悪役令嬢の攻略本

丸晴いむ

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乙女の策略

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 いいですか?セルディア様は、初めて自分で作ったお菓子を誰かに食べてもらいたいな~と思う。そして、思い浮かんだのは幼馴染のシャルくん!もし少しばかり失敗していても許してくれる間柄ですし、自分の成長を見せ付けたい、自然に導き出される人選なはずです。
で、そこに偶然居合わせるアーシェス王子!いきなりよく知りもしない人の手作りものを貰っても、普通は食べたくないですからね~ここはシャルくんの力を借りましょう。シャルくんはきっと王子にもお菓子をすすめるでしょう、ここでセルディア様は伺うようにクッキーを差し出します。セルディア様の小柄な小動物感を生かして断りにくさを後押しします!一カケラでも食べればこっちのもんですからね。
なので、明後日の昼食をシャルくん達と一緒に食べるように仕組んで、その後のデザートとして振舞いましょう。多少強引でもいいので、シャルくんに王子と一緒に中庭でお昼を食べるようにそれとなく誘導しておいてくださいねー!

「という事だから、アーシェス様を誘って中庭でお昼を食べてくれない?」
「なにそれ可愛い!女の子って色々考えてくれてるんだね」
「色々って…助けてもらったのだからお礼をしたいと考えるのは普通のことでしょう」
「うんうん、その話を全部僕に伝えてる時点で分かってたけど、ルディーに駆け引きはまだ早いみたいだね。リリーチェから学べるといいね…」

 リリーチェの作戦を伝えると、シャルは暖かい目で私を見てきた。優しい笑顔だが、何故だか馬鹿にされている気がしてならない。

「それで、アーシェスを気になってるのはルディーの方ってことでいいのかな?」
「私はただお礼がしたいだけ。妙な詮索はやめてちょうだい」
「じゃああの転送石の意味を聞いてもいい?"アーシェス様です"って送るつもりみたいだけど、何がアーシェス様なのさ」
「勝手に見ないでちょうだい!」

授業が終わり部屋に戻ると、お母様からの返事がきていた。
『どなた?』

好きな人ができたら教えるように言われていたが、やはり名前も教えなければいけないのか。
恥ずかしく思いながらも昔からの約束なので、いつもより小さく文字を書き石に読み取らせていたところだった。
話があるから時間ができたら部屋に来て欲しい、とシャルには伝えていた。
部屋に来たシャルは入るとすぐに椅子へ座ったはずなのに、いつの間に石を見たのだろうか。

「まぁいいんだけどね。こっちは任せて、明後日楽しみにしてるよ」

にやにや顔でシャルは帰っていったが、その顔がとても腹立たしかったので
シャルの分のクッキーには何か変なものを入れる事にした。


*** 


セルディアからのメッセージが届いた屋敷では、お母様ことリネットが深刻な顔をしていた。

「アーシェス様ですって…王子かー。面食いだったか~あの子。王子ルートだとスパイに仕立てられて殺されるのに!一番助けにくいルートじゃん」

娘には"没落する"という一番ぬるい結果しか伝えていなかったが、そんなものは序の口で攻略キャラによってさまざまな末路が容易されている。
実は隣の国の王子であるエドのルートだと生きたままエドに食べられるし、宰相の息子であるロジエルートだと監禁されて自我崩壊。
ヒロインが狙った相手とセルディアが、ラストワルツを踊った場合に起こる。エンディングへの分岐後のストーリーだ。
ヒロインが途中で助けようと動いていい子を発揮するが、間に合わなかったパターンで構成されている。良心があまり痛まないざまぁ仕様。
セルディアに対して負い目がある彼達は、その後の人生で心から幸せになることができないのでノーマルエンド扱いになる。

「魅力が上がるマナー授業を増やして注目度をあげてアリバイを…いや、知力を上げる講座で疑惑を論破とか…無理かな」
「奥様、テレーゼより連絡が来ております」

テレーゼとは、ヒロインであるリリーチェ付きの侍女だ。
いわゆるお助け役であり、ゲームでは攻略者達の好感度を教えてくれる人物である。
ゲーム時間軸内で起こるフラグを折る事はできなかったが、協力者を増やすことには成功しているリネット。
テレーゼは既に囲い済みで、リリーチェの状況報告を頼んでいる。

「何々…"今一番気になっている方は"…ん?"シャルヴァン・ミュアー様"?んんんー?」

セルディアとリリーチェは恋敵。
同じ人物に惹かれる。…はずなのだ。

「まぁまだ全員と会ってるわけじゃないし、うん。まだ恋愛イベント始まってないし、うん」

自分で自分を納得させながらも、不安になるリネットだった。
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