上 下
3 / 6

03

しおりを挟む
「エナ、ご指導よろしくお願いします」

 翌朝朝食を丁度食べ終えた頃、私が滞在させてもらってる部屋に王子が訪ねてきた。
即座に侍女ちゃんがお茶を用意する。あぁ、私の分はいらないのに…今飲み終えたところなんだけどな。

「こちらこそよろしくお願いします。ルドヴィーク、そちらの方は?」
「ルドヴィーク様の従者でマルクと申します。お二方の補助をさせていただきますのでお見知りおきを」

 補助、と曲しているが、実質お目付け役であり教育係ね。なんせ異世界人の私と世間知らずな王子のサポート役だもの、きっと彼が一番苦労するハズ。
そして彼が一番状況を把握しているはずだ。

「さて、まずは何から始めましょう?私は神より勇者を導くようにと使わされただけなのですが…現在の能力値などをお聞きしても?」
「そうですね、何でもできる能力を神から授かりました」

 うん、神から選ばれた=神から力を貰ったってとこは知ってるの。
能力値への反応がないのは、この世界にレベルや数値化されたステータスがないという事でいいのかな。

「何でも、とは例えば?」
「…魔法が使えるようです」
「火や水や土等、人の手がなくとも生まれる自然現象を操る事ができる術だとされていますね」

 魔法の説明をされた。魔の勇者なんだから、そりゃそうなるでしょうね。

「それで、どの様な魔法が使えるのですか?」
「……」

 なぜ黙る。説明しずらいのかな?

「ではルドヴィーク、この花を消して見せてください」

 目の前のテーブルの上の花瓶から、赤い薔薇を一本引き抜く。
突きつけてやれば、可哀想ぐらい目が泳いだ。

「それは…例えばどのように?」
「燃やすなり枯らすなり飛ばすなり、やりやすいようにどうぞ」

 私の言葉を聞いてどれかに決めたのか、じっと赤い薔薇を見つめるルドヴィーク。まつ毛が長い。

「……」

 心の中で、10まで数えた。未だ何も起こらない。でもルドヴィークは睨むように赤い薔薇から視線を外さない。魔法をかけてるところなのかな?呪文はなくていいのかな?何でもできるって言ったから見せて貰おうと思ったけど、まだ能力を授かっただけだから魔法覚えてないのでは?

「ルドヴィーク」

 30秒まで数えて、掲げた薔薇をそっと下げた。

「今何を考えていましたか?」
「どうやって花を消そうか考えていました」
「まだそこだったの!?」

 実力がちっとも分からない!システムも仕様も分からない。どうしろと。

「魔法を使おうとすると、何かこう…言葉が頭の中に浮かぶとか、体が熱くなるだとか変化はありますか?」
「ないです」
「んぬ…どうやら私が指南する以前の問題のようなのですが、この城に魔法使いはいますか?」

 私が大人しくしていたマルクに話を振ると、彼は少し驚いたように答えた。

「魔法はもうこちら側には残っていません。300年前に途絶えて、今では物語の中でしか」
「そ、そうだったのですね」

 なるほどな!えーっと、だったらなおさら…どうすればいいの?

「その魔法が出てくる物語はすぐに用意できますか?どのように伝わっているのか知る必要があるようです」
「歴史書なら書庫に行けば…絵本ならそこの棚にありますけど」
「絵本でいいです」

 逆に何で豪華客室に絵本が?と思ったけど、見て秒で納得。繊細な挿絵が物凄く綺麗な本だった。
文字は案の定記号で読めなかったけど、絵で何となくわかる部分もある。
 まず、魔法陣は浮かんでないし地面に描いてもいない。杖は持っていたり持ってなかったりと様々。魔法を使って良そうな場面ではキャラクターは口を開けている。
ということは、呪文で発動するタイプの魔法ってことね。

「謎は全てとけました。多分ね。ルドヴィーク、この薔薇を燃やして下さい…いえ、燃やそうとしてください」
「…はい」
「この花が燃える所を想像して、燃えろ!とか火よ!とか爆ぜろ!とか言ってみて下さい」

 素直なルドヴィークは、言われた通り薔薇を睨みつけながら燃えろ!火よ!爆ぜろ!と口にする。
残念ながら、何も起こらない。

「じゃあ次、ファイア!メラ!ホットグリル!とかどうかしら」

 言われた通りに既存ゲームの呪文を唱えるルドヴィーク。これはふざけ過ぎたので予想通りだけど、何も起こらない。

「呪文が違うのでしょうね、何か文献はありませんか」
「呪文、といいますと?」
「ある言葉を口にすると、ある事象が発生するというか…。喉が渇いたわ、というとさっと飲み物が運ばれてくるみたいなものでしょうか」

 未だに薔薇を睨みつけていたルドヴィークが、不思議なものを見るように顔を上げた。

「"喉が渇いた"、それが呪文なのですか」
「いえこれはただ貴方達に分かりやすいかなと思っただけで…」

 トプトプトプ……

「殿下!」

 ルドヴィークのティーカップから、紅茶が溢れている。ほうほうほうほう、成程。何でもできるタイプの魔法、なるほどね。これはきっと魔法学校のような呪文を覚えるパターンではなくて、クエストみたいに魔法屋さんで呪文を買うわけでもなくて、マジカルプリンセス的に本当に何でもできるやつだ。

 私がニヤニヤしている間に、紅茶の洪水は終わった。自分の意思で止めたのか、もう魔力が尽きたのか。カップをひっくり返した程度の被害しかない。

「いいわね、どんどんいきましょう。他に何かあるかしら?」

 この調子だと、私はすぐにお役御免となりそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー   八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。     田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。     でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?     どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。     だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。     そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...