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6.橋本病と励ましと。

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 橋本病というのをご存じだろうか。
 甲状腺疾患の一つで、自己免疫の異常が原因の病気だ。
 バセドウ病の方が知っている人が多いと思うが、その反対の症状が出るといえばいいだろうか。
 ほとんどの方が自覚症状も実際のホルモン異常もなく、薬を飲むことなく正常機能で過ごしていける人もいる。
私はその中でも、甲状腺機能低下症を発症していて薬をずっと飲んでいるしこれからも飲んでいかなければならない。


 橋本病は、車で例えるならガソリンが足りない状態。
 アクセルを踏んでも踏んでも、身体がうまく活動してくれない。
 ご飯を食べる気力は少ないくせに、内臓の活動も減ってるから太っていく。水を飲んでも太る気分。乾燥も酷く、冬じゃなくてもあちこちガサガサ。楽しい事を目の前にしても、気が滅入って動きたくない。
 色々な症状が出てくることから、病名にたどり着くのが中々に難しいらしい。
 私がラッキーだったのは、違う病気でかかったお医者さんが甲状腺の専門医で、首の腫れから気が付いてもらえて血液検査で確定した。
 
 そこまで酷くない数値だったけれど、安定するのに時間がかかった。


 橋本病は甲状腺が慢性的に炎症を起こし甲状腺ホルモンが正常に生産されなくなるわけだけれど、基本薬を飲んでいれば正常値を保って症状も出ないで暮らしていける。
 併発する病気がないとも言えないけれど、安定できればほとんどの人が普通の人と同じように暮らしていける。
 私は薬によって正常値になるまで、1年半以上かかった。

 無痛性甲状腺炎を途中で発症し、気が付いたらバセドウ病と同じような症状が出ていた。
 しばらくすれば落ち着くよと言われたが、それまでに4カ月ほどかかった。そこからまた橋本病に振れて、身体が慣れないというより精神的に参ってしまった。
 もう一つある治療中の病気に、甲状腺疾患が関わってくるからだ。

 
 症状だけ聞けば大したことのない病気なのかもしれない。
 けれどどんな病気もキャリアにとっては、身体にも精神にも影響を与えてくるしんどいものだ。
 
 「病気って言っても症状はよくあることなんだから大丈夫! 前向きにいこうよ、薬飲めば大丈夫なんでしょう?」

 優しさからかけてくれた言葉だとは分かってる。分かっているからこそ、しんどい励ましの言葉。
 素直に励ましだと受け取れない自分が嫌になった。
 
 多分ね、辛い時は励ましはいらないと思う。
 今の自分の状態を聞いてくれて
「大変だよね。辛いよね」
 ただ、その言葉だけでいいと思う。

 自分自身で上向いていかないと、どんなに励まされてもどん底から這い上がる事なんてできないんだもの。
 励ましの言葉は、どちらかといえば這い上がろうとする身体を押し戻してくる力に思える。

 自分自身が嫌になるけど、そうなんだから仕方がない。

 少しでも自分の口から前向きな言葉が出た時、励ましの言葉を素直に受け入れられるのはそれからだなって落ち着いてきた今はそう思う。


 「頑張れ」

 は、とてもやさしい言葉。そしてとても厳しい言葉。
 言われる時も、言う時も、大切に扱いたいなとそう思う。
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