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第4話 刺客

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「ユキは物凄く強そうだけど、まさか冒険者パーティーにやられたの?」


ユキと出会った時に大怪我を負っていた理由を聞いた。


「それを話すには、我の生い立ちから話さねばならぬ」


「じゃあ、ワインでも淹れてあげるよ」


翼はワインと簡単に出来るクラッカーにチーズ、サラミをのせたつまみを出した。


ユキはキマイラの王様の息子で、白い神獣として生まれた。


けれどキマイラは、頭がライオン、鷲の翼と蛇の尾を持つ種族。


白いライオンの姿をした王の息子を誰も認めなかった。


年老いた王が亡くなりユキが引き継ぎ王になった日に反乱が起きた。


ユキを認めない勢力の反逆だった。


ユキは王の座を降りると言ったが、力を示したい若いキマイラが襲い掛かってきた。


他のキマイラよりも圧倒的な力を持つユキは、仲間と戦う事を選ばず無抵抗で大怪我を負った。


キマイラの王国が出来た頃の神託に、白いキマイラは別の姿で生まれてくる。


その者は神獣であり、全ての魔物の王である。


最初からキマイラの住み処は、ユキの居場所ではなかったのだろう。


「そっか、ステータスに神獣って出てたもんな。でもキマイラより圧倒的に強いってさすがだな」


翼はユキの美しい鬣を撫でた。


「ユキちゃんきれい」


そしてリーフはまるで今の話が理解出来たかのように、ユキに寄り添った。


「うむ、もっとワインをくれ」


「いける口だな」


翼はワインを並々と注いでやった。


ユキは2人との生活も悪くないと思っていた。


「こっちの方向に真っ直ぐ行くと、どんな街があるんだ?」


翼は歩きながらユキに話しかけた。


「今歩いている方向には砂漠だな」


「砂漠?街は?」


「砂漠を越えればサンドラ王国があるが、歩いていくのは厳しいぞ」


「じゃあ、どうしてこっちに歩いて行くんだよ」


「我は知らん。そちの行くところに付いて行ってるだけだ」


はあっ、そうだ。


ユキが悪い訳じゃない。


でも、砂漠に行くわけないだろ。


この無駄飯食いめ。


「今、我の悪口を言ったな」


「何も言ってないだろ」


「ないない」


リーフが2人の様子を心配そうに見上げていた。


「何でもないぞ。それで一番近い街は、どっちなの?」


「一番近いのは山の麓の村だが、その山がキマイラの砦だ」


「それって近付いたらヤバいやつじゃない」


「うむ」


「じゃあ、次に近いのは?」


「このまま歩いて砂漠に出たら我の背中に乗ってひとっ飛びするか」


ゴクリ、ひとっ飛びって単語が恐い。


「するか?」


「反対方向に歩いてエリュシオン王国に向かうか、東、左側に向かってマケドニヴァだな」


「つまり、どこも近くないんだな。キマイラの山の麓以外」


リーフがピョンピョン跳んで歩き回る。


ザッ


頭上からデカイ魔物が、リーフ目掛けて飛んできた。


「いたいの」


リーフの頭の葉っぱが魔物の足に踏みにじられていた。


「おっと、踏みつけるつもりが逃げやがったな」


「リーフおいで」


翼はリーフに駆け寄り両手を広げた。


リーフはすぐさま翼の胸に飛び込んできた。


「翼、我の後ろの木に隠れていろ」


「分かった」


「やっと見付けたぞ。死体がなかったから、逃げ隠れしてると思ったぞ」


「我がお前のような小物に本当にやられたと思ったのか」


ユキが全身の毛を逆立てていた。


「お前の死骸を皆の前に運んで、俺が王になってやる」


ガハハハっ


茶色いキマイラがユキに襲い掛かった。


ユキは襲い来るキマイラの翼を片腕で引き裂くと、首根っこに噛み付いた。


「ぎゃあああっ離せ」


「グシュッ」


ユキは片足でキマイラの頭を地面に押さえ付けて踏み潰した。


見比べてみれば瞭然で、キマイラはユキよりも小さかった。


「終わったぞ」


「ユキちゃん葉っぱいる」


「リーフよ、大丈夫であったか?」


「いたいしたの」


「リーフ、よく頑張ったもんな」


翼は腕の中のリーフを撫でた。


「ステータスオープン」


【名前 ユキ
【HP 6020/6500
【MP 4350/5000
【スキル 神獣
【種族 キマイラ


「ユキさんや、HPもMPも減ってないのですが」


「我があんな小物にやられる訳がない」


「そいつは、反乱の首謀者じゃないの?」


「おおっ、そう言えばこいつが我に噛み付いて来た奴だ」


「だったらこいつを持って、キマイラの砦に向かおう」


「何じゃ?」


「反乱って言う位だから、これからも刺客が突然襲い掛かってくるんじゃないのか」


「我が返り討ちにしてくれる」


「こいつらが、お前の相手にならないのは分かったよ」


翼の声が怒りで低くなっていた。


「でも一歩間違えていたら、リーフは踏み潰されていたんだぞ」


「すまぬ」


デカイユキが背中をすぼめて小さくなっていた。


「ユキが悪いわけじゃないのは分かっている。でも一緒に旅をするなら片をつけよう」


「うむ」


「先程落とされたリーフの葉っぱを拾って、持っていこう」


翼はキマイラに踏みつけられたリーフの葉っぱを拾った。


「そう言えば麓の村の人が自衛団を組んでキマイラを退治したり、その逆とかはないのか?」


「村とキマイラの王国は持ちつ持たれつで、長いこと共存してきた」


「へぇ、魔物と人が共存か」


「おかしいか?」


「いや、ユキのお父さんは良い王様だったんだなと思ってさ」


つまり、バッグにキマイラの王国が付いていれば村は他国に襲われないのだろう。


そしてキマイラの王国も村を襲わない事で、見逃されているのかもしれない。


共存共栄か。


「ごはん」


リーフはお腹が空いたらしい。


「ユキ、村はまだ遠いのかな?だったら、ここで飯にしよう」


「いや、あの先に見えて来たぞ」


100M先に森の出口が見えて、さらにその先に山と村が見えてきた。


「もうすぐ着くから、村で食べるか食料を調達しようか」


「何かおかしいぞ」


ユキが目と耳をそばだてている。


「キマイラ達に村が襲われている」


「そんな┅┅ユキ、同族と戦えるか?」


「無論だ」


「助けに行こう」


「では、我の背に乗れ。リーフを落とすなよ」


「おちないもん」


リーフが自分でユキの背中に飛び乗ろうとして、背中を越えて反対側に落ちそうになる。


ユキが頭でリーフを拾い上げて翼に渡す。


翼はリーフを抱えて、ユキに股がった。


「リーフ、2本の腕をビューンって出して、ユキの背中の毛をギュッて掴んでね」


「ビューン、ギュッする」


リーフはユキの背中で腕を2本出して、毛をギュッと掴んだ。


「待たせたな。行くぞ」


果たして村人は生き残っているのか。

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