小さな島からの1通の手紙

ハルキ

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9.ネリネ

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 次の日の出来事を見ようとすると、玄関のチャイムが突然なった。スイセンだろうか。部屋から出て、階段を下りた。そして、玄関の扉を開けると、そこには昨日の老人夫婦が立っていた。時計は4時を指しており、外はまだ激しく雨が降り、強い風が家の中に入ってきた。

 「今日は聖人様の歓迎パーティに来たんじゃ。ちょっと早いがお邪魔するよ」

  老夫婦が家に入ると、リビングルームで自分の家化のように酒を何杯も飲んでいた。しばらくすると、またチャイムが鳴り、今度は3人の老人が入ってきた。それからと言うもののチャイムが鳴っては複数の老人が入ってきては家の中でくつろいでいた。すると、酔っぱらった老人が俺の肩を組んでこういった。
 
 「どうじゃ聖人様、わしと飲み比べでもせんか?」
 
 その老人は瓶に入った酒をごくごくと飲み干し、プハーと言う息をあげた。何回も飲み会に行ったことがあるので自分の酒の強さはわかっているつもりだ。それに飲み比べを始める前からこんなに飲んでいるんだ、勝てるだろう。

 「いいぜ」

 俺はその勝負に乗ってしまった。その老人は頬を赤くしながら不気味に笑い、新しい1升瓶を俺に渡してきた。

 老人は自分の持っている酒をすべての飲み干し、俺と同じ1升瓶を手に取った。

 「ルールは、先にこれを飲み干したほうの勝ち。それでよいな」

 俺は老人を見ながら静かにうなずいた。老人はそれを見てにやりと笑った。

 「それじゃあ、はじめ」

 2人とも1升瓶の酒のふたをはずし、勢いよく飲み始めた。酒自体はおいしかった。だが、味わっている余裕はない。半分を飲み切ったころ、急激な睡魔に襲われた。酔い自体はそんなにはなかった。だが、その老人は俺のはるか上を言っていた。
 これは勝てそうにない。それになんだかね・む・・・。

 俺は床に倒れ寝てしまった。最後に覚えているのは不気味に笑う老人の顔であった。

 

 俺が目を覚ました時、両手両足にひもが括り付けられていた。口にはガムテープみたいなものをはられ、声を出すことができない。場所は移動していなかったが、目の前に映る笑顔の老人に恐怖を感じた。
 
 んーんー。

  どうやっても声を出すことはできなかった。ただもがいている俺を見て、何も言わずにこちらを見て不敵な笑みを浮かべている老人たちを不気味に思った。しばらくすると、階段から誰かが降りてきた。ネリネだった。
 
 ネリネ逃げろ
 
 いくら叫んでもネリネには聞こえない。それがわかっていても何度も声を出そうとした。すると、1人の老人がネリネに気が付いた。
 
 やばい、逃げろ、ネリネ!
 
 大声で叫んだ。このままではまずいと、立ち上がろうとするも両手両足を縛られている状態じゃ、何度やっても立ち上がらなかった。

 ごめん、ネリネ。

 しかし、特に老人たちはネリネに襲ってくる様子などなかった。

  「よう、ネリネ。こいつをどうするかお前さんに託すよ。海に投げ入れるでもいいし、火あぶりにしてもいい」
 
 1人の老人がそう言うと、ほかの老人が全員うなずいた。ネリネは俺のほうへ向かって歩こうとすると、老人たちは道を開けた。ネリネは一歩一歩こちらに近づいてきた。彼女の顔はもう泣いてなどいない。何かを決断したときのようだ。たくましく、かっこいいネリネがそこにはいた。
 
 「私はそんなことはしない。もうだれかを私のためなんかに苦しめたりしない。私のためなんかに誰かを犠牲になんてしない。わたしは決めたんだ、この人を守り抜くって」
 
 ネリネはそう言うと、隠し持っていたナイフで俺をくくっていたひもをほどいた。そして、口に貼られたガムテープもはがしてくれた。
 
 「ネリネ、ありがとう」
 
 「どういたしまして」
 
 そういうと、ネリネは俺のほうへ抱きつきに来た。ネリネの身体は昨日の夜よりも暖かく感じた。彼女の笑顔を見ていると、俺は泣いていながらも笑顔になれた。

  「ネリネ、どうして」

  一人の老人が口を開いた。皆、先ほどの不気味な笑顔は消えていた。それに対し、ネリネはニコッと笑った。
 
 「ごめん、みんな。私、この人好きみたい」
 
 ネリネは俺の手を掴み、家を飛び出した。老人たちはあっけにとられたようで誰も俺たちを止めることができなかった。

  2人は豪雨のなか集落を進んでいた。真っ暗闇の中ネリネは持ってきた懐中電灯であたりを照らす。途中で足元が悪くなりスピードを落とした。2人とも息を切らしながら歩いていると、俺が打ち上げられていた浜辺にたどり着いた。

  「ネリネ、説明してくれないか?」
 
 ネリネは真剣な顔でこちらを見ていた。2人とも雨の中走ったため全身が濡れている。
 
 「説明する時間はない、早く行って!」
 
 「行ってって、どこに?」
 
 「海に飛び込むの、そうすれば外の世界に帰れる」
 
 「じゃあ、ネリネも一緒に行こう」
 
 「私は・・・いけない」
 
 ネリネは悲しそうな顔でうつむいた。しかし、突然狂気じみた顔に変わり、俺の両肩をつかんできた。
 
 「はやく行って!」
 
 その時だった、突然地震のような揺れが生じ海水がこちらに流れてきた。それだけではない、風も先ほどよりも荒々しく吹き、雨も一層強くなった。さらに、海水から何か巨大な生物が徐々に懐中電灯に照らされ、正体を現す。
 
 俺がおぼれたときに見た怪物そのものだった。山のような大きさの怪物は2本の牙を生やし、赤い目でこちらを見ている。この世の終わりだ。足が震えている。こんなやつどうすればいいんだ。
 
 ネリネも同様おびえていた。すると、怪物は前足を高く上げ、踏み下ろそうとした。
 
 やばい。

  俺はネリネの手を引っ張り、攻撃を間一髪で避けた。動きは緩慢だったが、攻撃範囲が異常で砂浜全体が深さ数10メートルの穴が開き、そこへ海水が入ってきた。当たったらひとたまりもない。怪物は次は逆の足で振り払ってきた。再びネリネの手を取りよけようとしたが、懐中電灯を落としてしまった。怪物の手が通った後は草地すべてが土に変わり木がなぎ倒された。
 
 懐中電灯がなくなりもう怪物の攻撃は見えない。俺はネリネの腕を強く握った。
 
 「ごめん、あの時素直に君の指示に従っていたら」

  俺はネリネを抱きしめた。すると、涙があふれ出てきた。2人の姿は哀愁にまみれていた。怪物はそんな2人に口から炎を吐き出した。ネリネはそれに気が付き必死に目をつむる。
 
 ああ、俺はこのまま死ぬんだ。大事な人も守れずに。

 あの時、ネリネの言葉に従っていれば、あの時、ネリネの気持ちに寄り添ってあげられれば。



 あの時、自殺をしようとしなければ。
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