上 下
88 / 234
三章 閃きジーニアス

第87話 実験ゴースト

しおりを挟む
 ジルニアス学術院は、ヤバい奴しかないのかもしれない。
 原作キャラ、モブキャラ問わず。
 俺は目の前の彼等を見てそう思った。

「――ダンジョン攻略スキップ部?」
「はい。楽したい同志が集まった部です」
「で、寝ながらダンジョン攻略の実験?」
「はい」

 カノンちゃんの等分された死によって、無事倒された生徒たちを起こして事情を聴けば、彼等は確かにそう言った。
 
 俺とカノンちゃんは二人で首をかしげる。
 マジでなに言ってんだ? 

「夢遊病からヒントを得たんですよ。予め行動をパターンとして入力し、魔力によって操作。そうすれば、当人に意識が無くともダンジョン攻略が可能なのではないかと」
「可能じゃないでしょ、なに言ってんの君」

 カノンちゃんが至極真面目にそう言った。
 そりゃそうだ。

「これが成功すれば、俺達は寝たままダンジョン攻略を出来ることになります。昼は研究に没頭して、夜中は寝ながらの睡眠ダンジョン攻略。どうですか!」
「失敗だね」
「失敗ですよ、それ」

 俺とカノンちゃんの言葉に、生徒は悲しげな表情を浮かべた。
 泣くなって。ごめんて。

「今はまだ実験段階で、滅多に人が来ないこの3棟で夜中に試していたんですよ。幽霊の噂まで流して、人が来ない様にしていたのに……」

 えぇ……幽霊ってこれかよ……。
 なんなんだよ……メッチャガッカリしたんだけど……。

『トアちゃんの気絶損だねぇ』
 
「どうしてこんな大人数でいたのさ」
「部員たちでそれぞれ役割りをゲームのように分担して、ダンジョン攻略を行うことにしたんです。そのデモンストレーションというか」

 複数人の部員達は頷く。
 成程……睡眠中は複雑な挙動は出来ないから、それぞれ簡単なパターンのみでダンジョン攻略をしようとしていたと。

 え、これ幽霊が増えた噂って、単にこうやって役割を増やしていったからじゃ……。

「ですが、こうして他の生徒に襲い掛かってしまうようでは駄目ですね。ダンジョンの魔物か、ダンジョンの主相手にのみ反応できるようにプログラムを組んだのですが。流石に一時間で組んだプログラムでは精度が甘かったようです」
「よくそれでやろうと思ったね……。というか生徒会に申請は出したの? 明らかに馬鹿で危険な実験だけど」

 すると、生徒はサッと眼を逸らす
 カノンちゃんがさらに一歩近づいて、じーっと見つめると生徒は観念したように息を吐きだした。

 ずるい、俺も美少女にジーって見られたい!

「一週間前に申請したのですが、ルカ副会長に「んな意味わかんねえことしてる暇あるなら、さっさとソルシエラの魔法式を解析しろ」って却下されて」
「あー、ルカ相手じゃそうだねぇ。ニコとかヒショウ会長だったら即OKだったのに」
「そうですよ! 一か月前にヒショウ会長にお願いした時は「虹色発光ってメッチャカッコいいね! よっしゃ、俺からも予算上げちゃう!」って快諾してくれたのに」
「そう言えばアレも君たちかぁ……。なんか、見覚えある顔だとは思ったけどさ……」

 カノンちゃんは額に手を当てて、天を仰ぐ。
 この人とミユメちゃん、毎回こんな事件を解決してたんだ……。

「まあ、今回は私からいい感じに報告しとくからさ、これ以上はいったんやめときなよ? 今のルカってピリピリしてるからさ。マジで、怒ると怖いよー!」

 ぶるぶると震えるカノンちゃんを見て、生徒達は皆うんうんと何かを思い浮かべながら頷く。なんで全員が経験あるんだよ。

「わかりました。それじゃあ今回は大人しく引き下がりましょう。行こう、皆」
「はい部長」

 生徒達は立ち上がると俺達に謝罪をして、踵を返した。

「次はダンジョンコアの整理がしやすいようにダンジョンコアを自在に発光させるあの研究をしようか」
「おーい、私が庇える範囲での研究にしてねー!」

 アレがジルニアス学術院で部で成立している辺り、たぶんここってあんなのばっかりなんだろうな……。

 さっさと行ってしまったイカれた部の彼等を見送って、カノンちゃんはため息を吐く。

「全然ロマンも何もなかった。幽霊って、いないんだね……」
「そうですね……。あ、トアちゃん、起きて」

 俺は、重砲に抱き着いたまま気絶したトアちゃんを起こす。

「う、うーん…………はっ、ゆ、っゆうれいは!?」
「幽霊はダンジョンを寝ながら攻略したい人たちだったよ」
「????」

 目覚めてすぐで、脳が覚醒していないのだろう。
 トアちゃんは頭いっぱいに疑問を浮かべているようだった。

 また後できちんと説明してあげるからね。

「さて、というわけで――解決しちゃいました。おめでとう!」
「お疲れ様です」
「えっと、どういう事……?」
「ダンジョン攻略スキップ部が幽霊だったんだよ」
「????」

 もー、寝ぼけているのかしら。
 確かにトアちゃんったらいつもはもう寝ている時間だものね。
 ナイトキャップとパジャマでも作ってもらう?
  虹色発光するやつ。ついさっきそういうの得意そうな人たちと知り合ったからさ。

「今回の事件の真相を暴いた功績で、私は後一ヶ月は粘れるよ。予算もゴネてバッチリゲットするし。よーし! 今日は私がお夜食を奢っちゃうぞー! ジルニアス学術院は徹夜がデフォだから、夜もやってる飲食店が多いのだー!」

 俺とトアちゃんの肩を抱き寄せて、カノンちゃんはそう言って笑う。はい、1ギルティ。
 というか、そのお夜食のお金って研究予算っすよね。

『美少女から奢られる飯は美味いか?』

 そりゃ美味いでしょ。

 そうして事件解決でおしまいムードだった俺は、ふと思い出した。
 幽霊の噂は一つだけではなかったのである。

「そう言えば、幽霊が生徒を食うっていう噂は……?」

 噂が彼等の物だとしたら、食うっていうのはおかしいのではないだろうか。

「うーん、そうだなぁ」

 カノンちゃんは考えることもなく、すぐに笑って答えた。

「デマだよ。そんな事がある訳ないでしょ。近寄らせないように怖がらせるための嘘」
「嘘、ですか」

 そう言われれば、もう疑うことは無い。
 実際に幽霊問題は解決したのである。

「ステーキ食おうぜステーキ! あ、夜中の食事とか気にするタイプ? そういうのが気になっちゃうお年頃?」
「え、あ、食べれるなら別に私は夜とか関係ないです……」
「いいねぇ。私もなんだよー」

 うーん、緩いな。

 この緩さから、俺はスピンオフについて確信を持った。

 これはアレだ。
 ジルニアス学術院で起きるギャグ的事件をミユメちゃんが解決するタイプのスピンオフだ。
 もしかしたら四コマ漫画かもしれない。
 ジルニアス学術院のコメディ物だわ。

 追放後になんか美少女2、3人のグループに助けられてそこから一緒に事件を解決したりするんだろ?
 または、最初はカノンちゃんとミユメちゃんの二人だったけど徐々にメンバーが増えていくか。

 俺はそういうのに詳しいからわかるんだ。
 あのダンジョン攻略スキップ部とかも、絶対に準レギュでしょ。
 モブキャラであの濃さはあり得ないもん。

 それなら後はそれっぽいキャラを探して、ミユメちゃんとくっつければ良いな!
 簡単だ、勝ったわよ。

『そう単純でいいのかい? カノンの様子が一瞬おかしかったんだろう』

 別に忘れたわけじゃない。

 俺は、それをネームレスが何かしたのだと思っている。
 アイツが余計なことをして、ドタバタギャグコメディに水を差したんだ。

 カノンちゃんの様子も見ながら、ミユメちゃんの真の仲間も探す。
 やれやれ、ミステリアス美少女ってのはやることが多くて困るねぇ。

『ネームレス、一体何者なんだ……!』

 それ止めろ、負けた気になるから。









 機械的な音が規則的に小さく鳴り響く病室で、ソレは突然起き上がった。
 時刻はすでに零時を回っている。

「……」

 何かが足りない。
 そう思った。
 この不快感があっては眠ることもできない。

 やがて、ソレは無意識の内にお腹を撫でて不快感の正体に気が付いた。
 口の中に唾がたまり、胃が鳴いている。

 そうだった、自分は空腹だったのだ。

「……おなかへった」

 既に、一日食べていない。
 生きるとは食べる事である。
 ならば、私は食べて生きなければならない。

「ごはん、たべなきゃ」

 ソレの行動を支配しているのは本能だった。
 靴も履かずに、裸足でぺたりと床に降り立つ。

 そして、ふらふらとおぼつかない足取りで病室を後にした。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...