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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ

第216話 アワアワ美少女大慌て

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 はわわ……。

「ケイ、合わせろ!」
「はい!」

 はわわわ……。

「あっちにまた偽者が出ました! ケイ君、掴まって下さい! 第四戦術です」
「わかった」

 はわわわわわ……!

 倒しても倒しても出てくる偽シエラ。
 そしてどう考えても悪い奴のいる塔が中央に鎮座している。

 街のモニターは全てが指揮者にジャックされ、なんか悪い奴っぽいセリフを流していた。

 こ、こんなの俺のデータにないぞ!

『またか』

 星詠みの杖君はどこにいるんだよぉ!
 DMにも返事しないし、あの子って俺の事大好きじゃなかったの!?

『状況が状況だ。致し方あるまい。奴に限って敗北はありえない。大方、あっちで美少女を保護しているのだろう』

 ならしょうがないか、うん。

『切り換えが早い』

 ってなるかぁ!
 ソルシエラになって解決した方が早いだろうが!

『切り換えが遅い』

 指揮者はミユメちゃんを傷つけて、ダイヤちゃんも公開処刑した……!
 万死だ。一切の情け容赦なく殺してやる……!
 
『落ち着けマイロード。星詠みの杖と合流出来ない以上、出来ることは近くの人間を救う事だ。幼い命も沢山いる。守護まもるのだ……!』

 分かってるけど……!
 こんなこと原作にはなかった。
 これは完全にイレギュラーイベントだ。

 ソルシエラが解決しなきゃ原作キャラ様が傷つくかもしれないだろ!

「ケイ大丈夫か。顔色が悪いが」
「……大丈夫です。まだまだやれます」

 妙に体も怠いし重い。
 しかし、それは美少女の輝きがあれば何とでもなる。

 重要なのは、今のままでは指揮者の喉元まで手が届かないという事だ。

「異能の出力が明らかに落ちている。私でも辛いのだ、ケイは立っているのもやっとだろう」
「私は大丈夫ですよ! 気合と根性でいけます!」

 偽シエラを倒し、人を助け、そうして俺達は街中を駆けまわる。
 どれだけの人を助け、そして偽シエラを倒したのだろうか。

 原作でのクローマイベントは、トウラク君とヒロイン達の逃避行だった。
 エモエモでギャグ寄りだったのだ。

 しかし、今はどうだろうか。
 指揮者ってこんなデカい事できたっけ?
 規模もデカいし、ソルシエラを真似されるとか完全に俺のミスだし……。

 今回ばかりは、俺の落ち度が過ぎる。

『気負うなマイロード。いつものように太陽みたいに笑ってくれ』

 宥めるふりして記憶を刷り込むな。

 とにかく、ここはソルシエラが解決しなければいけない。
 それに、ここまで好き勝手やられて本人が出てこなかったら面目丸つぶれだろ!

 俺は絶対に指揮者の所に行くぞ!
 ミステリアス美少女だってキレるときはキレるんだよォ!

 Sランクがどうにかしてくれるじゃない!
 俺が、どうにかするんだよ!

 それがソルシエラである俺のプライドってもんだろうが!

『……マイロード、いつか丘の上で追いかけっこをした時の事を覚えているか?』
 
 なんか語り始めたぞオイ。

『私に追いつこうと必死だったマイロードは、転んでしまったな。しかし、駆け寄った私の手を取ることはなかった。自らの力で立ち上がったのだ。それがどれだけ嬉しかったか』

 何の話ー!? ねえ何の話なのそれー!
 良い事言ってるけど全部嘘だろ!

 俺の熱い決意に対する反応としては間違えてないそれ?
 君、会話のリズムが独特すぎるんだよ。

『子はやがて、親を超える。これは絶対の理だ。だが、それはこんな悲劇の上に成り立つべきではない。旅立ちには相応しい日和があるのだ』

 この天使、言ってることが難しいよぉ。
 星詠みの杖君とは別ベクトルに扱いづらいよぉ!

『だから、今だけはまだ私の手を取ってはくれないだろうか。君の怒りと愛を尊重し、成長の一翼を担わせてほしい』

「……っ」
「ケイ君、大丈夫ですか!?」
「大丈夫。ちょっと、フラっとしただけ。まだ戦える」

 確かな感覚があった。
 よく知る、体への侵食の感覚である。

 それは、遊園地で初めて星詠みの杖君と契約した時に似ていた。

『ここは敢えてこう問うべきか』

 阿鼻叫喚の世界で、確かに俺の内側から声が聞こえる。

『――力が欲しいか』

 何かが始まる予感がした。






 満花ネイがその少女と話した時間は大して多くはない。
 確かな実力に裏付けされた自信満々な言葉に、その少女はまるでヒーローでも見るかのような目を向けていた。
 必ず救われると信じて、ヒーローの活躍を願って、そして――。

 残ったのは、後悔だけ。

 それ以外は全てがネイの手をすり抜けていった。
 そして、今回も。

「……っ、ミユメちゃん」

 どれだけのソルシエラを砂に還しただろうか。
 時間はそれほど経っていない。

 なぜならば、彼女の戦闘に過程は存在しないのだから。

「邪魔」

 歩くだけで、。辺りのソルシエラが次々と砂に変わっていく。
 襲われていた一般人も、抵抗していた生徒も、突然の悲劇の終わりに安堵と驚愕の混じり合った顔をする。

 そして、最後には決まってその英雄の名を呼んだ。

「ネイ先生……!」

 大通り、塔へと続く道をネイは進む。
 逃げも隠れもせず、辺り一帯のソルシエラを砂にしながら進む姿は、まさに英雄にふさわしい。

 ただし、その表情が悲痛なものではなかったのならの話だ。

「ミユメちゃん、今助けるから。……今度こそ、助けるから」

 脳裏に、少女の顔が思い浮かぶ。
 既にこの世にいない少女が思い出の中で笑いかける度に、腹の底から湧き上がる不快感が吐き気となった。

 焼ける様にひりつく喉で無理矢理嚥下する。
 ヒーローは過去の悲劇を思い出して吐き出したりしない。
 前を向いて強気に笑い、全てを解決する。

 トラウマなんて、ありはしない。
 
「わた、しは、最強だから」

 そうでないと、また救えない。
 もしもミユメまで失えば、今度こそネイは自分の事を許せなくなるだろう。

 ネイにとって、これは自分を救う戦いでもあった。

「ミユメちゃん」

 武器を握る手には、既に力が入っていない。
 異能の行使のみに脳のリソースを割き、ソルシエラ達を殺していく。

 しかし、次々と現れるソルシエラを見ていると、それは終わりのない戦いに思えた。

「……何体いるんだよ。お迎えなら、歓迎なんだけど」

 再び現れたソルシエラ達をネイは睨んだ。

 塔までの道のりはそこまで長いものではない。
 これらさえ倒しきってしまえば、すぐにでもたどり着くだろう。

「殺す」

 ネイはレイピアを構える。
 その恰好は昔の彼女にはほど遠いものだったが、ソルシエラ達に抗うその姿を見て、人々は喜びこう語った。

――ヒーローだ、と。

 その場の全員がネイの活躍に期待し、希望を見る。
 ネイのための、ネイだけの舞台。
 それは指揮者にとって、望み通りの展開でもあった。
 これは、ネイというヒーローが過去の栄光を取り戻す英雄譚なのだ。

 だからこそ、突然現れたそれは、まるで立ちはだかる悪役のように見えた。

「見ていられないな。三流役者め」

 初めに感じ取ったのは、肌を刺すような冷気だった。
 夏だという事を忘れてしまうほどに底冷えする風が吹く。

 それはソルシエラ達をあっという間に凍らせ、砂になる間もなく砕いた。

「砂になれば次が生産される。故に、こうして砂にしないのが正解だ。奴らのリソースは無限ではない。そう見せているだけだ」

 ネイがヒーローならば、その少女はまるで魔王のようであった。
 
 あっという間にただ一人の幼い少女に、場が支配される。
 永久凍土のように生まれ変わった世界に、ソルシエラの紛い物の居場所はない。
 否、主である彼女以外の生物の存在すらも許されないのだ。

 天上天下唯我独尊。
 常に、この世界の中心が自分だと信じるが故の最強。

「お前を止めに来てやったぞ、ワタシ様が」

 そう言って幼き少女――レイは不敵に笑った。

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