伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 35. ナンシーと火の精霊

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「あなたは...火の精霊!」
その姿を見たツィアが叫ぶ。

火の精霊は他の精霊たちと同じように、人型の姿をしている。
美しいというよりも、凛々しいといった方が適切な風貌。
ただ、彫刻のような印象は氷の精霊と同様だった。
その全身は炎に覆われ、触れると当然、やけどをする。
物理攻撃で倒すには『熱耐性』の防具か魔法で、抵抗をつける必要があった。
また、服と呼べるものはなく、全身の炎がその役割をしている。
見えないか心配な人もいるだろうが、不思議と大事な部分は必ず見えないようになっていた。
気性は荒く、女性でも男性のような言動をとることが多い。
強さは氷の精霊よりも少し強い程度だった。
また、氷の精霊のように、暑いから(寒いから)といって体力を奪われるわけではない。
全身の炎で守られているからだろう。
ただ、やはり暑い場所が好きらしく、火山の付近で目撃されることが多かった。

「そうだ!だがお前たちに危害を加えるつもりは...ん...そこの御仁は春の精霊様では...なぜ一緒に?」
火の精霊はハルに気づいたようだった。
ツィアと共にいることを不思議に思っているようだ。
そんな火の精霊に、
「私はツィアさんのお世話をしています!ゆくゆくは...も、もっと他のお世話も...」
大きな声で答えたものの、真っ赤になってしまうハル。
そんなハルに対し、
「もう!それがメインじゃないでしょ!...私はハルを魔界まで案内してるの!」
ツィアは恥ずかしそうに説明し直した。
「そうとも...言いますね...」
ハルは少し不服そうだったが、
「魔物と仲良くしている人間か!ちょうどいい!来てくれ!急いでるんだ!...こっちだ!」
火の精霊はよほど急いでいるらしく、二人の会話を適当に聞き流すと振り向き、森の奥に向かい飛んでいく。
「待って!」
ツィアたちは急いで追いかけるのだった。

☆彡彡彡

しばらく奥へと進んでいくと、山沿いに洞窟がある。
「こっちだ!」
火の精霊はその中へと入っていった。
ツィアたちが続くと、
「あなたは!」
そこには一人の女性がいた。

賢そうな顔で眼鏡をかけている。
灰色の髪を後ろで無造作にまとめていた。
身長は平均的。胸も普通のようだった。
年の頃はツィアよりも少し上だろうか。
ただ、体中、擦り傷だらけで、その足はくじいたのか赤く腫れ上がっていた。
これでは歩くのも大変だろう。

「ナンシーさんですか?」
ハルがその女性に聞く。
「はい!そうですが...あなたたちは...」
ナンシーが二人に誰何する。
「私はツィア!この子はハル!...私たちは村であなたのことを頼まれてきたの!」
ツィアが詳しい事情を説明し出した。
・・・
「そうか!村でも心配いていたのだな!良かったら一緒に連れていって欲しい!この怪我では歩けなくて困っていたんだ!」
その説明を聞いた火の精霊が言う。
「あっ!その怪我なら...ヒール!」
ツィアが回復魔法を使う。
「あっ!治りました!全然痛くありません!ありがとうございます!」
ナンシーが立ち上がって数歩歩いてみる。
問題はないようだった。
「おお!お前は回復系の魔法が使えるのだな!助かった!」
火の精霊はその様子を見てうれしそうに微笑んでいる。
「でも、どうしてこんなことに?」
ツィアが聞くと、
「...まずは私とフレイ...彼女のことから話さないといけませんね...」
ナンシーの話が始まった。

〇・〇・〇

今から3か月程前。
「魔物が出なくなって薬草の採取が楽になったわ!勇者さんたちに感謝ね!」
ナンシーは火山の麓に薬草の採取に来ていた。
「あっ!あれは貴重なキセキ草!!見つかるなんてラッキーだわ!」
滅多に見かけることのない貴重な素材を見つけ、有頂天のナンシー。しかし、
「ヒャッホ~~~~!!...やっぱ自由っていいよな!魔王様を倒した人間に感謝だぜ!」
空から真っ赤に燃えた人らしき者が降りてくる。
「キャ~~~~!!」
ナンシーは思わずかがみこんでしまう。そうしている間に、
「あ~~~~~~!!」
せっかく見つけたキセキ草が燃えてしまっていた。
魔物の炎に触れてしまったのだろう。
「なんだ!人間がいたのか!...まじぃ...」
バツが悪そうな魔物。
「あなた、どうしてくれるの!この草のおかげで救われた命があったかもしれないのよ!!」
ナンシーはよほど腹に据えかねたのか、怖さも忘れ魔物に詰め寄る。
「お、お前、俺が怖くないのか?」
その魔物は逆に驚いているようだった。すると、
「キャ~~~~~!!魔物~~~~~!!」
ナンシーは逃げようとするが、腰が抜けて動けない。
「...大丈夫だ!俺たちは魔王様に命令されて嫌々戦ってただけ!もうお前たちを襲うつもりはない!」
魔物はそんなナンシーに語りかける。
「ホ、ホント?」
ナンシーは半信半疑だ。
「ああ!俺は『火の精霊』!この辺りの火山に住んでいる!...おっと俺に触るなよ!やけどするぜ!」
そんなナンシーに自己紹介する火の精霊。すると、
「ふふっ!キザな精霊さんね!」
ナンシーは笑いながら言った。
「え~~~っと...『やけどする』ってそういう意味じゃなくて文字通り...」
火の精霊が困った顔をしていると、
「冗談よ!でもあなた、女の人よね?」
ナンシーが火の精霊の炎に包まれた胸の膨らみを見て顔を赤くする。
「ああ!そうだが...ああ、これか...人間は隠したがるからな!別に素肌が見えてるわけでもないからいいだろう?」
火の精霊は気にしていない様子だ。
「まあ、女同士だし...でも私よりあるのね!」
ナンシーは少し羨ましそうだ。
「人間はつまんないこと気にするなぁ!...それよりこの草のことは悪かった...」
火の精霊が大事な薬草を燃やしてしまったことを謝る。すると、
「まあ、いいわ!あなた悪い魔物じゃなさそうね!...私はナンシー!...これからもここに来た時は、おしゃべりしてもらえるかしら?あなたと話してるとなんか楽しいわ!」
ナンシーはにっこり笑うと、そんなことを言ってきた。
「おお!いいぜ!...じゃあ、またな!」
火の精霊はそう答えると、どこかへと飛んでいってしまった。

〇・〇・〇

「へぇ~~~~!素敵な出会いね!」
ナンシーの話を聞いていたツィアが声を上げると、
「わ、私とツィアさんの出会いだって!!」
ハルがムキになってそう言ってくる。
「あら、話していいのかしら。みんなに置いてかれて、わんわん泣いてた...」
「わぁぁぁ~~~~~!!やめてください!分かりましたから~~~~!!」
ツィアの話をハルは大声で遮った。すると、
「ふふっ!二人も仲が良さそうね!」
すっかり打ち解けたナンシーはいつしか、ため口に変わっている。
「な、仲がいいって...」
「私たちは...そんな関係じゃ...」
お互いを窺いながら赤くなっているツィアとハルを微笑ましげに見ながら、ナンシーは話の続きを始めた。
「それから私たちはここに来るたびにお話したわ!」

〇・〇・〇

「あなた、名前は?」
「魔物に名前はない!俺のことは『火の精霊』でいい!」
ナンシーの問いかけにそう答える火の精霊。しかし、
「それじゃ呼びにくいわ!...そうねぇ...火だから、『フレイム』...『フレイ』って呼んでもいいかしら!」
ナンシーがそう提案する。
「フレイか?...変な名前だなぁ!...まあ、そう呼びたけりゃそう呼びな!」
そう言いながらもフレイは少しうれしそうだった。
「ふふふ!じゃあ、これからそう呼ばせてもらうわね!よろしく!フレイ!」
「おお...」
ナンシーが名前を呼んで微笑みかけると、フレイは顔を赤くして目を逸らすのだった。

〇・〇・〇

「わ、わ、私たちだって素敵な思い出が!...ねぇ!ツィアさん!」
フレイのネーミングの話を聞いたハルが対抗するように声を上げる。
「あら、聞かせて欲しいわ!」
ナンシーが興味深げに尋ねると、
「『春の精霊』だから『ハル』!それだけよ!」
ツィアが冷たく言う。
「そんな~~~~!!私、うれしかったのに...」
ガッカリした様子のハル。そんなハルに向けて、
「ふふふ!ツィアさんは照れてるだけよ!」
「そ、そんなことは!!」
慰めるように声をかけるナンシーに、ツィアは食ってかかるのだった。
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