2 / 17
02
しおりを挟む「はぁ…」
一人きりの教室は静かすぎて、自分のため息がよく聞こえる。
「ユーグのばか、ユーグのばーか…」
入学初日。他の棟から聞こえる賑やかな笑い声が恨めしい。
「あーあ、教室が広くて嬉しいわ!」
思わず独り言がでても、聞かれることもないから恥ずかしくないもん!
ガラッ
と自棄になっていたら、誰か来た。
ううん、誰かって、生徒は私だけなんだから、来るなら一人しかいない。
「はーい、初めましてシェリーちゃん。今日から先生と2人で頑張りましょうね!」
「はい…よろしくお願いします!」
だよね、知ってた。
うん、気さくそうな先生でよかった。
ずっと2人でやっていかなきゃいけないのに、気難しい先生だと嫌だもんね。
「テリーさんはお元気?」
「え、はいはい元気です…。父を知ってるんですか?」
テリーは、わたしのお父さんの名前。お父さんも魔法使いだから、仕事の関係で知っててもおかしくはないけど…。
「私もコガナ村の出身なの。何を隠そうテリーさんに憧れて魔術科に入ったのよ」
「そうなんですか!?き、恐縮です…中年太りしててごめんなさい…」
「やだ、そうなの?冒険者引退したって話、本当だったのね。私、ずっと家に帰ってないからさ」
同じ村の出身と聞いて、一気に親近感がわく。この先生となら、2人でも楽しめるかな…。
「魔術科、一人で驚いたでしょう?何と94期生から0人が続いてるから、先輩も居ないわ!」
「えぇ!?」
「だからバレスには専任が居ないの。本当は私、クルルカ地方の教師なのよ。ちなみにクルルカでも魔術科は10年ほど希望者がいないの…」
クルルカ地方はバレス地方よりも栄えていて、人は倍以上いる。それでもいないなんて…不人気が過ぎる。
「まぁ一時期は魔法使いがブームの時もあったし、時代の流れには逆らえないのよね。ここはマンツーマンでみっちり授業ができるって喜んどきなさい」
ポジティブでなんとも頼もしい先生だ。そうだよね、しっかり教えてもらえるし、良いことだ!
「自己紹介がまだだったわね?私はノーマ。得意なのは防御魔法!これから3年間よろしくね」
クラスメイトが居ない、寂しいスタートだけど。
素敵な学園生活が始まる予感がした。
***
今日は授業はなく、簡単な校内案内だけの予定だった。
でも魔術科はわたし一人ということもあり早々に終わってしまったので、あまった時間で魔法の基礎測定を行うことになった。
「魔法の杖は明日作るからね、今日は魔力の性質だけ見てみましょうか」
「はい、お願いします」
人は誰でも、魔力を持っている。効率がいいから専門職を分けるようになっているが、勉強さえすれば他の戦士科の皆も魔法を使えるのだ。
血筋や育った環境によって魔力の質が異なり、若干の得意不得意は発生する。
「お父さんが火の魔法得意だから、わたしもそうかなって思ってるんですけど…」
「あら、コガナ村に居たから風魔法が得意かもよ。麦の穂を鳴らしに風の妖精がよく来てるから。さぁ、どっちの予想が正解かしらね?」
おちゃめにウィンクしながら、先生はボールみたいに大きい水晶玉を取り出した。
「顔を寄せて、よーく見つめて…うん、おでこ引っ付くよね、いいのよそれで。貴女の瞳に魔力が映るわ」
「瞬きはしてもいいんですか!?」
「んー、じゃあ5秒我慢して。…そしたら、はい!こっち見て」
近すぎてぼやけた水晶玉から目を離し、先生を見る。
「ゆらゆら揺れる…黄色…、いえ、金ねこれは」
「金色だと何ですか?」
「問題です、さて何属性でしょう」
「麦の色だから…風?」
先ほどの会話で、麦の穂が出て来たのでそう言った。
「風は緑、水は青。赤が炎で回復は白」
「じゃあ…茶色は土、とか?」
「正解、イメージが結びつくの。黄色は雷で黒は防御よ」
「先生、それで、金は?」
豆知識が増えるのは楽しいけれど、早く答えを教えて欲しい。
「金は残念ながら突出したものはないわ」
「えー…」
残念なんてもんじゃないでしょうこれは…。小さい頃から魔法使いになりたかったっていうのに、特に特異な属性がないなんて…!
他の人を魔術科に誘う前に、私が移動届を出すべきなんじゃ…。
いや、でも使い続けたら何だってレベルアップしていくし、やれるとこまで頑張ってみるか…。
「はぁ…」
「なんちゃって」
「へ?」
「おめでとうシェリー、貴女はとってもラッキーよ」
と、急に声のトーンをころっと変えて言われても、ピンとこない。
「えーっと…得意がないってことは不得意がないってこと、だからですか?」
そんな誤魔化すような慰めはいらないんだけど…。
「もう、さっきのは冗談よ。金の光は、妖精の加護の証よシェリー。あなたは力を貸してくれる妖精が多ければ多いほど強くなれるわ」
「妖精属性?」
「金の瞳は、魔力が多い証拠よ。貴女は他の人より魔法の効果を強く発揮できる、と言えば分かりやすいのかしら」
なんだか良く分からないけど、…それってとってもいいのでは!?
「わたし、魔法使いに向いてますか?」
「ばっちりよ!よかったわね、唯一の魔法使いが弱かったら、きっと誰もパーティーを組んでくれないだろうし、先生ちょっと心配してたの」
あ、そんな卒業後の心配までしてくれてましたか。
あんまり実感はないけど幸先よさげな感じで、私の学園生活はスタートした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる