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必要に迫られて
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「僕が学校に行きたいって言ったら、応援してくれたもん。今度は姉さんが好きな事をする番だよ!」
「いや無理」
「昔から憧れてたでしょ、体鍛えたりしてたよね」
「子供の時はそりゃね、もうやってないから無理よ。大体冒険者になるのって10代でしょ、若い子に混じって、恥ずかしいじゃない」
レオは様々な角度からミアの説得を試みるが、真っ向から断られた。
「田舎暮らしはぱっとしないって言ってたじゃない」
「確かに私、あんたの卒業式を口実に村から出る予定だったけど。どうせ私には都会は向いてないっていうか、遠出してみてやっぱ冒険者は無理って諦めるためだったもの。それにもう、いまさらだし…」
冒険者になりたくないわけではないが、色々と言い訳になる事象が多いようだ。
新しい事を始めるに事に年齢制限はないが、今まで続けた生活は長ければ長いほど捨てづらい。
「大丈夫、姉さんならすぐランクアップできるよ。採取のクエストだけでも赤まではいけるみたいだし」
「採取っていってもほら、魔物がでる場所まで行くでしょ。戦ったことなんかないのよ私」
「鳥も絞めれるし猪ぐらいなら解体できるでしょ、魔物も似たようなものだから」
絶対違う、と否定しようとして、ミアは言葉を飲み込んだ。実際、畑を荒らしに来た豚を鍬で撃退したら後々魔物だったということが発覚した事件は、村では武勇伝として語られている。
それと同時に、レオの言葉に違和感を覚える。
「…何かしつこいわね、変よ」
「実は、姉さんには絶対に冒険者になってもらわなきゃ困るんだ」
とっておきの、切り札。姉の為に弟が用意した、大義名分。
人は強制される運命を嫌うが、時として後押しともなるものだ。
「冒険者相手に自作の商品を扱うなら、店の人はギルドに入らなきゃいけないんだって」
「お父さんが加盟してるじゃない」
「支援の組合員じゃなくて、色持ちじゃないとだめらしいよ。物を売るなら信用がいるから、せめて黄色の冒険者じゃないとね」
冒険者になってもいいよ、から 冒険者になってほしい、へと言葉が変わる。ミアは考え込むように口元に手をやっているが、先ほどまでの困ったような怒ったような表情ではなくなっていた。
「ミアなら冒険者の知り合いもいるだろう、手伝って貰えばいいじゃないか」
「そうね、気になる…仲のいい子は居ないの?冒険者なら自立してるだろうし、中々いいんじゃないかしら」
「お母さん、私別に出会いを探しに行くわけじゃないからね」
呆れたように言ったミアは、不敵に笑った。
「分かった」
冒険者になれば、立ち入り禁止の森の奥や洞窟にも入れるようになる。そういった危険区域には結界が張られていて、ギルドカードのランクによって制限が解除されるようになっていた。
遠くまで行かなくとも、冒険はできる。ずっと行けなかった、近くて遠い場所。
「しょうがないから、やるわ 私」
20年続けた平穏な生活をやめて、ミアは新しい道を選んだ。
「お店はお父さんに任せていいわよね?あ、お母さん庭は一切触らないで!レオ、その丈夫そうな鞄貸してうだい」
「まさか…今からギルドに行く気かい?」
「もちろん」
選んだ後の行動は恐ろしく早かった。
在庫の数と発注をかけた伝票を父に引き継ぎ、荷解きするであろう母にこの8年で変わった事を簡単に伝える。長旅用に準備されたのであろう弟の鞄をぶんどり、中身を詰め替える。
いつもは緩く左肩でまとめるだけの髪を、三つ編みにしてお団子にまとめる。普段履きの柔らかい布の靴から、山に行くときの使い古した皮のブーツに履き替えればもう準備は終わったとばかりに出立を告げる。
「とりあえず登録だけしてくるわ、今日の夕食は豪勢にいきましょ!何か買ってくるわね」
「それは母さんに任せて!ミアが好きな物いっぱい作って待ってるわ」
「姉さんにその鞄重いでしょ、これで装備を整えるといいよ」
あぁ、そういうのは俺の役目だろ!と拗ねるシドを差し置いて、レオは自分の財布をミアに託した。
「あらずいぶん羽振りがいいわね、全部使っちゃおうかしら」
「いいよ、これからも儲けるつもりだしね。8年分のお小遣いだと思って好きに使ってよ」
渡された長財布は分厚く、ずっしりとしていた。
「ありがと。じゃあ行ってきます!」
中身を確認する事もなく、ミアは嬉しそうに駆け出した。
残された家族は、それぞれの日常に戻っていく。
「じゃあ私、挨拶回りしてくるわ~。お土産に買ってきた薔薇のジャムはどこに入れたかしら?」
「さて久々の開店準備といくか。来るメンツも代わったんだろうなぁ…」
「僕は機材運を組もうかな。ねぇ父さん、庭の納屋建て替えていい?あそこを工房にするよ」
机の上には、鞄から放り出されたレオの荷物が広がっている。ペンや目薬、お菓子にハンカチ。手帳と水筒と時計と木箱。雑に置かれてどこかから飛び出した一枚の白いカードは、話題に上ることなくそっとレオポケットに回収された。
「いや無理」
「昔から憧れてたでしょ、体鍛えたりしてたよね」
「子供の時はそりゃね、もうやってないから無理よ。大体冒険者になるのって10代でしょ、若い子に混じって、恥ずかしいじゃない」
レオは様々な角度からミアの説得を試みるが、真っ向から断られた。
「田舎暮らしはぱっとしないって言ってたじゃない」
「確かに私、あんたの卒業式を口実に村から出る予定だったけど。どうせ私には都会は向いてないっていうか、遠出してみてやっぱ冒険者は無理って諦めるためだったもの。それにもう、いまさらだし…」
冒険者になりたくないわけではないが、色々と言い訳になる事象が多いようだ。
新しい事を始めるに事に年齢制限はないが、今まで続けた生活は長ければ長いほど捨てづらい。
「大丈夫、姉さんならすぐランクアップできるよ。採取のクエストだけでも赤まではいけるみたいだし」
「採取っていってもほら、魔物がでる場所まで行くでしょ。戦ったことなんかないのよ私」
「鳥も絞めれるし猪ぐらいなら解体できるでしょ、魔物も似たようなものだから」
絶対違う、と否定しようとして、ミアは言葉を飲み込んだ。実際、畑を荒らしに来た豚を鍬で撃退したら後々魔物だったということが発覚した事件は、村では武勇伝として語られている。
それと同時に、レオの言葉に違和感を覚える。
「…何かしつこいわね、変よ」
「実は、姉さんには絶対に冒険者になってもらわなきゃ困るんだ」
とっておきの、切り札。姉の為に弟が用意した、大義名分。
人は強制される運命を嫌うが、時として後押しともなるものだ。
「冒険者相手に自作の商品を扱うなら、店の人はギルドに入らなきゃいけないんだって」
「お父さんが加盟してるじゃない」
「支援の組合員じゃなくて、色持ちじゃないとだめらしいよ。物を売るなら信用がいるから、せめて黄色の冒険者じゃないとね」
冒険者になってもいいよ、から 冒険者になってほしい、へと言葉が変わる。ミアは考え込むように口元に手をやっているが、先ほどまでの困ったような怒ったような表情ではなくなっていた。
「ミアなら冒険者の知り合いもいるだろう、手伝って貰えばいいじゃないか」
「そうね、気になる…仲のいい子は居ないの?冒険者なら自立してるだろうし、中々いいんじゃないかしら」
「お母さん、私別に出会いを探しに行くわけじゃないからね」
呆れたように言ったミアは、不敵に笑った。
「分かった」
冒険者になれば、立ち入り禁止の森の奥や洞窟にも入れるようになる。そういった危険区域には結界が張られていて、ギルドカードのランクによって制限が解除されるようになっていた。
遠くまで行かなくとも、冒険はできる。ずっと行けなかった、近くて遠い場所。
「しょうがないから、やるわ 私」
20年続けた平穏な生活をやめて、ミアは新しい道を選んだ。
「お店はお父さんに任せていいわよね?あ、お母さん庭は一切触らないで!レオ、その丈夫そうな鞄貸してうだい」
「まさか…今からギルドに行く気かい?」
「もちろん」
選んだ後の行動は恐ろしく早かった。
在庫の数と発注をかけた伝票を父に引き継ぎ、荷解きするであろう母にこの8年で変わった事を簡単に伝える。長旅用に準備されたのであろう弟の鞄をぶんどり、中身を詰め替える。
いつもは緩く左肩でまとめるだけの髪を、三つ編みにしてお団子にまとめる。普段履きの柔らかい布の靴から、山に行くときの使い古した皮のブーツに履き替えればもう準備は終わったとばかりに出立を告げる。
「とりあえず登録だけしてくるわ、今日の夕食は豪勢にいきましょ!何か買ってくるわね」
「それは母さんに任せて!ミアが好きな物いっぱい作って待ってるわ」
「姉さんにその鞄重いでしょ、これで装備を整えるといいよ」
あぁ、そういうのは俺の役目だろ!と拗ねるシドを差し置いて、レオは自分の財布をミアに託した。
「あらずいぶん羽振りがいいわね、全部使っちゃおうかしら」
「いいよ、これからも儲けるつもりだしね。8年分のお小遣いだと思って好きに使ってよ」
渡された長財布は分厚く、ずっしりとしていた。
「ありがと。じゃあ行ってきます!」
中身を確認する事もなく、ミアは嬉しそうに駆け出した。
残された家族は、それぞれの日常に戻っていく。
「じゃあ私、挨拶回りしてくるわ~。お土産に買ってきた薔薇のジャムはどこに入れたかしら?」
「さて久々の開店準備といくか。来るメンツも代わったんだろうなぁ…」
「僕は機材運を組もうかな。ねぇ父さん、庭の納屋建て替えていい?あそこを工房にするよ」
机の上には、鞄から放り出されたレオの荷物が広がっている。ペンや目薬、お菓子にハンカチ。手帳と水筒と時計と木箱。雑に置かれてどこかから飛び出した一枚の白いカードは、話題に上ることなくそっとレオポケットに回収された。
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