小さな島からの1通の手紙

ハルキ

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 ネリネの元へ戻ると、

 「じゃあ、丘の上に行こう。そこでお話ししたいな」

 と誘ってきた。俺は「いいよ」とだけ返す。

 図書館を出ると、日が傾き始めていた。おそらく午後3時か4時くらいだろう。図書館から丘までは近く、5分もせずにたどり着いた。

 丘の上に立つと海を広々見渡すことができた。ネリネは俺の横に座り、トントン、と手を地面の近くで上下に動かした。座れという合図なのだろう。俺はその指示に従いネリネの横に座った。

 「海、きれいだね」

 「きれいだね、風もさわやかで」

 ふと、ポケットに手を突っ込む。すると、隠していた手紙と手が接触し、そのことについて思い出した。

 「ひとつ聞きたいことがあるんだけど。・・・この手紙ってネリネの?」

 ポケットから手紙を取り出し、ネリネが全体を見えるように広げて見せた。ネリネは笑顔で「うん、そうだよ」と答えた。しかし、

 「あっ、そうだ、島の外のこと教えてよ」

 話をそらされた。なぜこの手紙を書いたのかの経緯を知りたかった。俺はネリネに問い詰める。

 「ねえ、どうしてこの手紙を書いたの?」

 「さあ、なんでだったかな。思い出せないや」

 ネリネは俺の顔を見ずにごまかすように笑っている。俺はもう一度聞く。

 「ねえ、なんで」

 別に俺は怒ってなどいない。ただ聞きたかっただけだ。すると、ネリネは突然真剣な表情でこちらを見た。

 「ごめん、今はその問いには答えられない。でも、いつか話すから」

 「いつかって、いつ?」

 「明日話すよ。必ず」

 嘘を言っているようには見えなかった。そのため俺は明日手紙を書いた理由を聞こうと思った。ネリネは一度大きく呼吸をした。すると、ものすごく大きな笑顔でこちらを見ていた。

 「ねえねえ、外の世界ってどんなの?」

 先ほどまでの会話が嘘かのようだった。ネリネの切れ替えの速さにすごいと同時に怖いという感情が芽生えた。俺も頑張ってネリネに合わせようとした。

 「島の外はね」

 ネリネは目を輝かせながら聞いていた。

 「島の外にはね会社と言うのがあるんだよ」

 俺は会社と言うのが頭の大半を占めていた。働いていた会社の恨みが詰まっていた。正直、このことしか話せない自分に嫌気がさした。

 「会社?」

 ネリネは首をかしげた。

 「会社っていうのはね、働くところだよ。ネリネのお父さんみたいに」

 「なるほど、お父さん会社っていうところで働いているんだ」

 小さなことも見たいに会社と言う言葉を連呼した。なんだか楽しそうだ。その様子を見てるとなんだかこっちまで楽しくなってきた。

 「そういえば、ネリネのお父さんは何のお仕事してるの?」

 ネリネは会社と言う連呼をやめ俺の質問に答えた。

 「お父さんはね、島の人の病気を治してるの」

 なるほど、医者か。どおりで白衣を着ているわけだ。あの2人以外は老人ばっかりだったし大変だろうな。俺はスイセンの忙しさに同情した。

 「ねえ、会社にはどうやったら行けるの?」

 「最低でも中学校を卒業しないとね、それで合格をもらったらいけるよ」

 ネリネは中学校1年生くらいの子どもに見えた。そのため働くのはもう少し先と考えていた。

 「中学校って何?」

 予想しなかった返答だった。俺はそれに戸惑った。

 「学校だよ」

 「がっこう?」

 俺は島に来た時のことを思い出した。ネリネがどこから来たのかと言う問いに対し、高知県と答えたがネリネはわかっていなかった。考えてみればそうだ。この島に学校なんて見当たらなかった。頭を抱えていると、

 「ねえ、大丈夫?」

 と、ネリネは心配してくれた。

 「ネリネは何歳?」

 何の意図もない質問だった。これ以上ネリネを心配させたくないため俺が口を開きした質問だった。ネリネは笑顔で答えた。

 「18」

 両手では13を表していた。ネリネはその異変に気付き、

 「あれ、18って両手でどうやって表すんだろう。15まではいけてたのに」

 150未満の身長。大きく開いた目からは予想がつかないほどの年齢に驚愕した。俺は上の空になっていた。

 「ねえ、学校って何?」

 ネリネがこの質問を何回もした。俺が聞いていないのがわかると、体を揺さぶった。俺は元に戻ったのだった。ごめんと一言だけ言い、学校のことを話した。学校で何をするのか、俺の過去の体験などを細かく話した。ネリネが真剣に聞いてくれるせいで長い時間話してしまい気づけば夕方になっていた。遠くのほうでカラスが鳴いていた。

 「あっ、もう夕方だね。もう帰ろうか。お話聞いていて楽しかったよ」

 「うん、そうだね」

 太陽が水平線に沈みかけていた。水面が輝く光景も幻想的で美しかった。ここならネリネとずっといてもいい気がする。

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