138 / 143
第十二章 もとの世界へぶっとびます
4 悶々と早弁します
しおりを挟む次の休み時間。
栗栖・エノマニフィクは案の定、クラスの女子に囲まれていた。それも、盛大に。
まあしょうがない。こんな田舎じゃ、これだけのイケメンが話しかけられる範囲に出現すること自体ないもんな、普通は。
「クリスくん、どこから来たの?」
「お父さんかお母さんが外国のかた?」
「日本語、すっごく上手だね~」
「どのあたりに住んでるの?」
もはや質問攻めだ。
だもんで、俺が話しかける隙はまったくなかった。
栗栖はひたすら品と愛想にあふれた笑みを浮かべて、こんな田舎の女子たちにも丁寧でそつのない対応をしている。「まさしく皇子さまです! これぞ掛け値なしのロイヤル・スマイル!」みたいな笑顔。ただし本音はまったく見えない。
彼の微笑みと視線を向けられるたび、女の子たちの顔のまわりに文字通りお花畑が広がってる。
対する男子連中は、そんな様子を不満と羨望のいりまじった目で遠巻きに観察している感じ。
うん、気持ちはわかる。わかるけど今の俺はそれどころじゃなかった。
(くっそう。どうすりゃいい……?)
ホームルームで俺に野球部の入部希望書を手渡したあと、栗栖はすぐに指示された自分の席に行っちゃった。だもんで、それ以上の会話はまったくできなかった。
栗栖の席は俺のとこからだいぶ離れてたし、休み時間はこのとおり女の子による囲い込みがすげえしで、ちょっと声を掛けるってわけにもいかなかった。
(それにしても──)
こうして見ると、どこからどう見ても帝国の第三皇子クリストフ殿下だ。
品のいい端正な横顔。鍛えた人に特有の姿勢のよさと締まった体つき。それは俺があっちで見ていたクリストフ殿下そのものだった。
(でも、本当にそうなのか?)
他人の空似ってのもあるし、この世には実は自分にそっくりな人が三人いるなんて話も聞くもんな。たまたま、生き写しの他人っていうセンも──いやいや、さすがにそれはねえか。だってご丁寧に名前まで一緒だしなあ。ちょい短くなってるけど。
だけど、それじゃあどうやってここまで来たんだ?
帝国はどーなったんだ??
魔王さまとの関係は……???
ああっ、気になるう!
悶々としているうちに、気がついたら午前の授業は終わって昼休みになっていた。
女の子たちはまたもやうきうきと栗栖を取り囲み、頬を赤らめ、しなを作ってきゃっきゃうふふと騒いでいる。
「クリスくんはお昼どうするの?」
「学食にいく? それともパン?」
「買いにいくなら一緒に購買にいこっ? 案内するよ~」
普段、気にいらない男子のことはゴキブリでも見るような目を向けてる子までこんな調子だ。とても同じ子だとは思えねえ。げー。
そういうことを抜きにしても、なんか「ぬーん」て感じで不愉快だ。くっそう。
ま、とにかくこりゃダメだ。
俺が入りこむ隙なんて、髪の毛一本ぶんすらねえわ。
頭をガシャガシャかき回し、肩を落として立ち上がる。その拍子に、つい盛大にため息が出た。
ポケットに両手をつっこみ、背中を丸めて購買に向かう。昼メシを買わねえと、この時間に食うもんがねえし。
え? おふくろが作った弁当はどうしたのかって?
そんなもんは午前中で完食してるじゃん、ふつー。
どんなに悶々としてたって、きっちり食うもんは食うのが育ちざかりの男子ってもんでしょーがよ。
ぼーっとした頭で廊下を歩きつつ、胸ポケットに入ってる紙の感触を上から確かめた。確かに入ってる。
(食ったらこれ、顧問に渡しにいかなきゃだな~)
と、考えたときだった。
「うんっ!?」
カメラがグインと振られたみたいに、視界が突然、横滑りした。
「はええ!?」
次にはもう、薄暗い空き教室のひとつに引きずりこまれている自分を発見する。腕をつかまれて引っ張りこまれたらしい。
そして目の前に、俺の大好きな、そしてもはやたまらなく懐かしいブルーの瞳。
「くっ……クククク、クリスっ!?」
「しーっ。大きな声を出さないでくれ。やっとあの子たちを撒いてきたんだ」
唇の前に指を当てているのは、紛れもなくその人だった。
「ってお前、やっぱクリスなの!? マジ本物?」
「そうだとも」
「うひっ!?」
思わず胸倉をつかんだ俺の手を、上から優しく包み込まれた。
ドキーンと心臓が一回鳴って、拍動を止める。
「この顔を見れば一目瞭然だろう? もう見忘れたなんて言わないでくれよ。まあ環境に合わせて、多少若返った姿にはしてもらったがな」
「なっ……なななな」
頭がまったく追いつかねえ。
「してもらった」って誰にだよ。どうやってだよ!
「会いたかった……ケント」
ちょっと悲しそうな、でも嬉しそうな瞳が俺をまっすぐに見つめてくる。しかも至近距離で。
止まってた心臓が動きだし、バクンとさらに一段加速した。
どくどく、どくどく。
ああもう、俺の心臓うっせえわ!
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる