かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない~現代ダンジョンのある学園都市で、俺はミステリアス美少女ムーブを繰り返す~

不破ふわり

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四章 騎双学園決戦

第126話 堕罪

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 ソウゴにとってそれは未知の体験だった。

 憧れの人を追った先で眼にしたとある光景の数々が今も脳内を凄まじい速度で駆け巡っている。

 自分の胸を服の上から触らせるソルシエラ。
 必死の顔でソルシエラに覆い被さり何かをするクラムの姿。

 ソルシエラはそんな少女の頭を撫で、そしてまるで抵抗の素振りを見せなかった。

 一見襲われているようだが、どうやらそうではなかったようである。

(お、女の人同士……でも、なんだか……)

 ソウゴの中に在った種。
 それは、気が付かないうちに誰かに植え付けられていた新たな扉の種である。

 それが今日、花開こうとしていた。

「ソウゴ君、どうかしたの?」
「い、いいえ」
「あははっ、知らないお姉ちゃん達に囲まれて緊張してるんすよねー?」

 隣にクラム、そして隣にミユメ。
 ソファの上にちょこんと腰かけたソウゴは、完全に縮こまっていた。

 あの光景を目撃した後クラムによって捕えられたソウゴは、ミユメのラボに連行されたのである。

 どうやら今から、件のメカニックの発明品で女の子になったケイの着せ替えショーが行われるようだ。

(この人は、ケイお姉ちゃんがソルシエラだって知らない。こっちの人は、知ってる……)

 クラムに教えられた情報を元に、ソウゴは一人一人の名前と顔を覚えている最中だった。
 既に今回の事をおおよそ教えられたソウゴは、秘密を守る側の人間である。

 その緊張から少し挙動不審なのだが、それが周りにはただ初対面であるが故の緊張に見えているようだ。

「安心してくださいソウゴ君! 私達は凄く優しい人たちです! あ、モノマネしましょうか! ……えーでは、『ちょっとした段差に躓き、誰もいないのに言い訳をするプロフェッサー』を」
「するな。プロフェッサーは初対面の子供に悪手だろ」

 ヒカリに冷静にそう突っ込みを入れるクラム。
 そんな彼女を見上げて、ソウゴは考える。

――さっき、この人ソルシエラの事を襲ってなかった? と。

 平然な顔をしているあたりなれているのだろうか。
 普段はこうして友人たちと常識人のようなフリをして接して、裏ではソルシエラを――

「っ」
「あれ、どうしたのソウゴ君」
「な、何でもないです」

 先程の光景が脳にくっきりと焼き付いたソウゴは、それを振り払うように別の事を考える。
 例えば、自分と会ったあの日も、夜はクラムと――。

(考えちゃダメ! 違う、考えちゃ失礼だよ!)

 自分に叱咤しながら待つこと数分。
 やや疲れが見えるソウゴと、襲い損ねて若干モヤモヤのクラム、そしてウキウキのヒカリの三名の前で、ミユメのラボの扉が開かれた。

「――そ、その着替えてきたけど」

 扉の前に立っていたのは、の少女だった。
 真っ白で簡素なワンピースを身に着けた姿は、素朴ながらもその少女の美しさを際立てている。

「……あの、何か言ってほしいんだけど」

 顔を朱く染めて、ワンピースの裾をぎゅっと握った少女はそう言った。
 真っ先に、気を取り戻したミユメが恐る恐る問い掛ける。

「あの……どちら様……?」
「ケイだよ!? ……え、本当に分からなかったの?」

 ケイは自分の顔を指さして、必死に本物だと伝える。
 が、ミユメは疑わしいものを見る目で、ケイの髪を指さした。

「なんで黒いんすか」
「これはカツラだよ! こっちの方が、その……女の子っぽいからってクラムが……」

 自分で言っていて恥ずかしくなってきたのか、ケイは後半は蚊の鳴くような声でそう言った。
 このカツラが、ソルシエラの姿から出来るだけ遠ざけるための工夫であることを知る者は少ない。 

「……確かに言われてみればそうっすね」

 ケイの言葉でミユメは頷く。
 そして、他の人の反応を見るために横を向いた。

「可愛いですー!」

 ヒカリは脳のフリーズから立ち直るとぴょんぴょんと跳ねる。
 余程気に入ったのだろうか、見ているこっちまで楽しくなってしまうほどにオーバーなリアクションだ。

 問題は、残る三人。

「け、ケイお姉ちゃん……」
「可愛い……! うん、可愛いよぉ! こっ、これはミロクちゃんとミズヒちゃんに送らないと! こっち見てケイ君! 笑って笑って!」
「ケイ……私は……貴女の……」

 齢10にして脳を焼かれた少年、限界化したトア、そして一人だけ別の世界が見えていそうなクラム。

 ミユメはすぐに、面倒臭い事になると悟った。
 が、それはケイの着せ替え遊びを止める理由にはならない。

「ケイ君、どうっすか。女の子になってみて」
「……えっと、その、変な感じかな。あ、あの……あんまり見ないで」
「ッ!」

 ミユメは脳が撃ち抜かれる衝撃に椅子に背を預けて、天井を仰ぐ。
 その隣で、ソウゴもしっかりとハートを撃ち抜かれていた。

 以前、自分に優しく、そして余裕のあるお姉ちゃんとして振舞っていたケイが、今は顔を朱くして慌てている。
 その姿が、随分と際立って美しい。

 ソウゴはここに、美を知った。

「可愛いっすね……成程。恥じらいこそが、可愛いさだったんすか」
「か、可愛いかな……うん、えっとありがとうで、あってる?」

 ケイは居心地が悪そうに、視線を彷徨わせる。
 その間もトアのシャッターの音が鳴り響いてやまない。

「凄い似合ってますよー! 服もサイズピッタリでしたねー!」

 ヒカリの言葉に、ソウゴは気が付いた。

(あ、アレってもしかして普段から着させているんじゃ……)

 クラムの服という体で用意されたそれは、最初からケイのものだったのではないだろうか。
 であれば、ピッタリな理由にもなる。

 ソウゴは、自身の完璧な回答に震えた。

「あ、あぅ……」

 恥ずかしさで言葉が上手く出ないケイを前に、ソウゴは知らない感情が自分の中にあることに気が付いた。

(どうして、ケイお姉ちゃんが、他の女の人のものだって分かったのに、嫌な気持ちにならないんだろう……)

 その感情に、名前を付ける事は今の彼にはまだ出来ない。

 が、後にソウゴはそれを「思えば、あれこそが愛だったのかもしれない」と語っている。
 
 











 目の前で恥ずかしそうに微笑むケイ。
 その姿を見て、クラムは思わず叫びそうになった。

 感極まった訳ではない。
 自分がしようとした事がどれだけ罪深い事かを理解したからだ。

(私、ケイの事を襲っちゃった……)

 それが最低な行動であると、クラムはこの瞬間に実感したのだ。

「こっちにピースして、ケイ君!」
「い、いえーい」
「可愛いよぉ!」
「私とも一緒に写真撮りましょう!」

 盛り上がる彼女らの中心で笑うケイ。
 そう、ケイだ。
 ソルシエラではない。

 何処にでもいる、幸せになる権利があるただの少女だ。

 そんな少女の身体を私利私欲で汚そうとした己に、クラムは心底嫌気がさしていた。

 ケイにしてみれば、あの行動の数々は挑発でも何でもない。
 ただのスキンシップだったのだろう。

 しかし、クラムはそれを――。

(取り返しのつかない事になる前でよかった)

 もしもあそこで一線を超えていたらどうなっていただろうか。
 ケイは恐らく誰にも言わないだろう。
 そして自分は止まらない。

 そこに待っているのは破滅だ。

 ソルシエラという使命を背負った少女が、自分の救った人間に裏切られその体を貪られる。
 彼女にとって、そんな救われない結末があってはならない。

(きちんと謝ろう。うん、そして出来るだけ近づかないように――)

 その時クラムの手が引かれた。
 見れば、ケイがクラムの手を取って微笑んでいる。

「え?」
「トアちゃんが、この姿で集合写真を撮りたいって言ってきかなくて」

 困ったね、と言って笑う姿は何処かいつもよりも穏やかに見えた。

「わ、私は」
「ほら、行こう」

 既に並んでいるトア達の元へと、ケイが手を引く。
 そしてクラムを立たせたその瞬間、耳元まで顔を近づけて言った。

「いいのよ、貴女の全てを受け入れるから」
「っ!?」

 クラムは、ケイの顔を見る。
 彼女は微笑んでいた。

 が、その笑みは、何処か破滅的でこちらに手招きしているようにも見える。
 自分のすべてを見透かしたような、悪魔のような笑み。

「……ああ、そうなんだ」

 ケイとの一瞬の視線の交錯の間に、クラムは自分が重大な勘違いをしていた事に気が付いた。

(そっか、ケイもそうだったんだ。――それを望んでいるんだね)

 ソルシエラとして孤独に戦う裏側で、ケイの中に生まれた歪な欲望。
 ケイの中で確かに鎌首をもたげる異質なソレを、クラムは確かに感じ取った。

(ずっと、こっちを誘っていたんだ)

 クラムがケイを汚そうとしたのではない。
 そうなるように仕組まれていたのだ。

 最初からケイの手のひらの上だったのである。

 その事実は、どれ程クラムの救いになった事だろうか。
 そしてどれだけクラムを狂わせただろうか。

(そっちがその気なら、いいよ。どこまでも一緒に堕ちてあげる)

 その先に待っているのが地獄だとしても、クラムはもう迷わない。

「ほら、皆笑って―! 特にケイ君は笑って!」
「う、うん」

 ケイの姿を視界に収めながら、クラムはカメラのレンズを前に笑みを浮かべる。

(……私だけが、あの子の闇を抱きしめてあげられる)

 その笑顔は、どこか恍惚として見えた。

 そして――。



(やっぱりケイお姉ちゃんとクラムお姉ちゃんってそういうのなんだ……!)

 たまたまクラムの笑みを見たソウゴは、生唾を飲み込む。

 クラムとケイは、一人の未来ある若者を確実に入念にしっかりと終わらせていた。


 
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