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四章 騎双学園決戦
第138話 茨冠
しおりを挟む守りたかった。
たった一人で戦う背中がとても小さく見えて、だからトウラクは彼女に手を差し伸べた。
その筈だった。
「何故わかってくれないんだ。僕は君を助けたいんだ!」
ジャングルを抜け、両者は廃ビルを跳ぶ。
そのすぐあとで、ビルは細切れになり崩れ落ちた。
「ルトラ、二振り」
声が聞こえた瞬間、何かが切断される音。
同時に、ソルシエラの視界が闇に包まれた。
「あら」
ソルシエラの目に入る光のみを切断し、強制的に視覚を奪ったのだ。
如何なる概念をも斬る唯一無二の一振り、それこそが星斬。
覚醒が中途半端であったとしても、それが脅威であることに変わりはない。
「――これで終わりにする」
視覚を潰され、動きが硬直したソルシエラの背後に回ったトウラクがルトラを構える。
が、それは背後に突然現れた障壁により防がれた。
「嘘でしょう。この程度でお終い?」
「っ!?」
トウラクの周囲に魔法陣が展開され、銀の鎖が飛び出す。
触れた者の魔力を吸収し、より強固になるその恐ろしさはよく知っていた。
「ルトラ一振り」
トウラクはすぐにその場から消える。
そして、少し距離を離した場所から姿を現した。
「その瞬間移動、厄介ね」
ソルシエラは、自分の目を指先でなぞる。
その瞬間、切断の概念が打ち消され彼女の瞳に再び光が宿った。
「君の干渉も随分と厄介だと思うけど」
トウラクはルトラを構える。
が、対してソルシエラはまるで戦う意思がないかのように大鎌を構えようとはしなかった。
「……どうしたの、僕と戦わないのかな」
「周りを見てみなさい。これが貴方の言う誰かを守るという事なの? 多くの人が死に、全てを破壊して……私の知っている牙塔トウラクは、そうではない」
愚問であった。
トウラクにとっては全てが些事であり、大切なのはソルシエラを救い出すことだけ。
その為なら、全ての行為は正当化される。
既に、彼は力に意識をのまれていた。
「これは……必要なことだったんだ。君を救い出すためには、切り捨てるべきものが多かった」
「…………そう」
ソルシエラが息を吐く。
彼女にしては珍しい動作に、トウラクは攻撃を警戒してカウンターの構えをとる。
(震えている……?)
トウラクは彼女の異変に気が付いた。
が、もう遅い。
こうなった時点で、結末は決まっていたのだ。
「やはり、今の貴方とは戦う事でしか分かり合えないのね」
瞬間、ソルシエラの腕輪に変化が起きた。
彼女の左腕に取り付けられた正体不明の朱い腕輪が起動し、中から無数に何かが飛び出す。
茨のようにも有刺鉄線のようにも見えるそれは、瞬く間にソルシエラの体へと巻き付いていく。
「……っ!」
「何をしているんだ!?」
トウラクが駆け出すが、それを察知した黒い茨が辺り一帯を暴れまわり接近を阻止した。
その間にも、ソルシエラの体を茨が包んでいき最後には一つの球体へ形を変えていく。
そして。
「星光は……ここに断罪する」
彼女を包んでいた茨がはじけ飛ぶ。
弾丸の様に発射された棘がトウラクへと向かうが、全てを切り落としトウラクは再び距離をとった。
そして顔を上げて、ソルシエラの方を見る。
「……は?」
そこには、衣服が破れボロボロのソルシエラがいた。
茨が巻き付いた結果、彼女の服は至る所が破れ、露出した白い肌からは血が滴っている。
既に戦える状況ではない。
その筈なのだ。
「……ふふっ、今の貴方は私がエスコートしてあげなくちゃ」
ソルシエラが笑い、そして一歩踏み出した。
瞬間、茨を彷彿とさせる魔法陣が地面に展開され弾丸のように彼女を押し出す。
それを見てトウラクは反射的に迎撃を選んでいた。
「ルトラ、二振りッ!」
赤黒い大鎌とルトラが真正面から激突する。
そして、僅かな抵抗とともにトウラクは真正面から押し負けた。
「なっ!?」
体勢が崩れた瞬間、地面から茨が槍のように突き出される。
それを見て、トウラクは本来はカウンターで使うはずだった二手目を回避に使用した。
その場からトウラクの姿が消え、ソルシエラの攻撃が空振りに終わる。
「……その姿はなんだ」
「あら、気に入らなかったかしら」
ソルシエラは、後方へと移動したトウラクの方をユックリと振り返った。
ボロボロの黒衣。
しかし、僅かに先ほどとは違う。
所々、赤いベールのようなモノが破れた個所を覆い隠すようにしているのだ。
「なら、気に入るように私を着飾って頂戴」
再び、ソルシエラは真正面から飛び込んできた。
その行動にトウラクは面食らいながらも、なんとか対応する。
「っ、急に好戦的になったじゃないか!」
「でなければ貴方は私と踊ってくれないのでしょう?」
連続で振り下ろされる鎌。
その軌跡はまるで滅茶苦茶で、次の一手が読めない。
(全ての攻撃が無茶苦茶で、力任せ。だけど、今の彼女はそもそものスペックが桁違いだ)
攻撃を躱しながら、トウラクは観察する。
論理的ではない、彼女にしては珍しい攻撃。
しかし、それでも防ぐだけで精一杯なのは、あまりにも一撃が鋭いからだ。
(そう言えば、どうして砲撃を撃ってこないんだ? 拘束もしないし、転移だって――)
「考え事かしら、もっと私に集中なさい」
「ッ、ルトラ一振りッ!」
一振り分に限界まで魔力を込めて、トウラクは迫りくる大鎌をはじき返す。
が、凄まじい速度で振り下ろされた鎌を受け止めたトウラクの腕もまた外に大きく弾かれた。
その隙を、ソルシエラが見逃がすわけがない。
(マズい、次が来るッ!)
トウラクの予想通り、ソルシエラは大鎌を構えなおし。
「――っ」
突然動きを止めて、その場に片膝をついた。
トウラクはその隙をついて、追撃ではなく距離をとることを選んだ。
彼の牙塔家としての血が、本能的に追撃を否定したのである。
「……ふふっ、また逃げられてしまったわ」
立ち上がったソルシエラは優雅に笑った。
そして大鎌を引き摺りながらトウラクへと一歩、また一歩と近づいていく。
その服は、先程よりも赤いべ―ルが増え、赤と黒が混じり合ったドレスへと変化していた。
「私を止めたいのでしょう、ならば逃げるのは止めなさい」
ソルシエラはそう言って、大鎌を構える。
それを見て、トウラクは。
「そっか。そうなんだ」
トウラクは納得した。
「まだ理解していないんだね。もう、君が戦う必要が無いって」
構えるは漆黒の太刀。
鞘の中で増幅し、荒れ狂う魔力を無理矢理押さえつけ、トウラクは道具に命じる。
「星斬、抜刀用意」
■
ねえ星斬抜刀とか言ってんだけど!
ねえ星斬抜刀とか言ってんだけど!
『二回もいう事か?』
やばいって!
あれ原作後半で出てくる必殺技だって!
防御無視の斬撃が飛んでくるやつ!
こっちは勝手に作った設定の数々で縛りプレイになってるってのに!
『転移禁止、砲撃禁止、鎖禁止、使えるのはナンチャッテ茨触手だけ。ははは、何も出来ないねぇ』
へらへら笑ってんじゃねえよ!
ちょっと暴走しているトウラク君を、体を代償に止めるミステリアス美少女をしに来ただけなのに見てみなよ、彼の眼。
据わってるよ? あんなに据わった眼、中々見ないよ?
『まあ星斬といっても覚醒しているわけじゃない。大丈夫だろう』
本当に?
最近の君、何故かガバ多いからね?
こんな事なら、侵食形態を一点特化にするんじゃなかった……。
『フィジカル特化のムキムキフォームだ。その方が傷つくチャンスが増えるし、ボロボロになれる』
ドMみてえな思考。
あと服が一瞬すげえボロボロで恥ずかしかったんだけど。
『破れた個所は魔力によって作られたうっすい赤い布に覆われる仕組みになっている。時間経過でどんどん衣装が赤くなっていく仕組みだ』
それは凝ってていんだよ。
でもね、俺の勘違いじゃなかったらさ、これ定期的に痛み来ない?
『……あ、フォロー返さなきゃ』
このタイミングでSNSやってる?
答えてよ、ねえ。
『お、「ソルシエラの言いそうなことBot」が千人フォロワー達成したぞ』
変なアカウント作ってんじゃねえよ!
てかデモンズギアがBotの運営すんな!
『あと他に、ソルシエラの受けSSとR-18イラストを投稿する「★ヨミ@新刊頑張る」とか持ってるよ』
え、複アカ!?
星詠みの杖君、複アカなの!?
『他にも色々なアカウントを用いて、日夜ソルシエラ受けの布教活動をしているねぇ^^』
とんだ裏切り行為じゃねえか。
君だけ24時間貼り付けるんだからSNSはズルいだろ!
『おかげでソルシエラはネットじゃ受けの認識が強まってきたねぇ。草の根運動の賜物だよ^^』
貴様ァ!
『ははは、君一人が叫んだところで世界は変わらないさ!』
ラスボスかな?
『こっちはもう受けのソルシエラにしか興奮しないんだよ』
知らないよ君の性癖は。
こんなタイミングで暴露しないでよ。
『R-18 百合乱暴 ソルシエラ――あ、こっちはテレパシーの方か』
ねえ今検索してる?
まさかこのタイミングで趣味のSSかイラスト探しに検索してる?
俺の話聞いてた?
なんかこの形態、痛いんだけど。
『魔力を吸うときに痛みを与える様に設定したねぇ。定期的にその痛みは来るよ』
すぐそれ取り外せ。
なんでそんなことしたんだ。
『ソルシエラの苦しむ顔がえっちで……』
見たくて、とかじゃないんだ。
もう単純に君の性癖だって言っちゃうんだ。
『痛みと共にドレスが真っ赤になっていく……まるで血に染まっているようで美しいねぇ!』
芸術系サイコ敵キャラ?
じゃないよ!
え、じゃあもしかして俺は今から縛りプレイに、時々来る大激痛も考慮してトウラク君と戦わないといけないの?
『ちなみに、一割、二割とトラック割合が増えていくから気をつけたまえ』
どう気をつけろと?
『私も鬼じゃないから九割で止まる仕様だ』
それもうリアルなら手遅れレベルの大激痛なんだよ。
「――ルトラ、抜刀」
俺が星詠みの杖君にクレームを入れている間に、トウラク君は星斬を俺に放っていた。
抜かれた太刀は、距離的に届くことはない。
が、彼の放った斬撃は飛んでくる。
切断という概念そのものでの攻撃だ。
ありとあらゆるモノを切り裂き、防御を概念ごと切り捨てる最強の一撃。
余裕で俺を殺せる一撃なんだけど。
マジで正気じゃねえじゃん。
『真正面から大鎌で斬り払いたまえ。あの程度は余裕だ』
……本当に?
『信じるんだ』
本当だね!?
「不格好な星斬ね」
内心バチクソにビビりながら俺はクールにそう言って、斬撃に合わせて大鎌を振る。
その瞬間、彼の放った斬撃という概念は霧散した。
……本当だった!
『言っただろう。魔法を使わなくてよくなったからねぇ。その分のリソースで君の全身と鎌に最上級の干渉フィールドを張っている。あの程度では負けないよ』
信じていたぞ星詠みの杖君!
『この形態は近接特化。近づけば最強という風に仕上げた。まあ普通の形態でも出来ることだが』
いやぁ、流石星詠みの杖くなにこれめっちゃいたたたたたたたた!?
「ぎっぃ……!」
「さっきからどうしたのかな。調子が悪いなら、変な意地を張らずに僕に負けてくれ。そうすれば、全て終わるんだ」
「はぁっ、はぁっ……お断りよ」
俺は倒れそうになったが、何とか持ちこたえる。
おい、痛みが来る前に教えてくれ。
『そんな機能はない』
えぇ……。
『さあ、早く彼を抱きしめてやってくれ! 密着すれば干渉により暴走を止められる! 傷つきボロボロになっても、最後は優しく彼を抱きしめてくれ!』
それは……ちょっといいな。
ソルシエラをコンテンツとして見るならば、それはアリである。
メインヒロイン様がいない今だからこそできる素晴らしいイベントだ。
『そうだろうとも! さあ行こう相棒! 痛いのは君だけだし、苦しいのも君だけだが、私達は一心同体だ!』
……????
『行こう!』
んー……応ッ!
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