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20 狼は、その正体を知らない、、

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第一印象は、あんなに弱々しい身体で、よくあれだけの動きをする•••不器用な奴だが真っ直ぐそうだ•••それだけだったはずだ•••


満月の光が差し込む窓辺に、エドゥアルト王子は寄りかかる。少し開いた窓の隙間から、風が流れ込んできて、身体に心地よい刺激を与えていく。

目を閉じると•••桃色の透き通った瞳に宿した、強い光が浮かぶ••••あいつ•••アルは、オッドアイを纏ったオレが、刃を向けても揺るがなかった•••並の度胸ではない•••

出会ったばかりの、スラリとした肢体の隣国ウンディーネ国の騎士•••


去り際に見せた表情•••花が咲いたような笑みだった•••

「ああ、いた!君!そこのグリーンのリボンがお似合いのお嬢さん、先ほどはありがとう。」

あいつはああやって、女を誑かせて••••ッ•••なんでオレがムカついてるんだ!!



馬にアルを乗せて走っていた時、風に乗り、シャンリゼの花の甘い匂いが漂ってきて、ああ、こいつは、ウンディーネ国の奴なんだ、となぜか思ってしまった•••手で支えたのは、危なかっかしかったからだ•••それだけだ•••

エドゥアルト王子は、まだ残る感触を確かめるように左手を開いた。途端、カイラス国の王族に伝わる月のモチーフが施された腕輪が銀に光る。

オレの軽口に本気で怒ったかと思うと、馬と戯れる姿は、ただの無邪気な少年だった。

クルクルと表情が変わり飽きないな

フッ、と思わず笑いがもれる。

•••手で触れると、きちんと食べているのか?と聞きたくなるほど華奢だったが、触り心地は悪くなかったな•••朱に染まる姿は、さぞ艶めかしいだろう•••

!?


男相手にオレは一体何を考えている!!! 


エドゥアルト王子は、まるで身体の熱を逃がすように、窓を全開にした。風と共に、どこからかハープの音色が微かに流れてくる。音色に身を任せながら、考えを振り払うように窓の外に思いを馳せる。


•••ここは、城に近いと言うこともあるだろうが、遅くまで街の灯りが煌々と灯っている•••豊かな国だ•••


それにしても•••


•••あのカイル、と呼ばれていた褐色肌の男は、つねにアルの動きを見て、あいつを守りながら動いていた•••いったい何者だ? 

あの肌の色•••はるか遠い頃を思い出させるような美しく淡いセピアのような色•••一度だけ聞いたことがある•••わがカイラス国は、山々に囲まれた国、その中でいくつかの少数の集団は、わが国には属さず暮らしている。その中に、ああいう肌を持つ者がいる集団の存在を••••だが•••あまりにも特殊な事情を持つゆえ、ただの伝説とされてきたが•••


エドゥアルト王子のもの思いは、途中、部屋に入ってきた、気の良さそうな笑みを浮かべたこの男によって中断された•••

「エドゥ、どこをどうすれば、ウンディーネ国の神官の屋敷で、客人としてもてなされる流れになるんだ??」

一流の職人が刺繍したカバーで覆われたソファーに、王子の従者ラッセンが、深く腰掛け、瞳を丸くさせる。

ソファ前のテーブルには、体を温める為にと屋敷の使用人が用意した、ホワイトカカオリキュールを使ったホットカクテルがあった。

王子は長い腕を伸ばしグラスを取ると、一口、口に含み唇を濡らした。

「さあな。あの騎士の考えていることは、オレにも読めん。だが、戦を何としても回避する、という想いは本物だろう。」

ラッセンは、目の前の主が、珍しく自然な笑みを口元に浮かべているのを見て、揶揄うようにハハッと軽口をたたく。

「まだ少年のようだったなあ。たしかにあの神秘的な瞳に見つめられたら、性別関係なく落ちそうだ。」

銀髪の男はその切長のブラウンの瞳でギロッとソファに座る男を睨むと、腕を組んだ。

「冗談もほどほどにしろ。ただ面白い奴がいると思っただけだ。それよりも、これから例の「最低姫」との会合だ。何を企んでいるのか、とくと拝見しよう。」

ウンディーネ国王女アーシャ、良い噂はあまり聞こえてこない。あの騎士は、戦を止めるためと言っていたが、当の「最低姫」が心の奥底で何を考えているかは、賭けだからな。

だが、オレは運に任せることはしない。勝利はこの手で掴み取る。

長い睫毛に縁取られた王子の瞳が、ブラウンと水色の間で混じり合うように銀の輝きを放つ。

その視線は、ウンディーネ国の「蒼き騎士」の紋章が箔押しされた、王女からたった今届いた2枚の招待状に向かっていた。
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