花開く私たち

新ゆみこ

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【3 認識したということ】

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 白石くんが目立たない理由が分かった。
 一番大きな理由は、あらゆる課外活動に参加していなかったこと。
 部活、生徒会、ボランティア、どれにも属していない。毎日、授業が終わるとさっさと学校を出て行ってしまうみたい。同じ空間にいる時間が短ければ認識できる機会が少なくて当然だ。
 次に大きな理由は、成績優秀で品行方正という点。
 1位2位なら目立つけど、10位以内をキープしている感じだからあまり目立たないのかな。いや、十分凄いんだけど・・・。たぶんみんなに認識される機会が少なすぎて、白石くん=優秀のイメージが固着していないんだと思う。
 そして、真紀も言っていた通り、みんなに優しくて乱暴なことをしない言わない押し付けない。よく言えばそうなんだけど、悪く言えば人と積極的に関わらない・・・ように見える。
 そんな感じだから、恋愛以外でみんなの話題に上ることもなく、3年間とも違うクラスだった私が彼を知ることもなかった。
 きっと、球技大会も文化祭も積極的に活動してこなかったんだろうな・・・。
 私は机に肘をつき、軽く握ったこぶしでこめかみを支えて下を向いた。
 授業中だけど内容は頭に入ってこない。2学期始めの席替えで運良く引き寄せた、窓際で後ろから3番目の席。広げた教科書とノートに集中しているふりをして、目だけを窓の外へ向ける。
 グラウンドでも眺められればいいのだろうけど、ここから見えるのは鬱蒼と茂った森と、その向こう、遠くに覗く講堂の屋根のみ。
 昼間の光はぎらぎらと強くて、樹々の葉が主張強めにてらてらと反射させていた。
 まいったなあ。相変わらず、授業に集中できない。
 もう内部進学に必要な成績は出ちゃったし・・・。
 それは授業に身が入らない都合の良い言い訳。
 内部進学7割と言っても各学科・各専攻毎に人数枠が決まっていて、希望者が枠を超えた場合は当然成績上位者から決まっていく。成績は1年生から3年生1学期までの総合成績で決まる。希望の心理学科は倍率が過去平均1.2倍で合格ラインは5段階評価の平均3.8。私は・・・すれすれの3.8だった。
 おそらく合格するだろうけど、余裕があるとも言い難い。
 そもそも、その希望学科だって私は・・・
 いつもは蓋をしている感情が湧いてくる。また暗くて重いものが胸の中を浸食し始めた。
 やば、気分が落ちる。
 私は肘を解いて身を起こすと、開いたノートに放っていたシャープペンシルを手にした。
 やめやめ、こんな、いまさら蒸し返したって仕方ないことは考えない!
 気持ちを切り替えようと気合を入れたら、そんな私をからかうように授業終了のチャイムが鳴り響いた。肩から力が抜ける。ああ、私って、いつもこんな調子だな。
 休憩時間に入ると、あっという間に教室内が騒がしくなった。
 窓際の席になれたのは良かったけど、仲の良い人たちとはだいぶ遠くなってしまった。いつもならお互いに机の間を掻き分けてわずかな時間をお喋りで費やすんだけど・・・
 今日はなんだか疲れてしまって机に突っ伏した。次の授業まで少し眠ろうと思った。
 その時、
「ねえ、A組の白石くん、鈴木さんと別れたんだってー」
 それまで遠くに聞こえていた田中さんの声が、すごくはっきりと届いてきた。
 どきん、と胸がひとつ鳴る。同時に眠気が瞬時に飛んだ。
「短かったねー。夏休み前からだったよね? どっちが切り出したん?」
「鈴木さんがキレたんだって。他の女と仲良くすんな、って」
「あー、鈴木さんそれ言いそう」
 駐輪場の通路にぺたりと座った彼女の顔が思い出された。
「可愛いんだから黙ってりゃいいのに」
「まあー、自分が一番じゃないとダメな人だからねー」
 確かに可愛いと思った。真紀とは全然違うタイプ。気が強そう・・・。そして、嫉妬深そう。知らないけど。
「だとしても、白石があーゆーヤツだって十分分かってるだろうに」
 この声は新村さんかな。白石くんのことを知ってそうだな。
 自分の耳が大きくなるのが分かる。あたしって、こんなゴシップ好きだったっけ?!
「白石は別に他の女と仲良くしてるつもりはないんだから。あいつは男も女もない。みんなに平等なだけなんだから」
「だよねー。でも、それが白石くんの罪なんじゃないー?」
 田中さんの物言いに、私は少しむっとした。そんな言い方、なくない?
 白石くんは悪くないと思う!
 立ち上がって言う勇気はないけど・・・。
 勇気のない私とは反対に、
「罪じゃないって。それが白石の良い所なんだからさー」
 新村さんの強めの反論が小気味よく響いた。
 カッコイイ、と思った。けど、
「まっ、メンヘラ惹き付けてるのはあいつの悪いところだけど!」
 そう言って新村さんは笑い飛ばした。
 ・・・・・まあ、ね。
 私の、ぶわっと沸き上がった白石くんを擁護する気持ちが、一瞬にしてしおしおと萎んでいった。
 やっぱり、白石くんとはあんまり関わらないでおこう・・・。
 そう思ったのに。



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