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1.2 魔法祭まで

1話 一人目

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 とうとう登校日になってしまった。男爵家から学園まで3日ほど距離があるため、シャルロット様と俺は馬車に乗ろうとした。その時、フィクルさんが話しかけてくる。



「ヘンリー様。どうかシャルロットお嬢様をよろしくお願いいたします」



「はい」



 フィクルさんを含め、大勢の使用人は男爵家に残る。学園の近くも男爵家の屋敷があるため、男爵家から使用人を連れていくことはない。



 ハイーラ様もシャルロット様に挨拶をして、俺に一声かけて男爵家を後にした。馬車の中では今まで通り魔法の雑学を教えてあっという間に都市---ルートックに着いた。本日は学園の人たちが集まるパーティが開かれる予定のため、男爵家の屋敷で簡単な身支度をしてすぐさまパーティ会場に向かう。



 会場に近づくにつれてシャルロット様の体が震え始めているのがわかる。



(普通だよな...)



 実力が付いたからって恐怖心が消えるわけじゃない。学園の人にバカにされる。そのようながまた起きるかもしれない。そう思っているのだと思う。俺はシャルロット様の手を握り始める。



「え? 先生?」



「シャルロット様はお強くなられました。自信を持ってください」



「は、はい...」



「それに私が付いています。何があろうとシャルロット様から離れたりしませんので」



「うん。ありがと」



 すると徐々に体の震えが消えていくのが分かる。



(よかった)



 数分経って会場に着き、中に入る。誰もが俺たちを見ていた。蔑むような目や興味もないような目で俺たちを見てきた。



 学園長の挨拶が終わり、俺たちは会場内でおとなしくしていると一人の学生がこちらにやってきて話しかけてくる。



「おいシャルロット! 魔法は覚えたか?」



「覚えましたよ」



 すると怒鳴りながら罵声を放ってくる。



「嘘をつくな! お前がまともに覚えられるはずないだろ!」



「いえ、きちんと覚えました」



 シャルロット様も負けじと言い返している。だけど徐々に俺たちに視線が集まっていき注目を集める。



「そこの家庭教師が仕事でもしたのか? あまり優秀そうにも見えないけどな」



「そんなことありません! 先生はすごい人です!」



「は! 言うことなら誰でもできるんだよ! お前に雇われるってことは所詮は3流の教師なんだろ? 雑魚は雑魚らしくおとなしく家で待ってろよ。こんなところに来るな」



 この数週間の努力に加え、シャルロット様の存在すら否定された気がした。俺は我慢ができなくなってしまい言い返してしまう。



「おい。外野は黙ってろよ。シャルロット様がどれだけ努力したかも知らないくせによ」



「使用人の分際で何を言ってるんだ。貴族の家庭教師になったからって調子に乗るなよ? お前も雑魚一家の家庭教師なんだから雑魚に決まってる」



 するとシャルロット様が学生の顔を叩いていた。



(え?)



 俺も予想していなかった行動に驚く。



「私はなんて言われようと我慢できます。ですが先生の悪口は許しません!」



「今、叩いたよな? これは決闘の申し込みってことでいいよな?」



「...」



 俺もこの学園に通っていたからわかる。どちらか一方が手を出した時点で決闘を申し込まれたら断ることができない。



(クソ...)



 シャルロット様が負けるなんて思っていない。だけど敵の実力が分からない以上戦うのはよくない。



「えぇ」



「じゃあ明日。決闘な? お前が負けたらそこの使用人をクビにしてもらう」



「なんでよ!」



「なんでだって? そんなの当たり前だろ。決闘に条件を付けてもいいルールになってるしな」



 よくあることだししょうがない。でもよかった。シャルロット様の自主退学が条件にされていなくて。



「ならバケルが負けたら学園の派閥から抜けてもらうわ」



「いいぜ。じゃあ明日な」



「はい」



 俺が止めることもできず、決闘が決まってしまった。こんなに早く決闘をするなんて思ってもいなかった。でもこうなってしまった以上しょうがない。



「先生。帰りましょ」



「はい」



 パーティ会場を後にして屋敷に戻る。それにしてもシャルロット様はえげつない事言ったな。学園に通っている大抵の人は派閥に入っている。それを抜けるということは後ろ盾がなくなるということ。そうなってしまったら他の派閥に入るか自分で派閥を作る、もしくは一人で頑張っていくしかない。



「先生。ごめんなさい。私のせいで」



「こちらこそ申し訳ございません。私があの方に言い返してしまわなければ...」



「いいのよ。だって私のために怒ってくれたのでしょ?」



「はい...」



 シャルロット様のためだとしてもやりすぎてしまった。俺が気持ちを抑え込んでいれば...。



「それに目的が早く達成できそうじゃないですか!」



「そうですね」



 バカにして来ていた奴らを見返す。それが今回の目標であった。



「勝てるでしょうか?」



「わかりません。なので帰ったらすぐに練習しましょう」



「はい!」



 ここで負けるわけにはいかない。もし負けてしまったら俺とシャルロット様の目標が終わってしまう。でも逆に考えたらこんなに早く見返せるチャンスをもらえると考えたらよかったのかもしれない。



 すぐさま屋敷に戻って魔法の練習を始めた。
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