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第四章 目的に向かって邁進します

9 部屋割りにブチきれます

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 皇宮の大広間に集まったのは、全騎士団のルーキーたちと、各騎士団団長たちだった。第一騎士団のところには、先輩騎士であるクリストフ殿下とベル兄の顔も見えた。
 殿下とバチッと目が合い、思わずどきんとする俺の心臓。

(うぐっ……!)

 いやだまれ。俺の心臓は黙っとけ。
 くっそう! もう、なんなんだよ。
 あ、そうそう。あのアンリも合格して、騎士団の制服姿で列に並んでたよ。
 あいつもどこぞの侯爵家の三男なんだとか。それで言葉遣いが比較的ぞんざいだったんだな、なるほど。

 でも、もともと騎士団内では、そういう家柄での上下関係っていうのは基本的に関係ないらしい。関係するのは軍制上での身分だけ。つまり少佐とか大尉とか少尉とか、そういうヤツね。同じようにルーキーとして入った俺たちは、だから基本的にみんな平等に扱われる。お互いの立場も平等。……まあ、建て前もあるとは思うけどな、実際。
 一応貴族なんで、みんな少尉からのスタートだ。
 貴族としての身分にこだわる野郎は気にするかもしんねえが、俺個人としちゃ「こりゃいいや」ってなもんだ。身分の上下ごときであーだこーだ言いたくねえしな。

 やがて広間の上座にあたる場所の雛壇に皇帝陛下がおでましになり、ルーキーの代表者が前に出て、陛下から剣を肩にあてられ、おごそかに叙任の儀が行われた。大人数がいるにも関わらず広間はしんと静まりかえり、式は粛々と、滞りなく終了した。

(はー、こういう式って肩が凝るわー)

 陛下が退出なさって、広間に潮が満ちるようなざわめきが広がりだしてから、俺はうーっと伸びをした。
 と、すぐさま頭頂部にぱすんと軽いチョップが落ちてきた。

「ふぐっ!? あにすんだよベル兄!」
「なにすんだ、じゃないだろ。騎士になったんだからもうちょっとその言葉遣いをなんとかしろって。前から言ってるだろうが」
「そう言うベル兄だって、貴族の子としちゃ大概ザツだと思うぜ~? 俺は」
「その『俺』ってのもなんとかしろよ……」
 
 ベル兄、溜め息とともに頭を抱えている。
 そう言やあ、最初のうちこそ頑張って「わたし」とか「わたくし」とか言ってたのになあ。いつのまにかもう完全に一人称が「俺」一本になっちゃってんなあ。うははは。
 ベル兄の後ろに立って、誰が見ても嬉しそうな神々しい笑顔を見せているのはもちろんクリストフ殿下だ。
 ぱちぱち、と手袋をした手で軽く拍手まで送ってくれている。
 なにそのぴかぴかの笑顔。ちょっと怖いんですけど。
 そんでやっぱり、胸の音がばくばくうるせえ。
 ──だまれ、俺の胸。

「おめでとう、シルヴェーヌ。信じていなかったわけではないが、まさか本当に合格してしまうとは。さすがの才能。まことに素晴らしい。まさに努力の賜物だな。さすがはシルヴェーヌ嬢……いやケントだ」

 言葉を尽くして褒めちぎる皇子である。最後のとこだけめっちゃ小声だけどな。
 褒められるのは好きだけど、ちぎられるのには慣れてねえ。それからこそっと本名を言うなや!
 しかも耳元でとかやめろー! うわー!!
 ああもう。周りに聞かれてねえかとどぎまぎするわ。
 俺はへどもどしてぴょこんと頭を下げた。

「はあ。あ、ありがとうございます……」
「試験官や騎士団長殿にも確認したが、そなたはきちんと実力で合格したとのことだったぞ。どうか胸を張ってほしい。初の女性騎士に祝福と栄光あれ……いやケントに」
 しつけえわ、この皇子は!
「へー? ちゃんと実力? そうなんスか。よかったッス」

 それにしても、わざわざそんなことまで確認してくれたのね。
 ってか、周囲の視線がいてえんだけど。ベル兄は兄貴だから当然としても、まさかここまで俺と殿下が親しいとは思ってなかった人が多いんだろうな。
 例のアンリも不思議そうな目をして俺たちをちらちら見ている。

「さあ、つぎは騎士団長殿の訓示だ」
「そうなの? ベル兄」
「第一騎士団として、新顔を含めてみなが集まる。宿舎の部屋割りや細かい生活上のきまりごとなどが説明される。さ、こちらへ、シルヴェーヌ嬢。先輩たちにも紹介する」
「あ。はいっ!」

 皇子に言われて、俺はとっとこそのあとに続いた。
 




「いやちょっと待て。なんだよこの部屋割りはあ!」

 だがしかし。
 宿舎で俺は、さっそく奇声をあげてしまった。

「いちいちうるさいんだよ、お前は」

 隣に立つベル兄が呆れ顔をする。これで今日何度目かなあ。

「一応女のお前が、大部屋ってわけには行かないだろう? 新人がいきなり個室を与えられるなんて異例中の異例なんだぞ。これは皇帝陛下から直々じきじきにご沙汰があって実現したことだ。文句いうな」
「いや、文句いってんのはそっちのこっちゃねえよ」

 俺、反対側に立ってやっぱりにこにこしているクリストフ殿下を盗み見る。
 だってな? 
 俺の部屋が宿舎の個室なのはいいとしてよ?
 その両側がこのベル兄と、クリストフ殿下なのってどういうことよ!?

「特別扱いされんのはイヤだって、あれほど言ったじゃん! 俺、騎士団長さまに話してくる……ぐふっ!?」

 最後のは、ベル兄に後ろから襟首をつかみあげられて出た声だ。
 ほとんど猫の子でも扱うみてえだな。ひでえぞこの兄!

「聞いてなかったのか?『皇帝陛下からの直々のお達し』なんだ。もちろん、皇后陛下のご意向でもある。騎士団長閣下だって決定をひるがえすことはできないんだよ。諦めろ」
「うぐうう……」
「私の隣の部屋がそんなにイヤかい? シルヴェーヌ」

 こっちはもちろん皇子のセリフ。
 例によって「きゅーん」みたいに耳としっぽを垂れたわんこ顔だ。
 ずりい! そういうとこずりいぞ、皇子!

「い……いや。そーゆーことでもないっちゅうか、なんちゅうか……」
 
 最後はごにょごにょ言って終わってしまった。くっそう。
 俺、なにげにこの人のわんこ顔にはよええよなー。
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