ピエロのサイコロ

花角瞳

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♦︎第1章

サイコロの目『3』

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今日のサイコロは黒のサイコロ。


ピエロは毎日忙しい。


休む暇もないほどに、次から次へと遊び相手がやってくる。



さぁ さぁ 早速はじめよう。






「君は何人殺したい?」


「あんただれ?」


鋭い目付きで僕を睨み付ける男の左手には、火のついたタバコが握られている。

そして右手には果物ナイフ。


 刃先を尖らせ光沢を持ったそのナイフの先には、真っ赤な血が垂れている。


男の体についた血は、どうやら返り血のようだ。


この男、今話題の連続殺人鬼。


僕は大きくため息をつき、眉を潜めた。


最後のお客は厄介者。




「ようこそ、ピエロの暗黒堂へ。今から僕とゲームをしよう」



ピエロは右手を前に出し、足を交差させ丁寧に挨拶をした。


 それを見た男は躊躇なく片方の口角をにやりと尖らせ、ピエロの頭めがけてナイフを投げつけた。


ビュンッと音を立て、鋭くとがった鋼のようなナイフはピエロの前頭部ににぶい音をたて突き刺さった。


ナイフが頭部に刺さった状態のまま、その場にバタンッと倒れた。


男は気が狂ったかのように笑い出す。


「今の音聞いたかよ!?体にナイフが刺さる音がたまんねぇ。これだから辞められないんだよなぁ」
 
男はピエロが倒れた場所へナイフを回収しに近づく。

しかし、何かがおかしいことに気づき、男の表情から笑みは次第に消えていく。


頭部にナイフは刺さっているのだが、ピエロの頭からは血が流れていないのだ。


男が視界を地面に落としたと同時に、背後に気配を感じ、それは今までに味わったことのない恐怖というものを感じ全身の毛が逆立つ。


自分が犯した罪や殺した者の親からの恨み、そして殺気。


「ふぅ、危ない危ない」


 背後から聞こえるピエロの声に男は冷や汗を垂らし、ドクンッと大きな心音を立て勢いよくバッと後ろを振りかえると、男の真後ろにピエロがビシッとした姿勢で立っていた。



「な、なんでそこに!?」



 男は腰を抜かし、ナイフが頭に刺さったままのピエロを見て、叫び声をあげた。



「君はこうしてむやみに罪亡き人達を殺していったんだね」



部屋に響き渡るほどの大きな声で悲鳴を上げている男の口を、手で押さえ込むと



「静かにしてよ」



と一言放った。


 しばらくすると男は静かになり、大きな体を縮こませ座り込んだ。


ピエロはそんな男の様子を横目で見ながら、頭に刺さっているナイフを引き抜きポイッと近くにある黒いバケツの中に捨てた。


 バケツの中は沸騰しすぎたマグマが流れており、ナイフはドロドロになり、跡形もなくなってしまった。



「さぁ はやくはじめようか」



 ピエロは男の手を引っ張り体を強引に持ち上げると、痙攣している手に、無理やりサイコロを握り持たせた。


 男は状況を把握できないままわけもわからずすぐに手を開け、コロッとサイコロが転がり落ちていく。


ピエロは男が決めたサイコロの目を確認すると、袋にもどしてからこういった。



「君は後何人殺したいの?」



 その言葉に反応したのか、さっきまで震えていた体がぴたりと止まり、目の色を変えて姿勢を整えなおすと、調子をこいてこう言った。



「今までよぉ、五人殺してきたわけですよ。でもまだまだ物足りなくてよぉ。あの刺す瞬間の音とかさぁ、もうたまんなくてよぉ」



くどくどと語りだした男を見て、ピエロは眉をひそめ顔色をかえて



「早く決めてよ」



と一言。



男は「わかったわかった」と鼻で笑い腕を組み替え口を開けた。



男が決めたその数は――――






10





「そっか。じゃあ君には死んでもらうよ」



 ピエロが口に出したその言葉を聞いて、男は顔色を変えて怒りだした。




「何言ってんだてめぇ!何で俺が死ななきゃなんねぇんだよ!」



ピエロの首元を鷲づかみにすると、にっこりと笑みを作ったピエロは黒いサイコロを男に渡した。



男はピエロを離し、サイコロに目をやると



「んだよ。このサイコロ『1』と『10』しかねーじゃんかよ」



と言った。




 「そう、この黒のサイコロは『1』と『10』しか書かれていない、ギャンブルのサイコロ。

君が出したその数とサイコロが出したその目が、ぴたりと当たるとお望みどおり数の分だけ人が死ぬ。

でも君は外れたんだ。ほらご覧。赤く染まったサイコロの数が

君が投げて決めた数だよ―――」



 男はピエロの説明を聞き終えると、手のひらにある黒のサイコロの数字に恐る恐る目線を落とす。


そこには確かに一つだけ赤く染まった数があった。
    

それは――――







『1』






 「さぁ さぁ みーんなでておいで はずれた男の死の瞬間

ざくざくざくざく 殺しちゃおう 1本2本3本4本 最後に5本目切っちゃおう」



 ピエロが歌を歌いだすと五人の死者が男の周りに集まり、次々に男の指をナイフで切断していった。


 男は指を切断されるたびに何度も何度も悲鳴を上げ、口からは下品な涎をたらし、「ァァ・・・アァ」と口ずさむ。


 地面に転がり落ちた無様な格好をした男の前に、一人の少女が立ち微笑む。


 少女は、転がり落ちドクドクと血を流す男を見下し、あざ笑っていた。




「た・・・すけてくれ・・・」




 すべての指と腕をを切り落とされた男は残った二本の足で、地べたをはいずり、少女の前でうずくまる。



 少女は男の前にしゃがみこみ、「クスッ」と鼻で笑うと再び立ち上がり勢いよく手を振る。


 そして手の内にあるナイフで男の心臓を突き刺すと、耳元でこうつぶやいた。





「どう?痛い?」





「ギャぁああああああああああああああ―――――!!!!!」





最後の悲鳴をあげた男は



「どうし・・・て・・・・殺したはずの・・・・お・・・・前

が・・・・生きている・・・・・」



と言い残し、死んでいった。


五人の死者は男の死体を持ち上げ、ピエロに笑顔で会釈をすると嬉しそうに黒い門の中へと消えていった。



 「無様なもんだね。

人を殺して自分が殺されそうになったとき媚をうるなんてさ。

やぁ やぁ 今日は疲れたな。

今日の役目はこれで終わり。

また明日遊んでね」
 
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