つれづれ司書ばなし

つづれ しういち

文字の大きさ
38 / 150

40 ローズマリ・サトクリフ作品

しおりを挟む

 こんにちは。
 今回はひとつの作品ではなく、ローズマリ・サトクリフの一連の作品をご紹介する形にしました。ただし、私が勤めているのが中学校の学校図書館であるため、そこに置くのによいと思われるもの限定です。

 ローズマリ・サトクリフは、1920年にイギリスに生まれた歴史小説とファンタジー小説の小説家。2歳のころ、関節炎がもとで足に障害が起こって歩行困難となり、以降はずっと車いすで生涯を送った小説家として知られています。
 この身体的な問題のため、学校教育は9歳から14歳までしか受けておらず、のちの素晴らしい小説を生み出した素養の多くはそれ以降独学で身につけたものと言われています。生前は、影響をとくに受けた作家のひとりとして、キプリングを挙げていたそうです。
 1950年、30歳のときに小説家としてデビューし、児童向け歴史小説「第九軍団のワシ」「銀の枝」「ともしびをかかげて」からなるローマン・ブリテン三部作で小説家としての名声を不動のものとしました。のちにここに「辺境のオオカミ」が加わって、全体で四部作になっています。

 こちらはすべて岩波少年文庫に収録されていて、中学生にとって手に取りやすい形になっているかと思います。
 しかしながら、岩波少年文庫としての出版は比較的最近ではあるものの、翻訳者によるあとがきの文章が1960年代であったりすることから、翻訳されたのはずっと前のようです。
 文章は美しいながらもやや硬く古めかしく、活字も少し見づらい形であり、挿し絵や装丁も派手なものではないため、今を生きる中学生にとってはどうしても手にとりづらいものに見えるようです。
 私自身、うちの図書館に入れてはみたものの、現在でもなかなかうまく紹介できていないという現状があります。
 「第九軍団のワシ」は、あの宮崎駿監督もお勧めの本として紹介している作品であり、歴史的な背景をよく調べたうえで書かれた傑作中の傑作。なんとか現代の中学生にも手に取って欲しい作品なのですが、POPなどで目立たせてもなかなか借りてもらえないのが現状です。

 ローマン・ブリテンシリーズ以外にも、「太陽の戦士」「王のしるし」「運命の騎士」など、岩波少年文庫には数多くのサトクリフ作品が収録されています。
 いずれも、当時の人々の生活や習俗や置かれていた環境などが目の前に立ち上がってくるかのような秀逸な描写に満ちており、傑作と呼ばれるにふさわしいものです。心理描写も巧みで、思わず引き込まれてしまいます。
 まるで自分がその時代に生き、主人公たちと共に息づいているかのような感覚を引き起こされる作品なのです。歴史小説として最も大切なその部分を、十二分に含んでいるのがサトクリフ作品だと言えるのではないでしょうか。

 たとえば「太陽の戦士」では、青銅器時代(紀元前900年ごろ)を生きたとある氏族の少年、ドレムが主人公となっています。
 ドレムは生まれつき右腕に障害があり、片腕しか使えません。槍と盾を両方つかうこともできない中、それでも必死に努力を続け、氏族の男として戦士になるための厳しい儀式であるオオカミ殺しに挑戦します。
 その後、ひどい挫折と成長を経て、力強く自分の人生を切りひらいていく姿が胸に迫る傑作。

○「太陽の戦士」
 ローズマリ・サトクリフ・著 / 猪熊葉子・訳 / 岩波書店(2005年)

 そのほか、大人向けの小説として書かれた「アーサー王シリーズ」や「ベーオウルフ」などもあり、別の書店から出版されたこちらの「サトクリフ・オリジナル」シリーズもうちの図書館には入っています。
 やっぱりなかなか生徒には手に取ってもらえませんが、瑞々しい感性を持っている若い時代にこそ、ぜひとも触れて欲しい作品の数々だと思います。
 これも今後の私にとっての課題かなと思っております。

○「アーサー王と円卓の騎士 サトクリフ・オリジナル」
 ローズマリ・サトクリフ・著 / 山本史郎・訳 / 原書房(2001年)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

カクヨムでアカウント抹消されました。

たかつき
エッセイ・ノンフィクション
カクヨムでアカウント抹消された話。

情報弱者の物書きの駄文─24ptやインセンティブ、小説の書き方からGeminiくんの活用なんかについて─

河野彰
エッセイ・ノンフィクション
日々小説を書いていないと生きていられない物書きです。 目指すは小説でおやつが買えるくらいになること。 あと最近Gemini君と仲良しなのでその話をつらつらしていきます。

アルファポリスの禁止事項追加の件

黒いテレキャス
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスガイドライン禁止事項が追加されるんでガクブル

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...