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第六章 北壁への参戦、本格化です

4 オドロキの提案です

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「うーん。そんで、みんなはこれからどうしようと思ってるわけです?」
「そう。問題はそこなのだ」

 俺の困り切った顔の質問に、トリスタン殿は真面目な顔で応じた。この人、基本的には真面目なんだよな。

「だが、もしもまことに、側妃の連中と魔族の頭目どもが手を組んでいたとするなら、国内であれこれ動くよりも、魔族の側を崩すのが早道なのかもしれぬ……とは思っている」
「そうですね。国内でやるべきことは、すでにすべてやって参りましたし」
 受けたのは皇子だ。
「で、でも魔族を崩すって……そんなことできるんスか」
「そう。そこで、そなたの登場だ」
「えっ。俺ッスか??」

 まさかの返事に、俺、きょとーんだ。
 皇子とベル兄も不思議そうな顔で聖騎士殿を見つめている。
 トリスタン殿は男らしい眉をきゅっと上げてにやりと笑った。なんかわかんねえけど、妙に意味深な目だ。

「今回は、今までならできなかったことが試せるのではないだろうか? なにしろ今はこれまでとは異なる事情が生まれている。……つまり、そなただ」

 人差し指をぴたりと俺に向けるトリスタン殿。
 えええ?

「いや、あのう……。俺がいたって、できるのは《癒し》だけですよ? みんなの後ろで、怪我や病気なんかを治すぐらいのことしか──」
「いや。膨大な魔力マナを持つ者には、その者だけに与えられる思いがけぬ恩寵おんちょうがある。これぞ《稀なる者》の特権なのだ。そなたの場合、それはまだはっきりとは顕現しておらぬはず」
「お、オンチョウ……? ってなんスか」

 一瞬「音調」かなと思ったけど、たぶんちげえよな。
 でも、俺にそんな力まであるなんてマジ? ちょっと信じられねえけど。
 と、トリスタン殿は隣に置かれていた自分の大剣に手を置いた。

「殿下やベルトラン大尉はすでに存じているだろう。俺は敵を倒すとき、単純に剣を振るうだけではない。この剣に自分の魔力マナを乗せて戦うのだ。無論、剣技を練り上げることは必須だがな。……しかしこれこそが、自分が天より与えられし力、『聖騎士』たる所以ゆえんだとも言える」
「マナを……のせる?」
「そうだ」

 うんうん、とベル兄と殿下がうなずいている。この人たちにとっちゃあ常識なのかもしんねえが、俺にはよくわかんねえ。

「そうすることにより、単なる剣としての物理攻撃以上の打撃を敵に与えることが可能になる。だからこそ、一撃で何十、何百の敵を倒すことができるのだ」
「な、なるほど……?」
 ゆえに、とトリスタン殿は続けた。
「そなたも同様に、剣に自分の魔力を乗せて戦うことが可能なのではないかと思うのだが」
「ええっ。そ、そんなの、やったことねえけど……」
「なるほど。まず、やってみないことには、その攻撃にどんな影響が乗るかはわからぬ。かといって、いきなり人間を相手に試すのは危なすぎよう」
「そりゃそーっすね」

 怖いわ、そんなもん。
 トリスタン殿は「ふむ」とちょっと考えた。

「ここは、比較的低いレベルの魔族を相手に、一度試してみるのが最善かと思う」
「え、そ、それって……」

 なんか、めちゃめちゃいやーな予感がするんですけど?
 と、皇子がすぐに口を挟んだ。

「いえ、聖騎士どの。シルヴェーヌを前線にというお考えなのでしたら、私は反対です。彼女は──」
「公爵家のご令嬢であり、あなた様の婚約者だとおっしゃるのでしょう。それは理解しております。ですが、今は左様な悠長なことを申している場合ではありません」
「いやだから! 婚約者じゃねーですってば!」

 なんかさらっと既成事実みたいに語るのやめてもらえません? ここで俺が否定しなかったら、だれも否定する奴がいねえってのもなんとかして!

「あのさあ。なんかもう、そろそろ諦めないか? シルヴェーヌ」
「なに言ってんだよベル兄まで! 諦めるとかそういう問題じゃねえわ、やめろっつーの!」
「ってお前。首まで真っ赤になっといてそう言ってもさあ……」
「うぎいいい! なってねえ! 断じてなってねえええ!」

 でも、ベル兄の言った通りだった。俺の胸から上がいきなりかあっと熱くなって、絶対まるっと赤面してんのが自分でもわかっちまった。
 思わず立ち上がり、脱兎のごとく逃げ出す。

「シルヴェーヌ!」

 背後から皇子の声が追いかけてきたけど、ひたすら逃げの一手だ。
 くっそう!
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