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「いつもメルテを困らせているのは貴方ですか。あまり人使いが荒いと仕事辞めさせますからね」
顔色は伺えないものの、棘のある言い方と声でコムシェンがご立腹だと分かる。
見た感じ血は繋がってなさそうだが、その物言いはメルテの保護者のようだ。
「コムシェンったら!私は楽しんでるし大丈夫よ。…中々会いに来れないあなたのことが心配だけど、一人でも何とかやっていけてるようね?」
「貴方の雇い主と一緒にしないでください。子ども扱いは御免ですよ」
「僕だって子供じゃないんだけどなぁ」
メルテは話を逸らしたそうだが、けんか腰の2人は乗る気はないようだ。
「やめてよもう、あなた達どうも相性悪いみたいね。連れてくるんじゃなかったわ」
「いやいや連れてきて正解!お手柄だよ?最近仕事が少なくってね」
今度はばたんと音を立てて扉が開き、茶色のマントを羽織った人が入ってきた。
「ちっす、灰の賢者ロエン爺さんの助手リッドでーす。メルテさん久しぶり?やっと帰ってきたんだ」
黄金色の髪に、方耳に付いた青色のピアスが映える。ニカっと大らかな笑顔が中々素敵な男だ。
格好からして彼も賢者なのだろうか、コムシェンと比べてかなり毛色が違う。
「どうして入れたんですか、面倒事しかもってこないと知っているでしょう」
不機嫌な声を少しだけ和らげ、コムシェンはロローに向き直る。
「だって何回もコンコンされて痛かったんだもん、ごめんなさいムーさま」
「悪いのはリッドなのでロローが謝ることではありませんよ」
どうやら主人にとっては招かれざる客らしい。
ごり押しで乱入した割に悪びれる様子もなく、リッドはマイペースにメモを読みだした。
「夕暮れと若草、後真珠の粉分けて欲しい。それとにんじん嫌いな人でも思わず食べたくなるような何かを頼む。お礼は砂糖と牛乳、レースのリボンでどう?だって」
「うちに花が余っていると踏んでくる所が気にくわないですが、まぁいいでしょう。にんじん嫌いはどんな人ですか」
「いい年したおばさん。んじゃこっち回すから先輩よろしくね」
リッドは用件を伝えると、そんじゃ!と元気よく手を振りながら出て行った。
きっと今言った取引材料を持ってすぐに戻ってくるだろう。
「希少度的にかなり損してるわね、もっとふっかければいいのに。完全にリッドにカモ認定されてるわよ」
「私に必要ないものが、必要なものになって帰ってくるんです。悪い話でもないですよ」
話がついて、ようやくコムシェンが席につく。
といっても椅子は4つしかないのでロローと相席だ。
嬉しそうに膝に座る姿がかわいいが、コムシェンの顔は半分隠れてしまっている。
まぁ元々フードで隠れているのだが。
「それで、今日はお揃いでどうしたんですか?ケーキを届けに来ただけではないでしょう」
リッドのことを特に説明する気はないようで、さっくりと話は戻った。
アルと睨みあっていたのも流したようなので少しほっとする。
「ちょっと早いけどアルの誕生日代わりにね、外で遊びたいっていったから連れて来たの」
「え、そんなのでいいの?」
年に一度レベルのおねだりじゃないと遊べないと聞いて、マリエラはちょっと可哀想になった。
家に送ってもらったら、日持ちするお菓子をあげようと決めて一人店内を思い浮かべる。
「そうですか…今日は存分に羽を伸ばしなさい。遊びは苦手ですが調合でも一緒にやってみますか?」
出会いがしらに不穏な空気をかもし出したわりに、コムシェンはアルに同情的だ。
寧ろ最初の会話が嘘のように親切である。
「何を作るの?是非やってみたいな」
対してアルも取り繕う風もなく普通に対応している。
よく分からない関係にもやもやしつつも、仲直りできたならいいやとのっかるのがマリエラである。
「あ、私もやりたいです!」
「ではまず材料を採りに行きましょう。ロロー、仕度を」
「なら留守番してるわね。リッドが来たら交換しとくわ」
かくして、賢者の助手ツアーが始まった。
空の瓶が5つ入った籠を持って、マリエラとアルはコムシェンとロローについて行く。
森の奥に向かうほど色が深くなっていくようで、木や石に苔があり古くからの森であると分かる。
深い緑の中で光るように、ひらりと花びらが舞い落ちた。
「今からひよこ色の花びらを集めてもらいます、…こんな感じの」
落ちきる前にすくい取ったのは淡い黄色の花びら一枚。
指でそっと摘みあげたが、その手の動きはなかなか素早かった。
「まぁ最初はうまくいかないでしょうし、目についた花はとってみて下さい」
「花って言われても…どこにも咲いてないじゃない」
薄暗い割には木の幹がない広い空間。
ぱらぱらと散る花びらを時々見かけるものの地面には一輪もない。
必然的に木に咲く花だろうと見上げるが、ただただ葉がしげるだけだ。
「マリエラ、上を見てよ」
「見てるけど花なんてないじゃない。どこから降ってきてるのかしら」
「もっと上だよ、葉っぱの隙間から見えるよ」
アルに言われ、体をずらしてもう一度見上げてみると、今度は葉と葉の隙間に空とは違う色が見えた。
遠い上に様々な色の粒が集まっているので、何色だとは表現しづらい。
ただ一つ言えるのは、とてもとても綺麗だということだ。
「すっごーい…」
「口あいてるよ、でも何で落ちて積もってないんだろうね」
「言われて見れば。根こそぎ回収してるのかな」
今から何を作るのか、花が何に必要なのか2人は何も知らない。
だが、この神秘的とも言える花びらが重要だということだけは理解し、落ちてくる花を追いかけはじめた。
顔色は伺えないものの、棘のある言い方と声でコムシェンがご立腹だと分かる。
見た感じ血は繋がってなさそうだが、その物言いはメルテの保護者のようだ。
「コムシェンったら!私は楽しんでるし大丈夫よ。…中々会いに来れないあなたのことが心配だけど、一人でも何とかやっていけてるようね?」
「貴方の雇い主と一緒にしないでください。子ども扱いは御免ですよ」
「僕だって子供じゃないんだけどなぁ」
メルテは話を逸らしたそうだが、けんか腰の2人は乗る気はないようだ。
「やめてよもう、あなた達どうも相性悪いみたいね。連れてくるんじゃなかったわ」
「いやいや連れてきて正解!お手柄だよ?最近仕事が少なくってね」
今度はばたんと音を立てて扉が開き、茶色のマントを羽織った人が入ってきた。
「ちっす、灰の賢者ロエン爺さんの助手リッドでーす。メルテさん久しぶり?やっと帰ってきたんだ」
黄金色の髪に、方耳に付いた青色のピアスが映える。ニカっと大らかな笑顔が中々素敵な男だ。
格好からして彼も賢者なのだろうか、コムシェンと比べてかなり毛色が違う。
「どうして入れたんですか、面倒事しかもってこないと知っているでしょう」
不機嫌な声を少しだけ和らげ、コムシェンはロローに向き直る。
「だって何回もコンコンされて痛かったんだもん、ごめんなさいムーさま」
「悪いのはリッドなのでロローが謝ることではありませんよ」
どうやら主人にとっては招かれざる客らしい。
ごり押しで乱入した割に悪びれる様子もなく、リッドはマイペースにメモを読みだした。
「夕暮れと若草、後真珠の粉分けて欲しい。それとにんじん嫌いな人でも思わず食べたくなるような何かを頼む。お礼は砂糖と牛乳、レースのリボンでどう?だって」
「うちに花が余っていると踏んでくる所が気にくわないですが、まぁいいでしょう。にんじん嫌いはどんな人ですか」
「いい年したおばさん。んじゃこっち回すから先輩よろしくね」
リッドは用件を伝えると、そんじゃ!と元気よく手を振りながら出て行った。
きっと今言った取引材料を持ってすぐに戻ってくるだろう。
「希少度的にかなり損してるわね、もっとふっかければいいのに。完全にリッドにカモ認定されてるわよ」
「私に必要ないものが、必要なものになって帰ってくるんです。悪い話でもないですよ」
話がついて、ようやくコムシェンが席につく。
といっても椅子は4つしかないのでロローと相席だ。
嬉しそうに膝に座る姿がかわいいが、コムシェンの顔は半分隠れてしまっている。
まぁ元々フードで隠れているのだが。
「それで、今日はお揃いでどうしたんですか?ケーキを届けに来ただけではないでしょう」
リッドのことを特に説明する気はないようで、さっくりと話は戻った。
アルと睨みあっていたのも流したようなので少しほっとする。
「ちょっと早いけどアルの誕生日代わりにね、外で遊びたいっていったから連れて来たの」
「え、そんなのでいいの?」
年に一度レベルのおねだりじゃないと遊べないと聞いて、マリエラはちょっと可哀想になった。
家に送ってもらったら、日持ちするお菓子をあげようと決めて一人店内を思い浮かべる。
「そうですか…今日は存分に羽を伸ばしなさい。遊びは苦手ですが調合でも一緒にやってみますか?」
出会いがしらに不穏な空気をかもし出したわりに、コムシェンはアルに同情的だ。
寧ろ最初の会話が嘘のように親切である。
「何を作るの?是非やってみたいな」
対してアルも取り繕う風もなく普通に対応している。
よく分からない関係にもやもやしつつも、仲直りできたならいいやとのっかるのがマリエラである。
「あ、私もやりたいです!」
「ではまず材料を採りに行きましょう。ロロー、仕度を」
「なら留守番してるわね。リッドが来たら交換しとくわ」
かくして、賢者の助手ツアーが始まった。
空の瓶が5つ入った籠を持って、マリエラとアルはコムシェンとロローについて行く。
森の奥に向かうほど色が深くなっていくようで、木や石に苔があり古くからの森であると分かる。
深い緑の中で光るように、ひらりと花びらが舞い落ちた。
「今からひよこ色の花びらを集めてもらいます、…こんな感じの」
落ちきる前にすくい取ったのは淡い黄色の花びら一枚。
指でそっと摘みあげたが、その手の動きはなかなか素早かった。
「まぁ最初はうまくいかないでしょうし、目についた花はとってみて下さい」
「花って言われても…どこにも咲いてないじゃない」
薄暗い割には木の幹がない広い空間。
ぱらぱらと散る花びらを時々見かけるものの地面には一輪もない。
必然的に木に咲く花だろうと見上げるが、ただただ葉がしげるだけだ。
「マリエラ、上を見てよ」
「見てるけど花なんてないじゃない。どこから降ってきてるのかしら」
「もっと上だよ、葉っぱの隙間から見えるよ」
アルに言われ、体をずらしてもう一度見上げてみると、今度は葉と葉の隙間に空とは違う色が見えた。
遠い上に様々な色の粒が集まっているので、何色だとは表現しづらい。
ただ一つ言えるのは、とてもとても綺麗だということだ。
「すっごーい…」
「口あいてるよ、でも何で落ちて積もってないんだろうね」
「言われて見れば。根こそぎ回収してるのかな」
今から何を作るのか、花が何に必要なのか2人は何も知らない。
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