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五章 決めるぜ! ミステリアスムーブ!

第147話 一方その頃! 騎双学園!

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 騎双学園は、領地戦の敗北により正式に処分が決まった。

 他三大校による分割でのリソースの管理である。
 聞こえはよいが結局のところ傀儡化にすぎない。

 更に付け加えれば、廃校にすれば数十万人単位で生徒が路頭に迷うことになるため、騎双学園という体裁は保つ必要があった。

 これからは自由なダンジョン攻略も難しくなり、生徒数も減っていくだろう。

 が、それまでの間は纏める長が必要であった。

「……めんどくせェ」

 六波羅は、見事にその貧乏くじを引き当てていた。

 いつもの仲間割れにより荒れ果てた生徒会室。
 居心地も最悪なこの空間で文句を言いつつ事務作業をする。
 
 その隣では、既に事務作業に飽きたエイナが鏡の前でポーズをとって遊んでいた。
 腕には、生徒会メンバーである証の腕章が取り付けられている。

「リーダー、見てくださいこれぇ! えっへへへへ……これで私も支配する側ですねぇ」
「いいから黙って作業しろ」

 六波羅はまめな男であった。
 風紀委員時代の経験から事務作業も苦手ではない。

 今は、普段の生徒会が適当に割り振っている予算を、一から見直し、再分配している際中だ。

「今までみたいに稼げる訳じゃねェんだ。削れる所は削っていかねェと。ってかあの生徒会は普段何やってんだァ! 」

 Sランクの身体能力が遺憾なく発揮され、次々と書類を終わらせていく。
 その光景を見ながら、エイナはお茶請けのせんべいを食べつつ、倒れ伏した生徒の上に座った。

「暇だぁ。リーダー、せっかく代理なんですからどっかに遊びに行きましょうよぉ」
「黙ってろ。てか飽きたなら俺にも茶を淹れろ」
「はーい」

 エイナは地面を埋め尽くさんばかりに倒れた生徒達を踏みながら、ポッドへと歩き出した。
 と、その時生徒会室の扉が開き誰かが飛び込んでくる。

「お前が生徒会長代理かぁ! お前を倒せば俺がこの学園を支配でき「うるせェ!」――みぎゃっ!?」

 言い終わる前に、六波羅の飛び蹴りが男子生徒の顔に炸裂する。
 一手で沈めた後、生徒の頭を掴んだ六波羅は、部屋の隅へと放り投げた。

 こうして六波羅に倒された生徒により、生徒会室は埋め尽くされている。

「雑魚の相手はつまんねェ……マジでつまんねェ……」
「粗茶ですが」

 差し出されたお茶をひったくり飲み干した六波羅は、再び事務作業へと戻っていく。
 エイナは手持ち無沙汰になったので、先程襲い掛かってきた生徒をつついて遊ぶことにした。

「噂には聞いてましたけど、マジで生徒会ってやばいんすねぇ。今日だけでもう五十人は倒しましたよ。ほら、財布もこんなに」
「生徒会長に勝てばトップってあの馬鹿が宣言しちまったからなァ。……ってか財布は戻してやれ。いや、札一枚だけ抜くのも駄目だ」

 明らかにモラルの欠けた行動を止めつつ、六波羅はため息をつく。

「あの馬鹿もどこ行きやがったんだ……! まさかどこぞで野垂れ死んでるわけじゃねェだろうな」

 そう考えて、六波羅はすぐにそれを否定した。
 その能力の恐ろしさは、六波羅もよく知るところである。

「とっとと帰って来て、またお山の大将気取って欲しいところだが」
 
 六波羅は時計をちらりと見る。
 お昼を過ぎているが、彼はまだ昼食にありつけていない。

 一方、エイナは勝手に食堂で一人で食べていた。
 ちなみに、エイナは昼食代を生徒会あての経費で落とそうとしている。
 が、六波羅が許すわけがなかった。

「あれ、時間なんて気にしてどうしたんすかリーダー。お腹へったんすか? ピザとか寿司でも頼みます?」
「なんでお前も食おうとしてんだ? ちげェよ、俺は別に昼飯のことを考えているわけじゃねェ。まあ腹も減ったが」

 と、その時再び生徒会室の扉が開かれた。
 エイナは戦う気もないのにファイティングポーズをとる。

「失礼します。あの、六波羅先輩いますか……?」

 入ってきたのは、黒髪をサイドで小さくまとめた少女だった。
 それを見て、エイナは叫ぶ。

「あっ、泥棒猫ぉ!」
「誰が泥棒猫だ!」

 叉上チアキはエイナを睨みつける。
 それから胸を張った。

「ふん、まあいい。アンタと違って私には風紀委員会副委員長っていう肩書きがあるんだ。小さき者の言葉なんて気にするか」
「は? 私もリーダーの相棒だが? 唯一無二だが? ですよねリーダー!」
「………………おォ」
「リーダー!?」

 明らかに返事が遅かった。
 エイナは勢いよく振り返るが、六波羅はサッと目を逸らす。

 そして、チアキを見てその日初めて笑顔を見せた。

「よく来たな。待ってたぜ」
「六波羅先輩がお呼びとあらば、アタシは何処にでも駆けつけますよ」

 照れ気味に、チアキはそう言った。

「生徒会の代わりに事務作業ですよね。六波羅先輩と一緒なら、その……アタシ、マジで頑張れるんで」
「一緒だぁ? こっちは遊びで事務作業やってんじゃないんだよ! リーダー、クビにしましょう!」
「遊んでるだけの奴が言うな」

 六波羅はエイナの言葉を一蹴すると、立ち上がりチアキの前へと向かった。

「へっ、六波羅先輩?」
「チアキ、お前に頼みがある」

 六波羅は、チアキの両肩に手を置き真っすぐに見つめる。

「ちょっ、顔が良い……!」
「聞いてくれチアキ」
「ひゃっ、ひゃい!」
「止めろぉ! リーダー相手にメスの顔をするなぁ!」

 きゃんきゃんと喚く外野は既にチアキの眼中にはなかった。
 チアキは六波羅の顔を見つめて、次の言葉を待つ。

 やがて六波羅は、至極真面目な顔で言った。

「後の書類、全部頼むわ」
「………………エッ」

 言葉の意味を理解する前に、六波羅の足が硝子のような物で覆われる。
 そして次の瞬間に六波羅は、エイナの首根っこを掴んで生徒会室を飛び出していた。

「ユキヒラに頼まれ事してっからよォ! そっちの方が面白そうだから行ってくるわァ!」
「あっははははは! さすがリーダーぁ! お出かけですねぇ!」

 その間、僅か0.01秒。
 まさに刹那の間に、チアキは生徒会室に大量の書類と共に残された。

「えっ……え?」

 何が起きたのか理解できなかったチアキは、辺りを見渡し目を白黒させる。
 そして、ゆっくりと現状を理解して、口を開いた。

「――やっぱり、カッコ良い……好き……」

 叉上チアキ、彼女の肩書きは騎双学園風紀委員会副委員長。
 真面目な仕事ぶりから損な役回りが多いが、彼女を慕う者も多い。

 しかし、その裏の顔は。

「ファンクラブの皆に自慢しちゃおう……!」

 六波羅ファンクラブの№2である。








 その少女が目覚めた時、周りには誰もいなかった。
 ただ、水槽の中に浮いた自分だけが独りぼっちで存在している。

 一人には、この空間は少しばかり広く、そして寂しい。

「……?」

 首を傾げる。
 少女には、何も分からなかったからだ。

 それは自分の出自、それから現在に至るまでの全て。
 人生と呼べる物が分からないまま、少女は目覚めていた。

 何も分からず、何も覚えていない。

 が、そんな彼女にも一つだけわかることがあった。

「お腹へった」
 
 空腹は、目下解決すべき問題である。
 なので、少女は外に出ることにした。

 能力の使い方だけは、本能が覚えている。
 少女は、能力を使用して水槽を容易く破壊すると、床へと転がった。

「んむ、痛い……」

 どうやら硝子の破片で指先を切ったようだ。
 が、泣くのをグッと堪えて、少女は歩き出す。

「ワタシ様は甘いものが食べたい」

 誰に言うでもなくそう呟くと、少女は警報が鳴り響く部屋を後にした。

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