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紫
ワスレナグサ
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僕は地元の1時間に1本しか
来ない電車が丁度きていて
走って駆け込んだ。
100mダッシュを休む間も無く
連続で走らされたような
息を切れをしている。
周りの乗客から変な視線があるけど
そんなことはどうでもよかった。
電車に乗ってからは
自然と息が整いはじめ
ドア近くの壁に寄りかかりながら
冷静に窓の外を眺めていた。
いつも以上に田舎の風景が
キレイに思えた。
地元の駅に到着して、
僕は真っ先に青彩の実家に向かう。
明かりがついていたので
思い切って玄関のチャイムを押した。
足音が玄関に近づき
ガラガラと扉が開いた。
僕は深くお辞儀をしながら待っていた。
「もしかして、佐助くん?」
優しい声が聞こえた。
「はい」
ゆっくりと顔を上げて答えた。
なぜ僕のことを知っているのだろう?
そんな疑問を頭の片隅に置きながら
「青彩さんのお母さんですか?」
「はい、会うのは初めましてかな。青彩がお世話になってます」
何もかも包んでくれそうな
口調で少し青彩の面影があった。
「はじめまして。夜分にすいません。青彩さんいらっしゃいますか?」
「心配してきてくれたの?ありがとうね。青彩は病院に居て、ここにはいないのよ。」
「そうでしたか」
「青彩は、中学生の頃からあなたのことよく話してたの。佐助くんが居てくれたから今の私があるって」
「えっ、僕はまったく…」
「青彩はね、小さい頃からあまり笑わない子でね。曇り空みたいに閉ざしていた気がするの。」
僕は頷きながら聞いていた。
大学の青彩しか知らない人たちは
まったく想像できないと思う。
「でもね、あるときから変わったの。まるで、曇っていた空が晴れわたる空になったような感じでね。
そのとき、青彩が言ってたの。『私にもできることが沢山ある』って、そこから自分の心をちゃんと表情に出す子になってね。その表情に私も何度も救われたのよ」
なぜか、涙が溢れていた。
「嬉しいことも悲しいことも、楽しいことも、寂しいことも、誰かが関わることでしか生まれない感情だと思うの。青彩は佐助くんから沢山の感情をもらえたから、本当に感謝してるのよ」
「僕も今の青彩から沢山の感情をもらいました。今まで何もできていない分、今僕にできることはありますか?」
「そうだ!」
と何かを思い出したようにお母さんは
奥の部屋に行って
何かを手に取って持ってきてくれた。
「これ覚えてるかしら?」
「これって…」
僕が青彩にバレンタインの
お返しであげた些細な
メッセージカードであった。
そのカードには
ひとこと、大きな字で
『ありがとう』の文字が
書いてあった。
「青彩ね、大事に机の引き出しの奥に保管していたの。
あっ、これは内緒ね」
「自分でもなんか恥ずかしいです」
自分でも書いていたことを
覚えていない驚きと
照れ臭い感じが
なんか心地よかった。
うふふ、と青彩のお母さんは
微笑みながら
僕に何か伝えようと、息飲んだ。
「実はね…」
そのとき、
青彩の家の電話が鳴った。
お母さんは電話に出ると
顔色を変えて、何か話している。
それは良くないことであると
この僕でも勘付く。
電話が終わると
「ちょっと青彩のところに行ってくるから、今日はもう帰れるかしら」
「夜分に失礼しました。はい、歩いて帰れます」
「ごめんね。青彩はここの病院にいるから」
と僕に病院の名前を書いた
メモを渡してくれた。
僕にできることは何だろう。
ずっと、そんな自問を繰り返しながら
凍てつく寒さと
澄み渡る空気を肌で感じながら
暗く長い一本道を
一歩一歩、歩みながら
降り積もった雪を踏みしめて
僕は進んでいった。
来ない電車が丁度きていて
走って駆け込んだ。
100mダッシュを休む間も無く
連続で走らされたような
息を切れをしている。
周りの乗客から変な視線があるけど
そんなことはどうでもよかった。
電車に乗ってからは
自然と息が整いはじめ
ドア近くの壁に寄りかかりながら
冷静に窓の外を眺めていた。
いつも以上に田舎の風景が
キレイに思えた。
地元の駅に到着して、
僕は真っ先に青彩の実家に向かう。
明かりがついていたので
思い切って玄関のチャイムを押した。
足音が玄関に近づき
ガラガラと扉が開いた。
僕は深くお辞儀をしながら待っていた。
「もしかして、佐助くん?」
優しい声が聞こえた。
「はい」
ゆっくりと顔を上げて答えた。
なぜ僕のことを知っているのだろう?
そんな疑問を頭の片隅に置きながら
「青彩さんのお母さんですか?」
「はい、会うのは初めましてかな。青彩がお世話になってます」
何もかも包んでくれそうな
口調で少し青彩の面影があった。
「はじめまして。夜分にすいません。青彩さんいらっしゃいますか?」
「心配してきてくれたの?ありがとうね。青彩は病院に居て、ここにはいないのよ。」
「そうでしたか」
「青彩は、中学生の頃からあなたのことよく話してたの。佐助くんが居てくれたから今の私があるって」
「えっ、僕はまったく…」
「青彩はね、小さい頃からあまり笑わない子でね。曇り空みたいに閉ざしていた気がするの。」
僕は頷きながら聞いていた。
大学の青彩しか知らない人たちは
まったく想像できないと思う。
「でもね、あるときから変わったの。まるで、曇っていた空が晴れわたる空になったような感じでね。
そのとき、青彩が言ってたの。『私にもできることが沢山ある』って、そこから自分の心をちゃんと表情に出す子になってね。その表情に私も何度も救われたのよ」
なぜか、涙が溢れていた。
「嬉しいことも悲しいことも、楽しいことも、寂しいことも、誰かが関わることでしか生まれない感情だと思うの。青彩は佐助くんから沢山の感情をもらえたから、本当に感謝してるのよ」
「僕も今の青彩から沢山の感情をもらいました。今まで何もできていない分、今僕にできることはありますか?」
「そうだ!」
と何かを思い出したようにお母さんは
奥の部屋に行って
何かを手に取って持ってきてくれた。
「これ覚えてるかしら?」
「これって…」
僕が青彩にバレンタインの
お返しであげた些細な
メッセージカードであった。
そのカードには
ひとこと、大きな字で
『ありがとう』の文字が
書いてあった。
「青彩ね、大事に机の引き出しの奥に保管していたの。
あっ、これは内緒ね」
「自分でもなんか恥ずかしいです」
自分でも書いていたことを
覚えていない驚きと
照れ臭い感じが
なんか心地よかった。
うふふ、と青彩のお母さんは
微笑みながら
僕に何か伝えようと、息飲んだ。
「実はね…」
そのとき、
青彩の家の電話が鳴った。
お母さんは電話に出ると
顔色を変えて、何か話している。
それは良くないことであると
この僕でも勘付く。
電話が終わると
「ちょっと青彩のところに行ってくるから、今日はもう帰れるかしら」
「夜分に失礼しました。はい、歩いて帰れます」
「ごめんね。青彩はここの病院にいるから」
と僕に病院の名前を書いた
メモを渡してくれた。
僕にできることは何だろう。
ずっと、そんな自問を繰り返しながら
凍てつく寒さと
澄み渡る空気を肌で感じながら
暗く長い一本道を
一歩一歩、歩みながら
降り積もった雪を踏みしめて
僕は進んでいった。
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