キス×フレンド

あお

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「……隆太、また俺が寝る布団で寝てるし」






土曜日、俺はさも当たり前のように隆太の家に泊まりに来た。文化祭準備でゆっくり話す時間もないから、余計泊まる頻度は上がった。


俺が風呂から上がって隆太の部屋に足を踏み入れると、先に風呂から上がった隆太が何故か俺の為に敷かれた布団で眠っていた。


隣に自分のベッドがあるにも関わらず、どうして布団で寝てるんだろう。


隆太はベッドより布団の方が好きなんじゃないかって思う程、よく布団で寝てる。


寝巻きにしている黒のスウェットに身を包み、お腹辺りまで掛け布団を被って寝ている所を見れば、正に布団で寝る気満々といった感じだ。


しかもこんなに気持ち良さそうにしてたら、起こしにくいじゃん。



「隆太、寝るならベッド行け」


「…………」


「りゅーた」



規則正しい寝息を立てる隆太は、声をかけただけでは起きる気配がない。


とりあえず頬をつねってみたけれど、微動だにしない隆太に仕方ないなと溜息を吐く。


俺は一体、どこで寝ろって言うんだよ。


何をしても起きないからと、とりあえず隆太の髪の毛を指で弄ぶ。


照明に照らされて光る前髪を掻き分けて、露わになった隆太の顔をそっと覗き込んだ。


相変わらず、睫毛が長い。


見慣れてる筈なのに、隆太の寝顔に少しだけ鼓動が速くなる。


俺の指先は自然と隆太の唇へと伸びて行き、柔らかい感触に触れた。


ふに、ふにっと何度か押してみて、今日キスをしていない事を思い出す。


もし、隆太が好きな人に告白して。


相手も隆太が好きで、二人が恋人同士になったら。


今以上に会えなくなるのか。


もう、キスもしなくなるんじゃないのか。


そんな考えが、一瞬で頭を駆け巡る。


きっと恋人が出来たら恋人優先になるに決まってる。


もうこんな風に泊まりに来たりとか、キス、したりとか出来なくなるんだろう。


それはちょっと、いや、かなり嫌かも知れない。


この日常が、日常じゃなくなるなんて。


そんなの嫌だ。


取られたくない。


奪われたくない。


誰にも。





かけていた眼鏡を外して、枕元に置く。


まだ乾いていない髪の毛からは、ぽたりぽたりと雫が滴り落ちて床に吸い込まれていった。


きっと、俺は今凄く酷い顔をしているんだろう。


だって、こんなにも、息苦しい。




「……ん、」




俺は吸い寄せられるように隆太の唇に自分の唇を寄せる。薄っすらとかさついた唇に胸の痛みが増した。


隆太の頭をそっと撫でて、もう一度キスをする。




あ、ヤバイ。もっと、したい。起きないから、もう一回。




寝てる隆太にキスをするなんて、と思ったけど、そんな考えは一瞬で消えていった。


一度触れてしまえば、もう自分では止まれない。


隆太とのキスに身体が高揚するのがわかった。もっと、もっとと身体が叫ぶ。


柔らかい唇の感触が、俺をどんどん追い詰めていく。一瞬でも離すのが名残惜しくて、さっきからずっと酸欠だ。


唇を少しだけ離した瞬間に空気を取り込もうとするけれど、それよりも先に唇は自然と隆太の唇へと落ちていく。


いつの間にか唇が触れ合う音だけが俺の聴覚を支配していた。




「んっ……ん、…………ん」




触れる度、身体は今までに感じた事のない熱を帯び始める。


どんどん上昇していく体温と比例して、思考回路は機能をどんどん低下していった。


隆太、早く起きてくれ。


じゃないと、自分じゃ止められない。


行き場の無い熱が俺の中で駆け巡り、どれ程の間キスしていたのかわからなくなる頃には、縛った唇から耐え切れない吐息が漏れ出していた。



「……ふっ…………ぅ」



息苦しいくせに、何度も狂ったようにキスを繰り返していた俺は、いい加減止めないとと思いなんとか隆太から顔を上げた。


その瞬間、隆太の瞳に俺の姿が映ってる事に気付いた。



「りゅ、た…………起きっ……!?」

「……ん、ぅ……」



薄っすらと目を開け、身動ぎをする隆太に少しずつ血の気が引いていく。


一度ゴクリと喉を鳴らして現状を把握すると共に、背中に嫌な汗が流れた。


普段キスをしているからって、この 状況はかなりおかしい筈だ。


寝てる相手に、何度もキスするなんて。


流石にあれ程キスをすれば、起こしてしまうのも無理はない。


自分で早く起きてくれと願っておきながら、いざ隆太が目を覚ましたら、この状況をどう説明すればいいのかわからず挙動不審になる。



「隆太、あの、これは……」



目を泳がせ、しどろもどろになりながら言い訳を探した。


けど、ああ、無理だ。言葉が出てこない。


脳みそは、さっきのキスで酸欠状態。この状況を打開する上手い言い訳なんて、思いつく筈もない。


結局何も言えずに口籠った俺は、未だに何も言葉を発さない隆太の反応をただ待つしかなかった。


先程とは、別の意味で心臓がバクバクしてる。底知れぬ恐怖が俺を襲い、身体の自由を奪う。


絶対、言われるに決まってる。何してんだって。


無意識に身体を強張らせる俺の耳に、少しの間を置いて掠れた声が届く。


反射的にギュッと目を瞑るも、その言葉は俺の予想とは全く違うものだった。



「あれ……太一…………夢?」

「…………え?」



耳に入ってきた言葉の意味が直ぐに理解出来ず、俺は疑問符を浮かべた。


今、夢って、言ったのか。


夢、だなんて、隆太は寝ぼけてるのか。もしかして、起きてなかったりする、のか。


隆太の顔の前に、手をかざしてみる。隆太は特に反応らしい反応を見せない。


大丈夫、なのか。


もしかしたら、さっきのキスも認識してないのかも知れない。起き上がる気配すらない事からも、寝ぼけている可能性は高い。


瞬間、俺は心の底から安堵し、深い溜息を吐く。


よかった。この様子なら、さっきのは気付かれてない、よな。


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