8 / 13
形から入る
しおりを挟む
村の端にある牧場の、牛が放されている柵の中。緩やかな丘の上にある牛舎に飛び込むと、ミアは元気に声を張り上げた。
「ディーン、行くわよ!冒険者ギルドに案内してちょうだい」
「あのさ、何でオレがここに居るって知ってるの?」
「牛乳配達に来た時にカーズさんが言ってたのよ。剣の修理もまだでしょ?カートさん材料が足りないって言ってたしついでに買いに行くわよ」
「遅いと思ったらそういうことか…町でやればよかった」
うまい具合に牛小屋掃除のバイトを終わらせたディーンをお供に、ミアは一番近いギルドがあるトナの町へと向かった。ちゃっかり借りた馬を走らせると、20分ほどで到着だ。馬に乗れないディーンを相乗りさせて、ミアは見事な手綱さばきを披露する事となった。
「ところで姉ちゃん、ギルドに何の用?」
「あぁ、冒険者になろうと思って」
「は!?」
ギルドの扉を、今まさにくぐろうとした所だった。
「…はぁ!?」
「何よその反応」
開いた扉をもう一度閉めて、ディーンはミアに回れ右を促す。
「…本気?」
「もちろん。店で新しい商品を扱いたいんだけど、冒険者じゃないとだめなんですって」
「って事は危険な物を取り扱うんだな?何か騙されてないかそれ」
「弟が斡旋するから平気よ」
と、説明してみてもディーンは中に入れてくれなかった。
「とりあえず、その恰好はまずい。この地方は女の冒険者が少ないから、絶対変な連中に絡まれるぞ」
「じゃあ装備整えるの付き合ってよ。軽くて丈夫な鞄も欲しいの、よろしくね先輩」
「…じゃあ俺がいつもいく店覗くか」
先輩と呼ばれたことに気をよくしたのか、心なし協力的になったディーンであった。
「まず厚手のズボンと…皮のベストぐらいは付けて欲しいな。柔らかいグローブもあれば」
「初心者だから軽めでしっかり守れって感じなのね」
「いや、もういい年してるから重いとヘバるから。後やっぱ女だし傷が残らないように」
「やだ怒る前に誤魔化されたわ…やるわねあんた」
気のいい店主も交えて相談しながら、ズボンとベストを選ぶ。元々ワンピースを着ていたので、ズボンと合わせるシャツもお買い上げだ。
「最低限これぐらいは必要だろ。600オルクってとこか、姉ちゃん予算は?」
「えっとねー、今財布見たら10万入ってたから余裕!ディーンも何か買ってあげるよ」
「まじか、すげぇ!本気なんだな!だったら上をブレスト・アーマーと皮のコルセットにして、ズボンは防水でポケットが多いヤツで耐熱の手袋探してブーツも買いに行こうぜ。仕込みスパイクのいい靴があるんだ、帽子もいいな髪をまとめると女っぽくないし」
急にスイッチが入ったディーンに身を任せ、ミアは徐々に見た目だけはがっつり冒険者になっていった。
おそらく今言ったラインナップはディーン自身が欲しくて目を付けていた商品だと推測し、お尻の部分がやや変色しているのでズボンをプレゼントする事にして、二人で色違いのお揃い姿となった。
装備が完成したところで、軽く食事をしてから武器屋に向かう。髪をまとめて帽子に入れたことで男性的な印象になったのか、屋台から兄ちゃんと客引きされてミアはおかしそうに笑った。
「私の顔って男っぽかったのね」
「いやそんな事ないから気にしないで、その恰好だからだよ。女の冒険者って露出多い人が目立つし」
言われてみれば、村で見かけた魔法使いちゃんはミニスカにロングブーツだったなとミアは思い出す。
まぁあの軽装はバトルスタイルにもよるものだとは思うが。
「守ってくれる人がいるからできる格好だよな。都会には結構いるよ、回復とか補助専門の女冒険者」
「別にいいんじゃない?やっぱり需要はあるんだろうし、支える人も必要だし」
お店の経営側から言わせてもらうとやっぱり受付は可愛い女の子の方が客入りがいいし、とは声には出さなかった。看板娘はいても看板息子はあまり聞かない。そういう事である。男が多い冒険者相手に稼ぐ店舗限定なのかもしれないが。
「そういや武器、どうする?姉ちゃん何が使えるの」
「武器はね、か弱いから手斧とかがいいかなって思ってるんだけど」
「か弱いから斧ってどういう事だよ!短剣でいいだろ」
「剣はコツがいるでしょ。斧はぶん回せばいいし振りかぶれば威力が上がるじゃない」
脳筋な発想から片手斧を購入し、冒険者としての形が完成した。
「よし、これで大丈夫だろ」
ディーンを先頭に、ギルドの門をくぐる。
ようやくミアはギルドへ入ることが許されたのであった。
「ディーン、行くわよ!冒険者ギルドに案内してちょうだい」
「あのさ、何でオレがここに居るって知ってるの?」
「牛乳配達に来た時にカーズさんが言ってたのよ。剣の修理もまだでしょ?カートさん材料が足りないって言ってたしついでに買いに行くわよ」
「遅いと思ったらそういうことか…町でやればよかった」
うまい具合に牛小屋掃除のバイトを終わらせたディーンをお供に、ミアは一番近いギルドがあるトナの町へと向かった。ちゃっかり借りた馬を走らせると、20分ほどで到着だ。馬に乗れないディーンを相乗りさせて、ミアは見事な手綱さばきを披露する事となった。
「ところで姉ちゃん、ギルドに何の用?」
「あぁ、冒険者になろうと思って」
「は!?」
ギルドの扉を、今まさにくぐろうとした所だった。
「…はぁ!?」
「何よその反応」
開いた扉をもう一度閉めて、ディーンはミアに回れ右を促す。
「…本気?」
「もちろん。店で新しい商品を扱いたいんだけど、冒険者じゃないとだめなんですって」
「って事は危険な物を取り扱うんだな?何か騙されてないかそれ」
「弟が斡旋するから平気よ」
と、説明してみてもディーンは中に入れてくれなかった。
「とりあえず、その恰好はまずい。この地方は女の冒険者が少ないから、絶対変な連中に絡まれるぞ」
「じゃあ装備整えるの付き合ってよ。軽くて丈夫な鞄も欲しいの、よろしくね先輩」
「…じゃあ俺がいつもいく店覗くか」
先輩と呼ばれたことに気をよくしたのか、心なし協力的になったディーンであった。
「まず厚手のズボンと…皮のベストぐらいは付けて欲しいな。柔らかいグローブもあれば」
「初心者だから軽めでしっかり守れって感じなのね」
「いや、もういい年してるから重いとヘバるから。後やっぱ女だし傷が残らないように」
「やだ怒る前に誤魔化されたわ…やるわねあんた」
気のいい店主も交えて相談しながら、ズボンとベストを選ぶ。元々ワンピースを着ていたので、ズボンと合わせるシャツもお買い上げだ。
「最低限これぐらいは必要だろ。600オルクってとこか、姉ちゃん予算は?」
「えっとねー、今財布見たら10万入ってたから余裕!ディーンも何か買ってあげるよ」
「まじか、すげぇ!本気なんだな!だったら上をブレスト・アーマーと皮のコルセットにして、ズボンは防水でポケットが多いヤツで耐熱の手袋探してブーツも買いに行こうぜ。仕込みスパイクのいい靴があるんだ、帽子もいいな髪をまとめると女っぽくないし」
急にスイッチが入ったディーンに身を任せ、ミアは徐々に見た目だけはがっつり冒険者になっていった。
おそらく今言ったラインナップはディーン自身が欲しくて目を付けていた商品だと推測し、お尻の部分がやや変色しているのでズボンをプレゼントする事にして、二人で色違いのお揃い姿となった。
装備が完成したところで、軽く食事をしてから武器屋に向かう。髪をまとめて帽子に入れたことで男性的な印象になったのか、屋台から兄ちゃんと客引きされてミアはおかしそうに笑った。
「私の顔って男っぽかったのね」
「いやそんな事ないから気にしないで、その恰好だからだよ。女の冒険者って露出多い人が目立つし」
言われてみれば、村で見かけた魔法使いちゃんはミニスカにロングブーツだったなとミアは思い出す。
まぁあの軽装はバトルスタイルにもよるものだとは思うが。
「守ってくれる人がいるからできる格好だよな。都会には結構いるよ、回復とか補助専門の女冒険者」
「別にいいんじゃない?やっぱり需要はあるんだろうし、支える人も必要だし」
お店の経営側から言わせてもらうとやっぱり受付は可愛い女の子の方が客入りがいいし、とは声には出さなかった。看板娘はいても看板息子はあまり聞かない。そういう事である。男が多い冒険者相手に稼ぐ店舗限定なのかもしれないが。
「そういや武器、どうする?姉ちゃん何が使えるの」
「武器はね、か弱いから手斧とかがいいかなって思ってるんだけど」
「か弱いから斧ってどういう事だよ!短剣でいいだろ」
「剣はコツがいるでしょ。斧はぶん回せばいいし振りかぶれば威力が上がるじゃない」
脳筋な発想から片手斧を購入し、冒険者としての形が完成した。
「よし、これで大丈夫だろ」
ディーンを先頭に、ギルドの門をくぐる。
ようやくミアはギルドへ入ることが許されたのであった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる