115 / 143
第十章 問題解決に向けて突っ走ります
7 俺たちゃ卵ドロボウです
しおりを挟む道は次第に勾配がきつくなって、本格的な山道になった。
ときどきあちこちで立ち止まって、ウルちゃんと魔導士たちが結界らしいものを張っていく。
鍛えてるとはいえ山歩きには慣れてない。足もとは悪くて石がごろごろしていて歩きにくいし、緊張もしてるしで消耗が激しいんだろう。それに、やっぱり女の子の足だしな。だんだん息がきれはじめてきたぞ。
「こんなに山道を登るなら、なんで途中までドラゴンでいかないの?」
そう、これは素朴な疑問だった。
ウルちゃんはにっこりと笑ってふりむいた。
「相手を驚かさないためですわ。竜たちには、はっきりとした縄張りがありますから。そこを血縁の薄いほかの竜に侵されると、非常に攻撃的になって襲いかかってくるのです。それに、わたしたちの竜にはほかのお役目を命じてありますしね」
「ほかのお役目……ほかの竜? って。まさか──」
「そうです」
ウルちゃんが目を細めて見下ろしてきた。すんげえ長身なうえに、俺より少し上に立っているもんだから、見上げるとフツーに首がつりそうだわー。
「あちらを」
「え──」
ウルちゃんが指さした先。
俺たちは今、山肌に現れた岩だなの中ほどに、ぐっと突き出た巨岩がちょうど見える位置にきている。こっちからはよく見えるけど、こっちは木と藪の陰になっていて向こうからは見えない場所だ。ついでながら、こっちは風下だった。
巨岩の奥には大きな洞穴があるみたいだ。
「あそこまで歩きます。ここからはなるべく息をひそめてくださいませね。声もおたてになりませんよう。もちろん透明化や気配を消す魔法は使いますが、かれらはまことに敏感ですので……」
「わ、わかった」
そこから俺たちは、足音も呼吸音もなるべくたてないようにしながら、ゆっくりと岩だなに近づいた。
遠くからだとそれほどでもないと思えた洞穴は、思ってた以上に大きかった。あの黒いドラゴンでも余裕で入っていけそうな大きさだ。奥の方はまっくらで、なにがあるのかさっぱりわからない。
魔導士たちは次々に、手元に《灯り》の魔法球を出現させてライトの代わりにし始めた。俺はその魔法はまだ使えないんで、ウルちゃんのそばにぴったりくっつくようにして歩くことになった。
みんなと一緒にそろそろと足を踏みいれてみると、中は生き物に特有の、なんとなく生臭いようなにおいがしていた。
ウルちゃんたちは周囲を慎重に観察しながらも、けっこうな速さで奥へ奥へと進んでいく。
「……ありましたわ。あれです」
「えっ?」
ウルちゃんの言葉に、彼女の背後からこっそりそっちを覗いてみると、そこにはちょうど鳥の巣みたいに、木の枝やら枯れた葉っぱやらがわさわさと集められたものがあった。ただ、大きさはバカでかい。
そうか。これはドラゴンの巣なんだな。
よーく見ると、その真ん中にドットぐらいの大きさの卵らしいもんがあるのが見えた。鶏の卵みたいな真っ白じゃなくて、全体にふんわりと青みを帯びたきれいな卵だった。
なんだか宝石みたいだ。俺は思わず、うっとりと見つめてしまった。
「急ぎましょう。わたくしたちの竜が、親竜の気を逸らしている短い間しか許されていませんから」
「え、そーなんだ」
なるほど。「竜たちのお仕事」ってのはつまり、そういうことね。縄張りの周囲をわざとウロウロしてみせて、親ドラゴンの気を引こうってことだ。
巣に近づくと、中には卵がふたつあった。
ウルちゃんはそのふたつを見比べ、そっと触れてしばらく吟味してから、そのうちのひとつだけを兵士に命じて運び出させた。魔導士たちが、すぐに卵の周りに防護魔法をかけている。これで、うっかり取り落してもすぐに割れてしまうことはないわけだ。
(つまり、卵ドロボウ……ってこったよな)
なんとなくげんなりしてきて、俺はウルちゃんを見た。
「あのう……。いいんスか、こんなことして。卵、盗むってことですよね?」
「そうですね。あなた方が長年、わたくしたち魔族に対しておこなってきたことと同じです」
「えっ」
「まあ、すでに生まれている赤子や幼児を親から引き離すよりはましかもしれませんが」
「…………」
急に胃の中に重たい岩でも押し込まれたような気分になった。
ウルちゃんは急ぎ足に歩きながらも、落ち着いた優しい声で説明を続けた。
「あなたがお気になさることではないかもしれません。あなたはお若いですし、それに──」
言いかけて、なぜかウルちゃんはふと黙った。
「でも、ずっとお伝えはしたいと思っていました。帝国の人間たちは、はるか昔から魔族や魔獣の強い力を労働力として利用してきたのです。大抵はこのようにして、卵や幼いときに親から奪い取ることによって」
「そ……そうなの?」
「ええ。あなた方が牛や馬を使って農耕をすることは知っています。魔族や魔獣は牛や馬ほど扱いが簡単ではありませんが、幼いころから育てて懐かせたり、または魔法を使ったりしてうまく利用すれば、大きな成果を出すことができます。……ちょうど、その赤竜の子のように」
「え──」
俺は思わず、自分の肩に乗ってるドットを見つめた。ドットは「なあに?」といわんばかりに機嫌のいい目を俺に向けて、くるくるっと喉を鳴らした。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。
BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。
ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。
けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。
まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる