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第三章 罠

25 希少獣はなぜ集まる???

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「消しても消しても湧いてくるな。」

ここ数日、黒いモヤのような塊が城の庭のあちこちに出没している。大量の塊が、魔道騎士の耳飾りをブンブンッと揺らし、あちこちへと動き回る。使用人たちは皆避難してるが、”瘴気” に対応できる騎士たちは、城のあちこちに散らばり退治していた。

(ッンで城の庭なんだ? 城は通常よりも強い防御魔法が施されてるはずなのに。)

地面をバウンドするように飛んでくる黒い物体を、魔力をまとわせた蹴りで破る。同時に、木の枝からポロリッと落ちてくるヤツを拳で叩き割る。魔道騎士の藍のマントに瘴気の残りカスが飛び散るが、マントの強い魔力により付着する前に消えていく。

(キリがねぇ。こいつらの親玉はどこだ?)

虹の泉から歪なモンを感じる。泉が奏でる音楽も、そう言えばさっきから聞こえてねぇ。よく見ると泉の底に揺らめく真っ黒な影。

(そこかっ?)
『剣よ、従え。命じるまま引き裂けよ。』

オレは剣を引き抜き、すぐにその両刃に魔力を送る。地面をタンッと蹴り上げ高くジャンプし、その勢いを使い空の上からその影に向かい剣を突き立てた。

シュルルッッッ!!

音もなく縮むように消えてしまった。一瞬嫌な匂いが鼻につくが、すぐに泉の水は自浄し芳しい香りへと戻った。

(ふぅ~、これでひと段落・・・!?)

「シエルッ!ドラゴンだッ!」
帽子を手に持ち、こちらへ白馬に乗り駆けてくる人影。

(太陽が髪を燃やして、赤く染めちまってるような色だ。)

「てめぇっ、今までどこにいたッ!?」
ドラゴンって嘘だろっ!防御魔法、効いてねぇじゃねぇか!!


空からこちらへ向かって飛んできたのは、ディアボルスドラゴン???

「話は後だ。このドラゴン、瘴気に引き寄せられてきたみたいだね。聖女の力も全然効いてないみたいだ。」

“悪魔のドラゴン” と呼ばれるディアボルスドラゴンは、真っ黒な体に血のような色の羽を持つ。異様な見た目からそう呼ばれている。だが戦闘能力自体は、以前オレがしとめたザカリドスドラゴンほどではない。

とは言え・・・
「余裕かましてンじゃねぇよっ! そいつの動き封じろっ!」
鋭い爪でオレたちの肉を引き裂こうと、空から狙いを定めて一直線に降りてきた。その衝撃だけですぐそばにあったベンチは粉々だ。

(すばしっこいのは厄介だ。)

「分かったよっ。人使いが荒いんだから。一応、君の上司なんだけどね。」
そう言うと、奴は馬上で、3mほどの長さの槍を器用に脇に低く構えて保持した。エメラルドグリーンの瞳は、八角形の鋼鉄の穂先をドラゴンの片翼の付け根に狙いを定める。


「今は『悪魔』なんだろッ?何だそのふざけた呼び名はッ!」

奴が片翼を槍で地面に繋ぎ止めてる間に、オレはドラゴンの背に乗った。

(うっわ、そンな動くなよっ!)

バッサバッサともう片翼で暴れ回り、グラグラと足元が大揺れする。

「普段できないことを、人はしてみたくなるんだよね。」
奴はグリリッとさらに槍を地面に押し込めようと、馬から降り翼の上に飛び乗った。

「チッ!てめぇはどっちも素だろオがッ!」
(頭が異常に切れるし、勘もいい。)


「っあんまり私の手を煩わさないでくれよ。」
奴がズブリッと上から槍を押しつけた時、翼の動きが少しの間小さくなった。

皮膚が分厚くこのままでは、仕留められねぇ。
オレは唇の動きだけで言葉を発し、剣の両刃にさらなる魔力を込める。
『光まといし剣に、その命捧げよ。』

こいつは尻尾が弱点だ。振り上げたロングソードで、思いっきし叩き切ったッ!!

ズジャッーーーーーーーーーーーーーグヴァアアアアアアアアアアッ!!!


(耳が痛ぇっ!!)

鈍い唸り声のような叫びがこだました。まだこんなに体力が残ってたのかと思うほどひとしきり暴れた後、ディアボルスドラゴンはやがて力尽きたようにピクリとも動かなくなった。

「お見事っ!」
そいつはトンッと地面に降り立ち、パチパチッと拍手をする。


「なンか分かったか?」
最近希少獣の密猟が増えたせいで瘴気が増えた。その鍵となる人物をオレたちは探していた。ヒントはあの広場に浮かぶスクリーン。

「驚いたよ。」

「あぁ?」

奴はこんな時なのに、泉の側のベンチに腰掛け、頬杖をついてくつろいだ様子を見せた。泉の奏でる音楽に耳をすませて、優雅に水の色の移り変わりを楽しんでる。驚いたっつーより、随分楽しそーじゃねぇか。

ちょっとテンポが人とズレてるのは、リーチェといい勝負なんだけどな。

「リーチェだった。」

「は?」
耳を疑う。同じ名前の別人とか???  そんなわけねぇと思っても、どうか間違いであって欲しいと思わずにいられない。


「希少獣を誘き寄せるもの、鍵を握ってるのはどうも彼女みたいだ。」
奴はポケットから菓子の詰まった袋を取り出し、「これ、リーチェに貰ったんだけど、君も食べる?」と手でヒラヒラと掲げて見せた。


「ンなバカなッ!」
星の数ほど人がいる中で、よりにもよってなぜリーチェが・・・!?

「そうだね。せっかく私から遠ざけたのに、意味がなかったね。」

オレの言葉に頷きながら、眉を下げて肩をすくめる。

「あいつが使えるのは花魔法だけだ。あいつには無理だッ!」
花魔法で菓子作ってるだけなのに、ンなこと出来っかよッ! 頬をピンクに染めて、無邪気に笑っていてくれればそれでいいんだ。なのにッ!!

「それについては私が調べてみよう。」

「ンで、リーチェがッ!」

たまらず、近くの木に拳を突き立てる。ドンッと鈍い音を出しながら、ミシミシッと幹がしなった。

「信じたくないのは分かるけど、多分彼女こそが探してた人物だよ。」

こいつの言う通りだ。リーチェだとすると、これまで疑問に思ってたことが1つに繋がってくる。でもあいつは絶ッ対、自分が希少獣引き寄せることができるなんて気づいてねぇ。
(でも、どんな方法使って???)


奴は、菓子を食べ終わった後の手をハンカチで綺麗にふきとりながら、「君はどうするんだい?」と射抜くような緑碧の瞳をオレに向ける。

どうするって、やる事は1つだろオがッ! 



「ンで、よりにもよってリーチェが・・・。」
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