伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 46. いざ魔王城へ!

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「ハル!!」
ツィアが気づくと、小高い山の上に出ていた。
山には森が広がり、目の前は断崖になっている。
そこから見えるのは、以前にも見た魔界の光景。

基本的に人間界と多くは変わらないが、ところどころに毒の沼地があり、瘴気を発している。
その付近の大気はよどみ、禍々しい気配を醸し出していた。

草原や森などが広がる平地のはるか遠くに見えるのは、
「魔王城...」
アラブルは魔王の子だ。きっとハルたちはあそこに向かったのだろう。
「早く行かなきゃ...でも...」
移動手段がない。
走れば早くとも3日はかかるだろう。
ドラゴンに乗っていったハルには到底、追いつけない。
「そこらにドラゴンでも飛んでないかしら...撃ち落として...」
ツィアがそんなことを口にしていると、
「おいおい...なに物騒なこと言ってんだ?...お前、人間だな?...魔界を滅ぼす気か?」
背後の森の中からワイバーンが姿を現した。
細い体。大きな翼。飛行に優れた能力を持つ、ドラゴンの一種だ。

「ああ、ごめんなさい...でも移動手段が欲しくて...」
ツィアはワイバーンに話しかける。
「その前にそのぼろぼろの体、治したらどうだ?」
ワイバーンがツィアの姿を見て言うと、
「あっ!」
初めて気づいたような顔をしたツィアが、魔法を唱える。
「ハイ・ヒール!」
ツィアの怪我は完全に癒やされた。
「...もしかしてお前、ツィアか?」
先ほどから何か焦った感じを出しているツィアに、ワイバーンは尋ねる。すると、
「なんで私の名を?」
驚いた様子でツィアが聞き返す。
「さっき、春の精霊がそこでわんわん泣いてたぜ。『ツィアさ~~~~ん!』ってな!...やかましくて様子を見に来たってわけよ!」
ワイバーンがそう答えると、
「ハ、ハルったら...」
ツィアは顔を真っ赤にして恥ずかしがった。そんなツィアに、
「その春の精霊を追うつもりか?」
ワイバーンが問いかけてくる。
「そうよ!時間がないの!...良かったらあなたが連れていってくれるかしら...」
ツィアがそう言うと、
「バカを言うな!...あいつらは魔王城の方角へ飛んでいった...おそらくアラブルの野郎と戦うつもりだろう...嬢ちゃん...間違いなく死ぬぜ!」
ワイバーンはツィアを強く止める。
「大丈夫!こう見えて私、結構強いのよ!前の魔王だって倒したんだから!」
ツィアは力こぶを作って強さをアピールするが、
「一人でではないだろう?...お前の魔力を見れば分かる!...確かに魔力だけを見れば互角だ!しかし、アラブルは物理攻撃もできるし...なにより体力が全然違う!」
ワイバーンがツィアの強さを冷静に分析する。

強者同士の戦いに、ごまかしは通用しない。
純粋な力の勝負になる。
双方が回復魔法を持っているとなれば尚更だ。
つまり、双方のパラメータの総合値が、そのまま勝敗に直結するというわけだ。
ツィアは確かに魔法だけでいえば十分、渡り合えるかもしれない。
しかし、魔法使いである以上、全ての攻撃、防御は魔力を使用することになる。
しかも、体力が低いため、回復魔法を頻繁に使わなければならない。
必然的に魔力を大量に消費することになり、結局は魔力切れで負けてしまうことになる。
これは不確定要素が少ない強者との戦いにおいて、避けられない結果であった。

前の魔王との戦いで勝てたのは、強力な物理攻撃ができ、体力もあるため、盾にもなれるエリザ。
そして頻繁に使う回復魔法を、一手に引き受けてくれたサヨコがいたからだった。

「まあ、なんとかしてみせるわ!見てて!...って、あなた、アラブルのことは良く思ってないのよね?」
ツィアは不敵に笑いながらも、冷静にワイバーンの立ち位置を確認する。
もし、アラブルの味方なら警戒しなくてはいけない。
「そりゃそうさ!あんなインテリのお坊ちゃんに何ができるってんだ!実際にやったこともねぇくせに、全て分かってる気でいやがる!」
ワイバーンが吐き捨てるように言うと、
「ふ~~~ん...つまり頭でっかちってことね...」
ツィアは何か考えているようだ。そんなツィアをよそに、
「気に入らねぇが、強ぇもんは仕様がねぇ!ペコペコ媚を売るのもなんだから、こんなとこでぶらぶらしてるってわけよ!」
ワイバーンは不機嫌そうに話を続けるのだった。
(どうやら本当にアラブルのことは嫌いなようね...)
そう考えたツィアは話しかける。
「じゃあ、あなたもアラブルが慌てふためく様を見たいでしょ!私が見せてあげる!...だから私を魔王城に連れてって!!」
ツィアがワイバーンの目を見てそう言うと、
「...本気みてぇだな...あのわんわん泣いてた春の精霊も、ドラゴンに乗り込む時には同じ目をしてやがった...」
ワイバーンは少し考え始める。
しかし、すぐに、
「いいだろう!連れてってやる!...その代わり、面白れぇもん見せてくれよ!」
ニヤリと笑ったワイバーンにツィアは答えた。
「もちろんよ!...私の強さ!見せてあげる!!」

「じゃあ、乗りな!全速力で行くぜ!」
そう言って地面に這いつくばったワイバーンにつかまると、ツィアは声を上げる。
「急いで!絶対にハルを守ってみせるんだから!!」
その言葉と共にワイバーンは高く舞い上がった。

「飛ばすぜ!振り落とされんなよ!」
注意を促すように声をかけてくるワイバーンに、
「ウィンド!」
ツィアは魔法で応える。
すると後方から気流が生まれ、ワイバーンに吹き付ける風を相殺する。
結果、ツィアたちがいる空間は無風状態となった。
「こりゃいい!抵抗がねぇから速く飛べるぜ!...やるな!嬢ちゃん!...俺の限界突破、見せてやるぜ!!」
楽しそうに笑ったワイバーンは、更にスピードを上げていく。
(ワイバーンの話だと、アラブルは感覚より頭で考えるタイプみたいね...それに物理攻撃はおまけ程度のようなことも言ってた...)
ツィアがそんなことを考えていると、
「もうすぐ音速を超えるぜ!衝撃波に気をつけな!」
ワイバーンが声をかけてくる。
「ふん!そんなもの私が打ち消してみせるわ!だからもっと速く!」
ツィアが『そんなの関係ない』とばかりに急かすと、
「嬢ちゃん、そんなにあの春の精霊が気になんのかい?二人はどういう...」
ワイバーンはなんとなく気が付いたのか、ツィアに聞いてくる。
「そうね...『かけがえのない存在』ってとこかしら...今はね...」
ツィアの答えに、
「ふ~~~ん!『今は』か...」
ワイバーンは何か分かったような顔をすると、翼を更にはためかせた。
「音速突破!!ヒャッホ~~~~イ!楽しいねぇ!...まだまだスピード上げてくぜ!!」

☆彡彡彡

一方、その頃、
「さすが一筋縄では行かないようですね...」
「ああ...また配下の者が増えているな...これが最後のチャンスだろう!覚悟はいいか!」
「とっくにできてます!!」
ハルとドラゴンが魔王城の入口で、大量の魔物を前に気合を入れていた。

「エクスプロージョン!」
「ファイアブレス!」
二人の声と共に大爆発が起き、炎の息が魔物たちを包む。
「「ギャ~~~~~!!」」
倒れていく魔物たちの間を突っ切り、二人は魔王の間へと急ぐのだった。
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