違法道具屋の看板娘

丸晴いむ

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仕入れ

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 店内には、客が2人いた。すみっこで小説を立ち読みしている少年と、ロープを前に唸る青年。

「ジャック、立ち読み禁止っていつも言ってるでしょ!買ってもらうわよ」
「も~、もっと話しててくれたらよかったのに…いい所なんだけどなぁ」

 近所の生意気少年ジャックは、農家の息子だ。朝の畑の水遣りが終わると、時々こうして小説を盗み見に来る。冒険者に憧れているらしく、よく広場で若い冒険者を追い回している姿を見かける。
 楽しそうに冒険譚を読んでいるところ邪魔して申し訳ないが、子供と言えどタダ読みは厳重注意だ。

「この後店番してくれるなら、その間だけ読んでてもいいわよ」
「え!やるやるやる、任せて!」
「ただしお客さんが店内に居ない時だけね」

 どうせ本を買うお小遣いもないだろうし、結局隙を見て読まれてしまうのであればとジャックを店番に任命する。もう何度も交わされた取引だ。
  冒険者は冒険に行く前や帰りに道具屋に寄ることが多いので、昼を過ぎたこの時間帯客入りは少ない。店を空けるにはちょうどいい隙間時間だった。

 店番の席をジャックに譲ると、次にミアは悩める青年に声をかけた。

「行くわよキャロット、薬草採取の依頼よ。報酬は50オルクでどうかしら?」
「キャロットって呼ばないでよ。後邪魔しないで。見て分からないの、僕忙しいんだけど」

 指程の太さのロープと、その半分程の太さのロープを左右に握りしめ、しかめっ面をしているキャロット。彼は正規のギルドに加入している冒険者で、一度も名乗ったことがなかった。髪の色が赤っぽい薄茶色なので、ミアからは勝手にキャロット呼ばれている。

「何悩んでるのよ、ロープの用途は?迷って時間を無駄にするぐらいならこの頼りになる店員さんに相談しなさいよ」
「言っても分からないよ、魔法で使うんだから…ほっといて」

 冒険者とひとくくりにされてはいるが、個々で戦闘スタイルや得意なクエストは異なる。
 キャロットは魔法使いで、道具に魔法を宿らせる高度な術を得意としていた。

「そう。じゃあ後のことはあの子に任せてるから、買うならあの子に言ってね。私は出かけてくるわ」
「ギルドに依頼を出せるのは午前中までだよ。…急ぎなら受けてあげるけど?」

 なんだかんだで常連客なキャロットは、なんだかんだで気を回してくれる。

「ありがと、大丈夫よ。当てがあるからそっち行ってみるわ」

 少々くせが強いが面倒見のいいキャロットを依頼と称して連れまわすこともあったが、わざわざ時間を割いて貰うのも申し訳ない。ミアは、今日丁度暇している人物に心当たりがあるようだ。
 村にたったひとつの宿屋へ向かうと、待合室を抜けて食堂を通り抜け、ずかずかと奥へ入っていく。厨房まで侵入すると、そこに目的の人物がいたようで足を止めた。

「ディーン、依頼よ!薬草採取に行きましょ」
「あのさ、何でオレがここで皿洗いしてるか分かって言ってる?」
「剣が折れてるから戦えないんでしょ、知ってるわよ」

 皿洗いのバイトをしていたのは、冒険者のディーン。彼は一昨日愛用の剣が折れてしまい、修理待ちで冒険に出掛けられない状態だ。待機ついでに小銭を稼ぐ真面目で堅実な冒険者の鏡である。
 宿の女将さんから借りたらしいぶかぶかのエプロンが微笑ましい、小柄な14歳の少年であった。

「そこの山の崖までよ、魔物なんて出やしないわ。採取依頼って言ったじゃない」
「近くでも村の外なら、何があるか分からないだろ」
「じゃあ武器は貸すから!1時間ぐらいで済むわよ、50オルクだすわ」
「…まぁ暇だから行ってもいいけどさ」

 説得が成功したところで、ディーンを連れて一度自宅へ。二人して大きな籠を背中に背負い、手袋と折りたためる小さなナイフを装備する。

「姉ちゃんも付いてくる気かよ!護衛で50は安くないか」
「はいはい、じゃあ魔物が出たら倍出すわよ」
「護衛の相場は500オルク…っていうか、武器ってまさかコレかよ。舐めすぎだろ」
「鎌もあるけど」
「もー、いいよコレで」

 慎重なディーンを安心させるために、一応籠に傷薬を放り込んでおく。からの水筒を二つずつ首から下げて、準備万端だ。

「前に行った牧場の裏の山?」
「そうそう。崖下の薬草採って、山頂の木から樹液回収するの」
「一時間じゃ無理だと思うけどな」
「あ、大丈夫。この前山の裂け目に梯子掛けて来たから!さくっと行けちゃうわけよ」

 険しい分、時間はかなり短縮されるルートだ。見本のようなハイリスク・ハイリターン。
 小言を2、3言いたそうな顔のディーンを連れて、ミアは目的の崖へと向かった。
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