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二 17才の夏 オレたちは出会った

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オレは少し声を荒げた。これも、いつもと同じような会話だ。親父とオレは、最近ずっとこんな感じで平行線のままだ。


親父は難しい顔をして、コトンッとコーヒーカップをテーブルに置いた。

「それは私にも何とも言えないな。だが、ご先祖様たちが今の今まで受け継いできたことも確かだ。ここで私たちがやめてしまう事で、何かが東京で起こるたび、後悔と罪悪感に苛まれる人生をお前には送ってほしくはない。少しでも、出来ることがあるなら、私たちはやるべきだろう?」


ーーー何だよ、ソレ。オレにはそんな事より、ゲームしたり漫画読む時間の方が大切なんだよ。

「綺麗事だ、そんなの。もう学校行くからな。今日は帰り遅くなるから。」


カバンを手にとると、オレは部屋を飛び出した。親父は最近ずっとこんな感じで同じ小言ばかりだ。早くしねーと学校に遅れちまう。


セミがミーンミーンとけたたましく鳴く中を、スニーカーで土を踏みしめ小走りに駆け抜けた。自転車なら砂利が引っ掛かって狭く感じるこの道も、徒歩ならちょうど良いぐれぇだ。1kmもない小道を抜けると、店が密集するエリアに入る。歩くスピードを抑え、いつ開いてんだかよく分かんねぇ寂れた飲み屋の少し先の角を曲がった時だった。道に迷った様子でキョロキョロ辺りを見回している女性の姿が目に飛び込んできた。

長い髪を耳ぐらいの高さで一つに結んで、花柄のワンピースを着ている。手足が長くスラッとしていて顔立ちも若く見えるが、この時間私服でウロウロしているのだから、オレより2-3才は年上だろうか? 綺麗な人だな、というのが第一印象だった。道に迷ってるなら声を掛けようか考えていると、、、


!?


なんだアレ? モヤのような真っ黒な煙のようなモノが、彼女の背後に見える。ソレ、は時折彼女の白い顔を覆い尽くしたり、形を変えて彼女の華奢な身体を縛るような動きを見せている。


ーーー嫌な予感がする。かーさんが死んだ時にも同じようなモノを見た。これがオレたちの言う『鬼』、わかりやすく言えば、何らかの”霊的存在”だ。危害を加えない存在の方が多いが、たまにこうした真っ黒の姿で見える時、人が死ぬ。昔からなぜかオレには見えた。親父には見えないらしいが、亡くなってしまったじーちゃんには見えてたと言うから、この能力も陰陽師の資質の一つには違いなかった。



彼女の方を見ていたら、突然彼女の頭のずっと上の方で何かがグラリッと揺れた。途端、廃墟の崩れかけたビルの5階から、鉄の塊のような大きな看板が落ちてくるのが見えたッ・・・! 危ないッ!!

考えるより先に身体が動いていた。突き飛ばそうと手を伸ばしながら、必死に足を動かす。


ーーーあの女性を、看板が落ちる場所から退けねぇと! 




はっ???




目の前の女性は、すばしっこい身のこなしで、大きく後ろに後退し、一瞬でその場所から移動した。そしてたった今の今まで女性が居た場所に、間抜けなことにそのままオレが突っ込んでいたことに気づいた。





ーーーやべっ、これ、オレの方が死ぬじゃん・・・。
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