くしの謎を教えてもらった醸は、しばらくイカを食べられなくなったという。
からかうネタが増えたと、燗がほくそ笑んだのは当然の流れ。




姉さん。篠宮酒店は、今日も通常運転……したくないなぁ……俺だけ。
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