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一章 星詠みの目覚め

第5話 ミステリアス美少女はある程度の強さが保証されている

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 がらがらと崩れ落ちた瓦礫と共に、俺は落下中である。

 幸いにも、探索者の身体能力というのは凄いもので、落ちてすぐに空中で体勢を立て直す事ができた。
 なんなら、このゴスロリ衣装に相応しい、舞い降りたかのような着地も可能だ。無音で。

 そう、こんな感じでね!

 スッとその場に降り立つ。
 それはまるで天より遣わされた天使のようだぜ!

「――――あ、貴女は誰ですか!?」
「え」

 誰かいるぅ!?
 振り返れば、そこには見たことのない少女がいた。
 明らかに染めているとわかる金に紫のメッシュが入ったショートカット。

 そしてあの黒い制服は、騎双きそう学園だったか。

 騎双学園とは、トウラク君と敵対する学園であり、超巨大な学園である。
 俺の騎双学園への印象は悪の帝国だ。

「急に、天井から降ってきましたけど……お嬢さん、お名前は」
「お嬢さん……?」

 そう問われて、俺は理解した。
 女装しているから間違われているらしい。それも暗がりなので違和感は殆どないのだろう。我ながら、自分の美少女レベルの高さが怖ろしい。

 そして、こういう時は全力で美少女に徹するのみである。
 騎双学園とかいう悪の学校の生徒一人騙したところでなんの問題もないだろ。

 俺のロールプレイにつきあえよ。

「貴女こそ、見たことがない顔だけれど。たしか、ここはフェクトム総合学園の初心者用のダンジョンの筈」

 そう言って俺が睨みを聞かせれば、少女はさっと眼を逸らした。

「わ、私はその噂のダンジョンを探検といいますか……配信といいますか」
「配信?」
「そっ、それよりも!」

 少女は慌てて俺に近づく。
 止めろ来るな女装がバレたらどうすんだよ。

「私、追われてて! たぶん、このエリアの防御機構の一つだとは思うんですけど……」

 少女は、パタパタと騒がしく身振り手振りでそう伝えて、自分が逃げてきたという扉を指さした。
 あ、扉吹っ飛んだ。

「ひぃっ!」

 少女が怯えるので、俺もちょっと怖くなってきた。
 が、ビビっているとバレるとダサいし、俺の扮しているミステリアス美少女はビビったりしないので根性で無表情を貫く。

 破壊された扉の向こうから、のそりと人型の影が姿を表した。

 ……ん? 人型?????

「あ、アイツに追われているんです! 気をつけてください!」
「そう」

 アイツ、ミズヒ先輩の言っていたボスじゃね?

 至る所が膨れ上がった肌色の表皮に、全長三メートルを超える人型。

 つまり、気持ち悪い人型。

 どう考えてもボスである。
 そう言う事なら、俺の獲物だ。せっかくだし、美少女の短刀捌きを見てもらおう。

「あれ、私が殺しても構わないの?」
「こっ、殺せるんですか!?  私でもまともに歯が立たなかったのに」

 ははーん、コイツも初心者だな?
 駄目だよ、きちんと練習しなきゃ。あと女装。

「別に、あの程度なら問題ない」

 俺は少女を下がらせてボスの前に立つ。
 そして、ダイブギアに魔力を流し、短刀を召喚! ――しようとした。

「黒い、鎌?」

 少女の声が、俺の背後から聞こえる。

 そう、俺は鎌を手に持っていた。
 あれぇ!?
 いつの間にか赤い腕輪もあるし、どうなってんだ!
 ダイブギア君、返事してよぉ!

「ひいっ、来ますよぉ!」
「問題ない」

 大問題だァ!

 でもやるしかねえ! 鎌なんて使ったことないけど、とにかく戦うぜ!

 初心者用ダンジョンは死なないようになっているらしいし、チャレンジは大事だ。
 最も、この見た目で敗北は許されないのだが。

 俺は向かってきたボスの攻撃を回避する。
 大振りで単純な攻撃だ。というか、遅い。

「まるで児戯おままごとね」

 これなら鎌でも余裕そうだ。
 こんなのにビビっていたの? そんなんじゃ探索者やっていけないよ。

 攻撃をひらひらと躱しながら、俺は鎌を振るっていく。

 楽しい。ゴスロリ衣装に身を包み、可憐に戦う俺……を疑うことなく見ている少女。
 
 この瞬間の全てに、俺は感謝をしていた。

 そうだ。俺はこういう事がしたかった!!!!
 
 ボスの強さは他愛もない。
 時間にして二分ほどで、俺はボスの四肢を切り落として地面に転がしていた。

 さて、どうトドメを刺してくれようか。やっぱり心臓か? ……心臓って何処にあるんだコイツ。

「そいつ、驚異的な再生能力を持っています!  何処を消し飛ばしても復活するんですよ!」
「そう」

 情報感謝。……その口振りだともしかして何回も消し飛ばした? 君、実はそこそこ強い探索者だったりする?

 まあ、今はいいか。俺がボス倒したんだし、俺の方が強いことに変わりはない。
 そんなこんなで俺がトドメに悩んでいたその時だった。

『■■■■■』

 俺の脳に、電撃のようなものが走る。あるいは声と形容することができるだろうか。
 同時に、俺は鎌の使い方を理解した。
 そして、この鎌の名前も。

「――星詠の杖ソルシエラ

 それがお前の名前なんだな。

 ……いや名前は分かったけど、勝手に人の脳に情報流さないでね。

 俺は得た知識通りに、準備をする。
 鎌の切っ先を地面に突き立て、刃とは正反対の柄の先端をボスへと向けた。
 向けた持ち手の先には、銃口。

 まるで、巨大な銃のようなシルエットとなった星詠の杖の柄の側面から、引金付きのグリップが飛び出る。

 ははーん、これを握って引金を引けばいいわけね。

 ボスは少女の言葉通り、四肢を再生し始めている。

 が、もう遅い。

「星々の瞬きを見たことはある?」

 こんな事を言えちゃうくらいには、今の俺には余裕がある。

 ミステリアス美少女が、圧倒的な力で立ちまわる。
 これこれこれ!  こういうのでいいんだよな。 

 俺は気持ちよさの頂点のままに引金を引いた。
 瞬間、辺りに昼が訪れたと錯覚する輝きが部屋を満たす。

 それが鎌の柄の先から放出されているビームだと気が付いた時には、全てが終わっていた。

 三秒もなかっただろう。ビビって引金から指を外したが、既にボスのいた場所は地面も壁も融解して跡形が無くなっており、壁を何枚も突き破ってずっと奥までビームは届いているようだった。

…………やっべ。

「ふう」

 OK、まずは深呼吸だ。
 それから――。

「す、凄い。今のは一体?」

 そうだコイツいるんだったぁ。

 そういうヨイショは嫌いじゃないんだけど、今は遠慮してくれないか。
 こっちは転入早々、学校の大切なダンジョンをぶっ壊した事実でヤバいんだ。

「ソルシエラと言っていましたが、その大鎌の名前なのですか? というか、どこの学園に所属を!? いえ、そもそも貴女のランクは――」
「答える義理はない」

 少女の言葉を遮って、俺は黙らせる。
 俺の感情を悟って空気を読んだのか、鎌は消失し腕輪も体の中に消えていった。

 消えるな。お前は残って良いんだよ。

 ともかく、ここに長居するのはヤバイ。
 さっさと逃げるぞ!

「それじゃ、私はこれで。貴女もさっさと帰りなさい。もうここには何もないわ」

 ボス倒したし、いる意味ないよ。
 じゃあね!

 少女を無視して、俺はその場を後にする。

 …………ん? そういえば、そもそもどうして騎双学園の生徒がここにいたんだろう? まあいいか。アイツら総生徒数が多すぎて何処にでもいるし
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