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第六章 断罪

48 旅芸人

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ミラリアの街の広場には、今日も空中に浮かぶスクリーンに珍妙なモノが映し出されていた。以前ほど人が押しかけることは無くなったが、子どもたちや噂好きの野次馬たち、そして監視をする幾人かの騎士たちがいる。そのなかでひときわ熱心に映像を見つめていたのは旅芸人の一行。

まず目につくのは存在感のある茶のローブを来た男女。男の方は長身で顔はローブで半分ほど隠されているが、チラリと見える通った鼻筋、形の良い厚めの唇は端正な顔を窺わせた。洗練された立ち居振る舞いだけでも多くの女性を虜にしそうな雰囲気だ。

女性もローブに顔はほとんど隠されているが、はみ出た艶々の銀の髪と頬や唇が朱に色づいた様は、それだけで充分魅惑的だ。1人だけ頭に布を巻き2人に寄り添うようにぴょこりと顔を出した笛吹きの格好をした少年。少女と言っても差し支えないほど中性的で線の細い彼もまた、人を惹きつける容姿をしていた。



彼らが見ている先には、ローソクを灯した薄暗い部屋の中のある場面。

虚空に浮かぶスクリーンの中で、金銀の派手な衣装を着たチョンマゲ姿のでっぷり太った男が山吹色の菓子を手に取っていた。

『うまいのぅ。』

『お代官様、こちらも受け取って下され。』

紫の衣装を着たやはりチョンマゲ姿の男が、金銀の財宝をズイッと差し出す。

『うむ、かたじけない。』

『今回も儲けさせていただいたのも、お代官様が見逃してくれたおかげですんぜ。』

『越後屋よ、その粉が人を中毒にさせるアヘンか?』

越後屋と呼ばれた男が揉み手をして頷いた。


◇   ◇    ◇

半信半疑だった・・・。ノワール様たちが探す人物に関連する物がスクリーンに映ると言われても。私の前々世の姿はたしかに映っていたけれど、それよりもこの映像の方が確信できるっ!


(私で間違いないわ。)

この世界に、日本の時代劇になじみのある人がそうそういるとは思えないっ!私が好きだった悪代官と越後屋の密談のシーン!? このワンパターンな悪巧みのシーンが妙に安心した。忙しい毎日の癒しだったわっ!


「何が映ってるかよく分からねぇが、あの白い粉が気になる。」
シエルが低めた声を出す。

街に入ってから、ずっと私はシエルと手を繋がれている。1人で歩けると言っても「危ねぇから。」と繋いだ手を離してくれない。少しでもよろけそうになるとすぐに腕が伸ばされ体が支えられる。

(過保護すぎるっ!)

こう見えても昔から令嬢らしからぬ街歩きをせっせとやってたおかげで、運動神経は悪くないのに。

「どう言うことですか? 兄様。」
シエルを見上げるテオが可愛らしい。シエルに対しては素直そのもので、本当にシエルのことが好きなんだわ。

「オレは、このミラリアの国で、あー言う薬物をやりそうな奴を1人だけ知ってる。」

表情は見えないけれど、気配が鋭くなった。声音だけでなくピリピリしたものが伝わってくる。一度、ミラリアの養父モーヴェ子爵が薬物に手を出した容疑で捕まったと聞いたけれど、すぐに証拠不十分で解放された。その時ローラン王子はすごく悔しがってたけど。

「んでっ、結局、この映像はお前に関係ありそうか?」

それを確認する目的でわざわざこの広場に来たのだ。シエルの問いに私は肯定の意を返す。

「え、ええ、多分。」

「いったい、これは何なのさ?どうしてリーチェリアはこの映像を知ってるのさ?」
テオの疑問も当然だ。でも、説明するためには私の前々世のことを話さなければならない。

(余計な心配させないかしら??? )

そもそもどうやってこの映像を流してるか、まずはノワール様にその事を確認したい。

「それは・・・。」

「話したくなったら話せばいい。」

言い淀む私に、無理に話さなくて良いとシエルは言ってくれる。そして私の顔を見て、目が合うと艶のある唇を綻ばせニコッと笑う。


シエルが私のことを好きだったなんて知らなかった。返事はいつまでも待つと言ってくれたけど、こうして一緒にいると居心地がいいと感じるのはきっとそういう事なんだわ。そばにいる事が当たり前すぎて気づかなかった。

「兄様っ、城へと続く祝いの行列です。僕たちもあそこに混ざりましょう。」


見ると、異国からの贈り物である珍しい食材を入れたカゴや金銀の装飾品、珍しい陶器を抱えた大勢の人々。広場から城まで、ズラッと長い行列が続いていた。

なぜなら今日はミラリア国の建国記念日。ゲームの世界で、私が殺された日だ。結局私を殺した犯人はノワール様だったの??? 

(とにかく今日1日を無事に乗り切るっ!)

「兄様、聖女の正式なお披露目式も同時にあるそうです。」
神殿から聖女と認定されたノワール様も、城でのお披露目式は未だ執り行われていなかった。派手な事好きなノワール様だから王子に催促していたと思うけど、建国記念の日に合わせたのかしら?


「ローラン王子はノワール様を聖女と正式に認めたの?」
あんなにノワール様に怒っていたのに?

「あいつが何考えてっかは分からねぇ。悪巧みっつーかちょっとした悪戯が好きな奴だからな。」


私たちは城に入っていく祝いの行列に加わった。城の周りにはいつもより厳重に騎士たちが配置され、強力な防御魔法も施されていた。最近瘴気が増えていると言ってたからその対策もあるのだろう。シエルも私も城の騎士たちに顔を知られているから、人混みに紛れるよう列の中心を歩いていく。


鐘の音が鳴り響き、この日のために集められた花々が城のあちこちを飾っている。甘く優しい香りが城中を漂い、国中の浮き浮きとしたお祭り気分を表してるようだ。



「さあ、お出迎えだ。」
シエルの言葉に顔を上げると、私たちの姿を見つけ妖しく笑む人影があった。
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