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七章 ぞろぞろ偽者ソルシエラ
第208話 ボロボロ少年脳破壊
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性癖破壊の夏、到来!
『風物詩だねぇ^^』
『なぜあのような惨い事を……。子供は守るべき宝ではないのか』
カメ君、俺はあの子には強くなって欲しいんだ。
これは愛なのだよ。
美少女達へ向ける愛とはまた別の、寵愛とすら呼べる愛だ。
『あれが……愛。そうなのか、人類の愛とは難しい物なのだな』
君にもいつかわかる。
理屈を抜きに、その子に何かをしてあげたいと思えたのならそれが愛なんだ。
だから、俺はソウゴ君の性癖をぶっ壊したいの^^
そうして、捻じれて歪んだ先の性癖を見たいんだ。
『理屈抜きとかそういう次元の話なのだろうか。私には性癖のテロリストにしか見えないが』
『傍から見てどう映るかはさほど重要ではないよ。それに見たまえ、ソウゴの顔を。チラチラとこちらの様子を窺って可愛らしいねぇ』
逃げないようにしっかりとソウゴ君の手を握っているのだが、緊張から汗ばんでいるのがわかる。
可愛いねぇ。
『これでロリであれば……』
そうなると話が変わってくるんだよ。
ロリ相手なら、俺は完全に憧れのお姉さんを演じるぞ。
こうして性癖を破壊したりしない。
「あ、あの……ケイお兄ちゃんも文化大祭に出るの?」
「いや、俺は裏方でアルバイト。うちはまだ何か出せる余裕はないからなぁ」
仮に出すとなれば、ミユメちゃんが超頑張ることになるだろう。
というか、それはもはやミユメちゃんの発表会だ。
だからこそ、来年こそは出せるように頑張ろうね。 新入生とかいっぱい来るだろうしね!
『今のフェクトム総合学園のネットの評判は超難関校だぞ。そんなに新入生が来るとは思えないが』
大丈夫でしょ。
こっちにはミズヒ先輩がいるんだぞ!
リュウコちゃんですら集客には若干の効果があるのだから、問題はない。
『王子様扱いされるミズヒとの対比でお姫様扱いされるソルシエラ。アリです』
お姫様枠のソルシエラも楽しそうだねぇ。
囚われの姫とかやってみたーい!
でも現状、俺を捕えられる奴がいない。
最強すぎてごめん。
そして俺を捕えた奴を倒せる人間も想像できない。
原作後半のトウラク君でギリギリか?
『相変わらず、君はトウラクを高く評価しているんだねぇ。ルトラとの適合率は凄まじいが、そこまで強くなるとは思えないよ』
ばっか野郎!
星斬りさえ取得すれば、トウラク君は最強なんだ!
六波羅さんの無敵を唯一斬れるんだぞ!
ソルシエラの干渉でも無理なのに! 斬れちゃうんだぞ!
『は? 私も時間をかければいけるが?』
その時間を稼ぐの俺なんだよ。
高速で動く無敵状態の六波羅さんを相手にして生きて帰れる自信ないよ。
「そうなんだ、お仕事なんだ……。えっと、頑張って下さい」
「ははは、ありがとね。ソウゴ君は楽しんで」
俺の言葉にソウゴ君は照れながら頷く。
見ろ、完全に惚れている。
あー、夏の田舎でソウゴ君の性癖をさらに終わらせてえなぁ。
『白ワンピのソルシエラお姉さんとのひと夏の思い出!? 少しエッチが過ぎるねぇ!』
『? ソウゴと同年代の無邪気ロリシエラとの淡い思い出じゃないのか? どこもエッチではないだろう』
『あ?』
『なんだ?』
喧嘩はやめてー><
隙あらば己の性癖を押し通そうとするその意気や良し。
けれど、喧嘩は駄目だよ。
性癖とは押し付けるものではない。
互いに理解するものなんだ。
『性癖の伝道師?』
『ソウゴの性癖を壊した人間の言う事か?』
俺は気付きを与えているだけだよ^^
「そう言えば、今日はお姉さんはどうしたの?」
「えっと……実ははぐれちゃって」
ははーん、さては同人誌を買うためにわざと離れたね。
俺にはお見通しだ。
「そうなんだ。なら俺から連絡してあげるよ」
「えっ」
ソウゴ君は俺を悲しそうに見上げる。
ふふふ、嫌だろう。
俺という憧れのお姉さんとの実質デートを終了させられるのは。
『鬼! 総受け! 結局逆転されるくせに!』
『あまりにも酷いぞマイロード。天使でもそこまではしない』
ここまで言われるとは……。
冗談だよ冗談。
「あれ、もしかして俺とまだ遊びたかった?」
「……はい」
「はっはっは、そうか。じゃあ、尚更お姉さんに連絡しなきゃね」
俺は屈みソウゴ君の顔を見る。
「そして許可を貰って、存分に遊ぼう」
「……! うん!」
ぱぁっと表情を明るくして、ソウゴ君は何度も頷く。
子供はこういう時にわかりやすくて良い。
犬だったら尻尾振ってるんじゃない?
『尻尾で全部感情がわかるソルシエラ概念!? 口では突き放すような物言いだけれど、尻尾で感情が丸わかりなんだ……!』
君は本当に凄いね。
俺が何を言っても繋げてくるじゃん。
『褒めても何もできないよ^^ 精々がソルシエラのエッチなイラストをネットの海に放流するだけ^^』
『褒めているのか今のは』
こうして日々エッチなソルシエラのイラストが我々の手元に届くんだね。
★ヨミさんには感謝だ。
『二人とも私を置いていかないでくれ。何一つついていけてない』
カメさんおそーい!
はやくはやくー!
『その声、我が娘ソルシエラではないか!?』
すごい勢いで追いついてきた。
『ははは、もうこんなに日焼けして。ちゃんと帽子は被るんだ。うん、相変わらず可愛いな。……そうだな、私も一緒に遊ぼう。今日は何をする?』
追いついたと思ったら物凄い速度で追い越していきやがった。
触れるとこっちまで引っ張られそうだからそっとしておこう……。
「じゃ、連絡するね」
「うん」
笑顔のソウゴ君の頭を撫でながらダイブギアを操作しようとしたその時だった。
「――こっちは客だぞ!」
人の往来が激しい道でなお、ハッキリと聞こえる怒号。
耳に届いただけで不快感がマシマシになる声に、俺は顔を上げた。
この探索者ばかりの都市でクレーマー?
死にたがりか?
「お姉ちゃん……」
ソウゴ君が俺の手を握る。
不安のあまり、呼び方がお兄ちゃんじゃなくなっている辺り余裕がないのだ。
俺の可愛い可愛い玩具を怖がらせる奴はどいつだ^^
『美少女なら良い子になーれ(意味深)をして、それ以外なら血祭りにあげよう^^ 脳髄に直接収束砲撃を放とうねぇ』
そこまでは言ってないです。
ともかく、ここは野次馬に行こう。
そして俺に解決できることならば、フェクトム総合学園を宣伝しながら解決しようねぇ。
『するー^^』
『待て待てー。ほら、捕まえてしまうぞ……はっはっは捕まえた。今度は君が鬼だな』
おい、とりあえずそっちのトリップ海洋生物を早く正気に戻せ。
■
「ソウゴ君はここにいて」
冷静な声でケイはそう言った。
ソウゴが恐る恐るその顔を覗けば、今までの表情が嘘の様に冷徹な顔をしている。
その顔が、普段ソルシエラとして仕事をするときの顔だという事はすぐに理解できた。
「う、うん」
ソウゴの返事を聞いて、ケイはハッとしたのか慌てて笑みを作る。
そして、またソウゴの頭を撫でた。
「大丈夫、お兄ちゃんに任せて。こう見えて、結構強いんだから」
茶化すようにそう言ったケイは立ち上がるとそのまま怒号の聞こえた方へと向かった。
その場に一人残されたソウゴもまた、少しして後を追う。
純粋に、ケイとしてどのように戦うのか気になったからだ。
(あ、いた)
人混みをかき分けて顔を覗かせれば、そこにはケイの姿。
クローマの女子生徒を庇うようにして立ち、複数人の生徒と相対している。
腕に装着されたダイブギアを見る辺り、どうやら探索者の様だった。
「おい、俺はそっちの女に用があるんだ! あんな値段で小さいアイス出しやがってよォ!」
「で、でも材料的にも妥当でして……」
「あァ!? こっちは育ち盛りなんだからもっと食わせろやァ!」
「ひぃっ」
怯えた声を上げる女子生徒を前に、手で制止ながらケイは冷静に口を開く。
「ならもっと量が多い所に行けよ。ゴルゴタクレープとか」
「あそこまで異常に盛らなくてもいいんだよ! 限度があるだろうがァ! もう頭に来た!」
探索者はイライラした様子で頭をかきむしる。
すると、取り巻きの一人が突然気が付いたような声を上げた。
「あー! こ、コイツあれだよ! ユウ君、覚えてない!? あの浄化ちゃんと一緒にいた男!」
「あ?」
ユウと呼ばれた探索者は首を傾げる。
そしてケイの姿を見て、思いだしたかのように声を上げた。
「お前ー! あの時のクソ生意気な奴じゃねえか! お前のせいでこっちはあの後大変だったぞ!」
「?」
「なんで忘れてんだテメェ!」
ユウは地団太を踏む、
そしてすぐにケイを睨みつけた。
「よォし、わかった。まずはお前を潰す。腹立ってたんだよなァ。ぶっ殺してやるよ」
「いいのか? 今この学院のどこかに六波羅がいるぞ」
「………………じゃあ速攻で片付けてやるよォ!」
かなりの葛藤があったようだが、ユウは改めて戦う姿勢をとった。
そしてその手から炎を生み出しケイへと見せびらかすようにして笑う。
「あの時の俺とは違うぜ? お前程度なら倒せるほどに強くなったんだからなァ」
「そうか。……助力はありがたいけど、皆さん、ここは俺に任せてください」
ケイは視線を合わせる事無く、周囲の探索者へとそう言った。
荒事とあればいつでも参戦するつもりだった探索者達はその声で止まる。
そして同時に理解した。
ケイという青年がどれだけの実力者であるかを。
「さて、こっちも人を待たせているからね。さっさと片付けるか」
そう言うと、ケイは短刀を取り出した。
装飾のない無骨な短刀を見て、ユウは鼻で笑い、取り巻き達もバカにするように笑う。
が、当の本人が冷静な表情を崩すことは無かった。
「先手は譲ってやる」
「余裕そうにしやがって。あの時は浄化ちゃんとあの女が居たから勝てたくせに……!」
「御託はいいだろ。どうした、来ないのか? その出来損ないの炎は飾りか?」
「テメェ!」
ユウは顔を真っ赤にして炎を身に纏う。
そして、凄まじい加速を伴って、ケイへと向かって来た。
「今度こそ丸焼きにしてやるよぉ!」
「いけー、ユウ君!」
「がんばれユウ君!」
取り巻き達の応援を背にケイへと突進するユウ。
しかし、それを見てケイはため息をついただけだった。
「失望したよ」
ケイは向かってくるユウをひらりと躱し、すれ違いざまに一太刀。
すると、ユウは「いっ!?」とだけ声を上げて勢いのまま転んだ。
もはや戦闘と呼べるはずもない短絡的なソレの結果、炎は消え失せ、顔から着地した無様な姿のユウだけがその場に残された。
「ミズヒ先輩と比べるのも失礼か」
「し、痺れ……!」
麻痺毒により藻掻くユウを、ゴミを見るような目で見つめながらケイは吐き捨てる。
そして、不意に短刀を構え、何かを斬り落とした。
見ればそこには銃を構えた取り巻きの姿。
「ユウ君をよくも!」
「どういう忠誠心なんだそれは……」
ケイは呆れた様子でそう呟きながら短刀を片手に歩き出す。
まるで散歩のような気軽な足取りであった。
「っ、バカにしやがって!」
取り巻きはその姿を見て怒りに身を任せ引き金を引く。
が、ケイはその全てを顔色一つ変えない。
「バカはどっちだよ」
歩みを止めないケイ。
彼の背後には、両断された弾丸がいくつも転がっていた。
「な、なんだコイツ!?」
どれだけ至近距離になろうとも、全ての弾丸が両断される。
周囲の人間に当たらないようにと、回避ではなく斬るという選択肢を取る実力に、取り巻きは今更自分が喧嘩を売った人間が怪物であると理解した。
「ひ、ひぃ!? 来るなぁ!」
「まるでこっちが悪者じゃないか」
ケイは呆れながら短刀を構え、取り巻きを斬りつける。
そして、怯えて何もできなかったもう一人の取り巻きも振り向きざまに斬り裂いた。
「……弱い」
二人が地面に崩れ落ちる。
ケイはそれを見てどこか残念そうに呟いた。
「お、まえ、ぜったいに、殺す!」
「まだそんな言葉が吐けるんだ」
痺れで倒れたままの姿勢で啖呵を切るユウを見て、ケイはどこか感心したように言う。
そして、ユウの方へと足を向けたその時だった。
「――おい、昼間から騒いでンのはどこのバカだ」
威圧感のある声だった。
瞬間、生徒達が次第に騒がしくなり始める。
その声を知らない者などいる筈もない。
学区を問わず独断での行動が許された執行官達。
その中でも最強の称号を持つSランク――。
「ああ、六波羅か」
「ンだよ、てめェかよ……」
人混みの中から割れる様に出来た道を通って、六波羅がその場に姿を表す。
その姿を見た瞬間、取り巻き達は気絶し、ユウは目に涙を浮かべ始めた。
見ていた生徒達すらも、その威圧感に何故だか緊張してしまう。
しかし、この場を去ることはできない。
動けば死ぬのではないか、そう思えて仕方がないのだ。
この場で涼しい顔をしているのはただ二人。
ケイ、そして六波羅の相棒のエイナだけである。
「おら~! リーダーのお通りだぞ! へへっ、リーダー、皆が道を開けるって気分いいですね。ついでに全員土下座させましょうか?」
「なんのついでだ。黙ってろ」
六波羅はケイと、倒れ伏すユウ達を交互に見て、状況を察したようなため息をついた。
「また厄介事に首突っ込んでるのか。相変わらず、お人好しだなァ」
「そういう六波羅こそ、騒ぎを聞いてここまで来たんだろ。お疲れ様」
「仕事だからな。仕方ねェよ」
親しげに六波羅と話すその姿を見て、生徒達は驚く。
Sランクと対等に話せるケイという青年。
やがて、誰かが気が付いたように声を漏らした。
「あの制服、フェクトム総合学園か……!?」
驚きが伝播する。
周りが騒がしくなってきた事に顔を顰めたケイを見て、六波羅はこの場を早々に片付ける事に決めた。
「とりあえずこのバカ三人はこっちで預かる。だからさっさと失せろ」
「助かるよ、ありがとう」
礼を言うケイを見て、何かに気が付いた様子で六波羅が近づく。
そして、首を傾げるケイの頭へと手をやった。
先程とは違う驚きが特にお姉様方を中心に広がっていく。
「煤《すす》が付いてんぞ。お前、その髪色だと目立つだろ。後で鏡で確認しろ」
「ああ、うん。ありがとう。それじゃ」
「ムッ……リーダー! 私の頭にもついてないですか!?」
「ねェよ。なんで付いてると思ったんだ」
さっさと煤を払い終えた六波羅はケイに背を向けユウ達へと向かっていく。
その姿を見てケイは薄く微笑み、歩き出した。
そして、人混みの中で此方を見つめるソウゴを見つけると、今まで通りの笑顔を浮かべ駆け寄る。
「ごめん、お待たせ。怖い思いをさせたね」
「え、うん」
やけに返事が暗いソウゴを見て、ケイは首を傾げる。
「どうしたの?^^」
「な、なんでもない。行こう」
そう言うと、ソウゴは強引にケイの手を握りその場から走り去っていく。
「どうしてそんなに強く手を握っているの?^^」
「……っ」
小さな男の子に手を引かれるケイ。
人々はその後ろ姿を見つめることしかできなかった。
『風物詩だねぇ^^』
『なぜあのような惨い事を……。子供は守るべき宝ではないのか』
カメ君、俺はあの子には強くなって欲しいんだ。
これは愛なのだよ。
美少女達へ向ける愛とはまた別の、寵愛とすら呼べる愛だ。
『あれが……愛。そうなのか、人類の愛とは難しい物なのだな』
君にもいつかわかる。
理屈を抜きに、その子に何かをしてあげたいと思えたのならそれが愛なんだ。
だから、俺はソウゴ君の性癖をぶっ壊したいの^^
そうして、捻じれて歪んだ先の性癖を見たいんだ。
『理屈抜きとかそういう次元の話なのだろうか。私には性癖のテロリストにしか見えないが』
『傍から見てどう映るかはさほど重要ではないよ。それに見たまえ、ソウゴの顔を。チラチラとこちらの様子を窺って可愛らしいねぇ』
逃げないようにしっかりとソウゴ君の手を握っているのだが、緊張から汗ばんでいるのがわかる。
可愛いねぇ。
『これでロリであれば……』
そうなると話が変わってくるんだよ。
ロリ相手なら、俺は完全に憧れのお姉さんを演じるぞ。
こうして性癖を破壊したりしない。
「あ、あの……ケイお兄ちゃんも文化大祭に出るの?」
「いや、俺は裏方でアルバイト。うちはまだ何か出せる余裕はないからなぁ」
仮に出すとなれば、ミユメちゃんが超頑張ることになるだろう。
というか、それはもはやミユメちゃんの発表会だ。
だからこそ、来年こそは出せるように頑張ろうね。 新入生とかいっぱい来るだろうしね!
『今のフェクトム総合学園のネットの評判は超難関校だぞ。そんなに新入生が来るとは思えないが』
大丈夫でしょ。
こっちにはミズヒ先輩がいるんだぞ!
リュウコちゃんですら集客には若干の効果があるのだから、問題はない。
『王子様扱いされるミズヒとの対比でお姫様扱いされるソルシエラ。アリです』
お姫様枠のソルシエラも楽しそうだねぇ。
囚われの姫とかやってみたーい!
でも現状、俺を捕えられる奴がいない。
最強すぎてごめん。
そして俺を捕えた奴を倒せる人間も想像できない。
原作後半のトウラク君でギリギリか?
『相変わらず、君はトウラクを高く評価しているんだねぇ。ルトラとの適合率は凄まじいが、そこまで強くなるとは思えないよ』
ばっか野郎!
星斬りさえ取得すれば、トウラク君は最強なんだ!
六波羅さんの無敵を唯一斬れるんだぞ!
ソルシエラの干渉でも無理なのに! 斬れちゃうんだぞ!
『は? 私も時間をかければいけるが?』
その時間を稼ぐの俺なんだよ。
高速で動く無敵状態の六波羅さんを相手にして生きて帰れる自信ないよ。
「そうなんだ、お仕事なんだ……。えっと、頑張って下さい」
「ははは、ありがとね。ソウゴ君は楽しんで」
俺の言葉にソウゴ君は照れながら頷く。
見ろ、完全に惚れている。
あー、夏の田舎でソウゴ君の性癖をさらに終わらせてえなぁ。
『白ワンピのソルシエラお姉さんとのひと夏の思い出!? 少しエッチが過ぎるねぇ!』
『? ソウゴと同年代の無邪気ロリシエラとの淡い思い出じゃないのか? どこもエッチではないだろう』
『あ?』
『なんだ?』
喧嘩はやめてー><
隙あらば己の性癖を押し通そうとするその意気や良し。
けれど、喧嘩は駄目だよ。
性癖とは押し付けるものではない。
互いに理解するものなんだ。
『性癖の伝道師?』
『ソウゴの性癖を壊した人間の言う事か?』
俺は気付きを与えているだけだよ^^
「そう言えば、今日はお姉さんはどうしたの?」
「えっと……実ははぐれちゃって」
ははーん、さては同人誌を買うためにわざと離れたね。
俺にはお見通しだ。
「そうなんだ。なら俺から連絡してあげるよ」
「えっ」
ソウゴ君は俺を悲しそうに見上げる。
ふふふ、嫌だろう。
俺という憧れのお姉さんとの実質デートを終了させられるのは。
『鬼! 総受け! 結局逆転されるくせに!』
『あまりにも酷いぞマイロード。天使でもそこまではしない』
ここまで言われるとは……。
冗談だよ冗談。
「あれ、もしかして俺とまだ遊びたかった?」
「……はい」
「はっはっは、そうか。じゃあ、尚更お姉さんに連絡しなきゃね」
俺は屈みソウゴ君の顔を見る。
「そして許可を貰って、存分に遊ぼう」
「……! うん!」
ぱぁっと表情を明るくして、ソウゴ君は何度も頷く。
子供はこういう時にわかりやすくて良い。
犬だったら尻尾振ってるんじゃない?
『尻尾で全部感情がわかるソルシエラ概念!? 口では突き放すような物言いだけれど、尻尾で感情が丸わかりなんだ……!』
君は本当に凄いね。
俺が何を言っても繋げてくるじゃん。
『褒めても何もできないよ^^ 精々がソルシエラのエッチなイラストをネットの海に放流するだけ^^』
『褒めているのか今のは』
こうして日々エッチなソルシエラのイラストが我々の手元に届くんだね。
★ヨミさんには感謝だ。
『二人とも私を置いていかないでくれ。何一つついていけてない』
カメさんおそーい!
はやくはやくー!
『その声、我が娘ソルシエラではないか!?』
すごい勢いで追いついてきた。
『ははは、もうこんなに日焼けして。ちゃんと帽子は被るんだ。うん、相変わらず可愛いな。……そうだな、私も一緒に遊ぼう。今日は何をする?』
追いついたと思ったら物凄い速度で追い越していきやがった。
触れるとこっちまで引っ張られそうだからそっとしておこう……。
「じゃ、連絡するね」
「うん」
笑顔のソウゴ君の頭を撫でながらダイブギアを操作しようとしたその時だった。
「――こっちは客だぞ!」
人の往来が激しい道でなお、ハッキリと聞こえる怒号。
耳に届いただけで不快感がマシマシになる声に、俺は顔を上げた。
この探索者ばかりの都市でクレーマー?
死にたがりか?
「お姉ちゃん……」
ソウゴ君が俺の手を握る。
不安のあまり、呼び方がお兄ちゃんじゃなくなっている辺り余裕がないのだ。
俺の可愛い可愛い玩具を怖がらせる奴はどいつだ^^
『美少女なら良い子になーれ(意味深)をして、それ以外なら血祭りにあげよう^^ 脳髄に直接収束砲撃を放とうねぇ』
そこまでは言ってないです。
ともかく、ここは野次馬に行こう。
そして俺に解決できることならば、フェクトム総合学園を宣伝しながら解決しようねぇ。
『するー^^』
『待て待てー。ほら、捕まえてしまうぞ……はっはっは捕まえた。今度は君が鬼だな』
おい、とりあえずそっちのトリップ海洋生物を早く正気に戻せ。
■
「ソウゴ君はここにいて」
冷静な声でケイはそう言った。
ソウゴが恐る恐るその顔を覗けば、今までの表情が嘘の様に冷徹な顔をしている。
その顔が、普段ソルシエラとして仕事をするときの顔だという事はすぐに理解できた。
「う、うん」
ソウゴの返事を聞いて、ケイはハッとしたのか慌てて笑みを作る。
そして、またソウゴの頭を撫でた。
「大丈夫、お兄ちゃんに任せて。こう見えて、結構強いんだから」
茶化すようにそう言ったケイは立ち上がるとそのまま怒号の聞こえた方へと向かった。
その場に一人残されたソウゴもまた、少しして後を追う。
純粋に、ケイとしてどのように戦うのか気になったからだ。
(あ、いた)
人混みをかき分けて顔を覗かせれば、そこにはケイの姿。
クローマの女子生徒を庇うようにして立ち、複数人の生徒と相対している。
腕に装着されたダイブギアを見る辺り、どうやら探索者の様だった。
「おい、俺はそっちの女に用があるんだ! あんな値段で小さいアイス出しやがってよォ!」
「で、でも材料的にも妥当でして……」
「あァ!? こっちは育ち盛りなんだからもっと食わせろやァ!」
「ひぃっ」
怯えた声を上げる女子生徒を前に、手で制止ながらケイは冷静に口を開く。
「ならもっと量が多い所に行けよ。ゴルゴタクレープとか」
「あそこまで異常に盛らなくてもいいんだよ! 限度があるだろうがァ! もう頭に来た!」
探索者はイライラした様子で頭をかきむしる。
すると、取り巻きの一人が突然気が付いたような声を上げた。
「あー! こ、コイツあれだよ! ユウ君、覚えてない!? あの浄化ちゃんと一緒にいた男!」
「あ?」
ユウと呼ばれた探索者は首を傾げる。
そしてケイの姿を見て、思いだしたかのように声を上げた。
「お前ー! あの時のクソ生意気な奴じゃねえか! お前のせいでこっちはあの後大変だったぞ!」
「?」
「なんで忘れてんだテメェ!」
ユウは地団太を踏む、
そしてすぐにケイを睨みつけた。
「よォし、わかった。まずはお前を潰す。腹立ってたんだよなァ。ぶっ殺してやるよ」
「いいのか? 今この学院のどこかに六波羅がいるぞ」
「………………じゃあ速攻で片付けてやるよォ!」
かなりの葛藤があったようだが、ユウは改めて戦う姿勢をとった。
そしてその手から炎を生み出しケイへと見せびらかすようにして笑う。
「あの時の俺とは違うぜ? お前程度なら倒せるほどに強くなったんだからなァ」
「そうか。……助力はありがたいけど、皆さん、ここは俺に任せてください」
ケイは視線を合わせる事無く、周囲の探索者へとそう言った。
荒事とあればいつでも参戦するつもりだった探索者達はその声で止まる。
そして同時に理解した。
ケイという青年がどれだけの実力者であるかを。
「さて、こっちも人を待たせているからね。さっさと片付けるか」
そう言うと、ケイは短刀を取り出した。
装飾のない無骨な短刀を見て、ユウは鼻で笑い、取り巻き達もバカにするように笑う。
が、当の本人が冷静な表情を崩すことは無かった。
「先手は譲ってやる」
「余裕そうにしやがって。あの時は浄化ちゃんとあの女が居たから勝てたくせに……!」
「御託はいいだろ。どうした、来ないのか? その出来損ないの炎は飾りか?」
「テメェ!」
ユウは顔を真っ赤にして炎を身に纏う。
そして、凄まじい加速を伴って、ケイへと向かって来た。
「今度こそ丸焼きにしてやるよぉ!」
「いけー、ユウ君!」
「がんばれユウ君!」
取り巻き達の応援を背にケイへと突進するユウ。
しかし、それを見てケイはため息をついただけだった。
「失望したよ」
ケイは向かってくるユウをひらりと躱し、すれ違いざまに一太刀。
すると、ユウは「いっ!?」とだけ声を上げて勢いのまま転んだ。
もはや戦闘と呼べるはずもない短絡的なソレの結果、炎は消え失せ、顔から着地した無様な姿のユウだけがその場に残された。
「ミズヒ先輩と比べるのも失礼か」
「し、痺れ……!」
麻痺毒により藻掻くユウを、ゴミを見るような目で見つめながらケイは吐き捨てる。
そして、不意に短刀を構え、何かを斬り落とした。
見ればそこには銃を構えた取り巻きの姿。
「ユウ君をよくも!」
「どういう忠誠心なんだそれは……」
ケイは呆れた様子でそう呟きながら短刀を片手に歩き出す。
まるで散歩のような気軽な足取りであった。
「っ、バカにしやがって!」
取り巻きはその姿を見て怒りに身を任せ引き金を引く。
が、ケイはその全てを顔色一つ変えない。
「バカはどっちだよ」
歩みを止めないケイ。
彼の背後には、両断された弾丸がいくつも転がっていた。
「な、なんだコイツ!?」
どれだけ至近距離になろうとも、全ての弾丸が両断される。
周囲の人間に当たらないようにと、回避ではなく斬るという選択肢を取る実力に、取り巻きは今更自分が喧嘩を売った人間が怪物であると理解した。
「ひ、ひぃ!? 来るなぁ!」
「まるでこっちが悪者じゃないか」
ケイは呆れながら短刀を構え、取り巻きを斬りつける。
そして、怯えて何もできなかったもう一人の取り巻きも振り向きざまに斬り裂いた。
「……弱い」
二人が地面に崩れ落ちる。
ケイはそれを見てどこか残念そうに呟いた。
「お、まえ、ぜったいに、殺す!」
「まだそんな言葉が吐けるんだ」
痺れで倒れたままの姿勢で啖呵を切るユウを見て、ケイはどこか感心したように言う。
そして、ユウの方へと足を向けたその時だった。
「――おい、昼間から騒いでンのはどこのバカだ」
威圧感のある声だった。
瞬間、生徒達が次第に騒がしくなり始める。
その声を知らない者などいる筈もない。
学区を問わず独断での行動が許された執行官達。
その中でも最強の称号を持つSランク――。
「ああ、六波羅か」
「ンだよ、てめェかよ……」
人混みの中から割れる様に出来た道を通って、六波羅がその場に姿を表す。
その姿を見た瞬間、取り巻き達は気絶し、ユウは目に涙を浮かべ始めた。
見ていた生徒達すらも、その威圧感に何故だか緊張してしまう。
しかし、この場を去ることはできない。
動けば死ぬのではないか、そう思えて仕方がないのだ。
この場で涼しい顔をしているのはただ二人。
ケイ、そして六波羅の相棒のエイナだけである。
「おら~! リーダーのお通りだぞ! へへっ、リーダー、皆が道を開けるって気分いいですね。ついでに全員土下座させましょうか?」
「なんのついでだ。黙ってろ」
六波羅はケイと、倒れ伏すユウ達を交互に見て、状況を察したようなため息をついた。
「また厄介事に首突っ込んでるのか。相変わらず、お人好しだなァ」
「そういう六波羅こそ、騒ぎを聞いてここまで来たんだろ。お疲れ様」
「仕事だからな。仕方ねェよ」
親しげに六波羅と話すその姿を見て、生徒達は驚く。
Sランクと対等に話せるケイという青年。
やがて、誰かが気が付いたように声を漏らした。
「あの制服、フェクトム総合学園か……!?」
驚きが伝播する。
周りが騒がしくなってきた事に顔を顰めたケイを見て、六波羅はこの場を早々に片付ける事に決めた。
「とりあえずこのバカ三人はこっちで預かる。だからさっさと失せろ」
「助かるよ、ありがとう」
礼を言うケイを見て、何かに気が付いた様子で六波羅が近づく。
そして、首を傾げるケイの頭へと手をやった。
先程とは違う驚きが特にお姉様方を中心に広がっていく。
「煤《すす》が付いてんぞ。お前、その髪色だと目立つだろ。後で鏡で確認しろ」
「ああ、うん。ありがとう。それじゃ」
「ムッ……リーダー! 私の頭にもついてないですか!?」
「ねェよ。なんで付いてると思ったんだ」
さっさと煤を払い終えた六波羅はケイに背を向けユウ達へと向かっていく。
その姿を見てケイは薄く微笑み、歩き出した。
そして、人混みの中で此方を見つめるソウゴを見つけると、今まで通りの笑顔を浮かべ駆け寄る。
「ごめん、お待たせ。怖い思いをさせたね」
「え、うん」
やけに返事が暗いソウゴを見て、ケイは首を傾げる。
「どうしたの?^^」
「な、なんでもない。行こう」
そう言うと、ソウゴは強引にケイの手を握りその場から走り去っていく。
「どうしてそんなに強く手を握っているの?^^」
「……っ」
小さな男の子に手を引かれるケイ。
人々はその後ろ姿を見つめることしかできなかった。
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