あえない天使

ハルキ

文字の大きさ
上 下
21 / 26
Day6

21.ふくしゅう

しおりを挟む
 
 ピンポーン。
 ボクはその音で起こされました。重たい目を開けて時計を見ると、10時を指していました。ずいぶん眠ってしまっていたようです。とりあえず誰か来たようなので玄関を開けにいきます。
 寝室から出て、おぼつかない足取りで1階に下りていきます。リビングには誰もいませんでした。昨日のことはやはり現実なのだと思い知らされます。
 玄関の扉を開けると恵くんが立っていました。
 「師匠、おはようございます」
 「おはよう」
 空は相変わらず黒い雲が空一面に広がっています。たしか夕方から雨が降るそうです。
 「原さん、いますか?」
 「原くん?」
 ボクは思わず聞き返してしまいました。
 「はい、今日は姉さんの誕生日なので毎年、買い出しとか手伝ってもらっているんです」
 ボクは初耳でした。原くんはいつも殴られているからほんとは仲が悪いのかなと思ったりしたのですが、けんかするほど仲がいい、って言いますもんね。
 ボクは恵くんを家に上がらせて原くんの部屋の前に案内しました。原くんはおそらく昨日からこの部屋にこもりっきりです。ボクはもしかしたら葵ちゃんの誕生日なら出てきてくれるかもと期待していました。
 「おはようございます、恵です」
 恵くんは軽くドアに2回、ノックをしました。
 「あぁ、恵くんか。今日はちょっと体調が悪いんだ。葵の誕生会は休むよ」
 扉の奥から力のない原くんの声が聞こえました。恵くんは「そうですか」と言い、肩を落としました。でも、原くんはおそらく体調は大丈夫だと思います。ボクは別の要因があるのではないかと考えました。しかし、それは恵くんには言わないようにします。
 ボクと恵くんはリビングに移動し向き合って椅子に座りました。恵くんはまっすぐにこちらを見つめてきます。
 「師匠にお願いがあるのですが、原さんのかわりに姉さんの誕生会の手伝いをしてくれませんか?」
 「うん、いいよ」
 ボクはすぐに答えました。恵くんはボクが速く答えすぎたためか驚きの表情を見せましたが、すぐに歓喜の表情を浮かべました。
 「ありがとうございます」
 恵くんはボクの手を握りしめました。その手は暖かく、冷めきっていたボクの手に温もりを届けてくれました。
ボクは恵くんの後ろについていき、葵ちゃんの家に向かいました。昨日の夜のように冷たい風が吹き、木々が吹き飛ばされないように頑張っていました。空は少しずつ黒くなっていき、雨の予感をただよわせています。
ついた家は原くんの家とさほど変わりありませんでした。違うのは屋根や扉の色、窓の位置ぐらいでした。恵くんは持っていた鍵で玄関を開け、ボクを中に入れてくれました。
 中に入ると誰もいませんでした。ボクは靴を揃え、段差を上がりました。恵くんも段差を上がると、奥の部屋へ案内してくれました。中は原くんの家とは違い、リビングと台所が分けられていました。
 すると、恵くんはどこかからか様々な色の紙の輪っかがつなげられたものを持ってきました。それはボクのよりも長かったです。恵くんはその中のひとつを持ちあげました。
 「これをこうやって飾ってください」
 恵くんはそう言いながら部屋の壁に持ってきたものをテープで貼っていきます。ボクも恵くんを手本にして貼っていきました。
 しばらくして、すべてなくなると恵くんは、
 「次に買い出しに行きましょう」
 と言いました。ボクと恵くんは家を出て、一緒に歩いていきました。いつもは自転車で通っている道でした。
 住宅が少しずつ数を減らし、大きな橋が見えてきたとき、黒い車がボクらの横を通り向けました。そして、少し先でその車は止まり、中からふたりの人が出てきました。どちらもがたいがいい。マスクをつけ、サングラスを身に着けています。そのふたりがこちらに近づいてきました。
 ボクは前からも後ろからも車が来ていないのを確認すると、向こうからやってくるふたりを避けようとしました。しかし、そのふたりはボクらをさえぎるように寄ってきました。
 「なぁ、おかしあるんだけど、食べない?」
 ふたりとも恵くんのことは見ずに、ボクのことだけを見ていました。
 「ごめんなさい、急いでいるので」
 そう言ったのは恵くんでした。しかし、ふたりとも恵くんには反応しませんでした。
 「なぁ、坊や。おかし、いらないか?」
 ふたりはそうやってボクのほうに顔を近づけさせていきます。しかし、マスクのせいでどういった表情をしているのかわかりません。
 「師匠、行きま・・・」
 恵くんはそう言いながらボクの手を掴もうとしました。おそらく逃げようとしたのでしょう。しかし、ふたりはそれに気がつくと、軽く恵くんを吹き飛ばしてしまいました。
 「恵くん!」
 ボクは地面に倒れこんだ恵くんのもとへ駆け寄ろうとしました。しかし、何者かに体を押さえつけられ身動きが取れませんでした。
 「恵・・・」
 ボクがそう言おうとしたとき、口元に布か何かを当てられました。そのせいで意識が遠のいていきます。ボクが意識をなくす前に見たのはピクリとも動かない恵くんの姿でした。
 



 ボクが目を覚ましたのは強烈なにおいがする場所でした。ボクはそれを嗅いでしまいせき込んでしまいました。
 まわりは木材や機械などが置かれていておそらく工場だと思います。
 ボクは動こうとしましたが、椅子に座らされているようで、手と足が縛られていました。ほどこうとしましたが縄が太く、ボクの力ではできませんでした。
 すると、向こう側から誰かの足音が聞こえてきました。
 「おう、やっと目が覚めたか」
 やってきたのは3人でした。ボクはその姿にハッと息をのみます。その3人はボクがボウリング場へ行った日のコンビニで倒した3人組だったからです。
 「あっ、あのときの」
 「そうだ。おかげでこっちは散々な目に合わされてよ。お前みたいな小さな奴に負けたことを見られて周りから恥さらしとか言われ、さらにはもう少しで最高ランクだったのに最低ランクにまで落とされてしまった。おかげで俺らは奴隷同然、この気持ちがわかるか?」
 ボクは黙っていた。すると、「なぁ」と掛け声とともにボクのほうに足を飛ばしてきた。しかし、それは椅子に当たり、破片がばらばらと地面に落ちていきます。
 「だから、お前をいたぶらなきゃ、気が済まないわけ。あとついでに金もいただいていく」
 「お金?そんなのボク持ってないよ」
 ボクがそう言うと3人は高らかに笑いました。
 「お前、知らないの?お前が泊まっていたあの原って有名な会社の社長なんだぜ。そんなやつはたらふく金持ってるに決まってんだろ。俺らがお前にやられた日に偶然、お前を見つけてそしたら、あの原ん家に泊まってるんだぜ。こんな偶然あるんだなぁ。だから、お前をボコすついでに金も手に入る。一石二鳥ってやつよ」
 ボクのなかから言いようもないくやしさがこみあげてきました。あの時、この3人組が来たことを恵くんに知らせてれば、今日この3人組を見て引き返していたら、
 ボクにもっと力があれば。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】想い人がいるはずの王太子殿下に求婚されまして ~不憫な王子と勘違い令嬢が幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
──私は、私ではない“想い人”がいるはずの王太子殿下に求婚されました。 昔からどうにもこうにも男運の悪い侯爵令嬢のアンジェリカ。 縁談が流れた事は一度や二度では無い。 そんなアンジェリカ、実はずっとこの国の王太子殿下に片想いをしていた。 しかし、殿下の婚約の噂が流れ始めた事であっけなく失恋し、他国への留学を決意する。 しかし、留学期間を終えて帰国してみれば、当の王子様は未だに婚約者がいないという。 帰国後の再会により再び溢れそうになる恋心。 けれど、殿下にはとても大事に思っている“天使”がいるらしい。 更に追い打ちをかけるように、殿下と他国の王女との政略結婚の噂まで世間に流れ始める。 今度こそ諦めよう……そう決めたのに…… 「私の天使は君だったらしい」 想い人の“天使”がいるくせに。婚約予定の王女様がいるくせに。 王太子殿下は何故かアンジェリカに求婚して来て─── ★★★ 『美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~』 に、出て来た不憫な王太子殿下の話になります! (リクエストくれた方、ありがとうございました) 未読の方は一読された方が、殿下の不憫さがより伝わるような気がしています……

完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする

BL
 赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。  だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。  そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして…… ※オメガバースがある世界  ムーンライトノベルズにも投稿中

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...