彩り

ガタヤマ

文字の大きさ
上 下
13 / 15

ワスレナグサ

しおりを挟む
僕は地元の1時間に1本しか

来ない電車が丁度きていて

走って駆け込んだ。

100mダッシュを休む間も無く

連続で走らされたような

息を切れをしている。

周りの乗客から変な視線があるけど

そんなことはどうでもよかった。



電車に乗ってからは

自然と息が整いはじめ

ドア近くの壁に寄りかかりながら

冷静に窓の外を眺めていた。

いつも以上に田舎の風景が

キレイに思えた。


地元の駅に到着して、

僕は真っ先に青彩の実家に向かう。

明かりがついていたので

思い切って玄関のチャイムを押した。


足音が玄関に近づき

ガラガラと扉が開いた。

僕は深くお辞儀をしながら待っていた。


「もしかして、佐助くん?」


優しい声が聞こえた。


「はい」

ゆっくりと顔を上げて答えた。

なぜ僕のことを知っているのだろう?

そんな疑問を頭の片隅に置きながら


「青彩さんのお母さんですか?」


「はい、会うのは初めましてかな。青彩がお世話になってます」


何もかも包んでくれそうな

口調で少し青彩の面影があった。


「はじめまして。夜分にすいません。青彩さんいらっしゃいますか?」


「心配してきてくれたの?ありがとうね。青彩は病院に居て、ここにはいないのよ。」


「そうでしたか」



「青彩は、中学生の頃からあなたのことよく話してたの。佐助くんが居てくれたから今の私があるって」


「えっ、僕はまったく…」


「青彩はね、小さい頃からあまり笑わない子でね。曇り空みたいに閉ざしていた気がするの。」


僕は頷きながら聞いていた。

大学の青彩しか知らない人たちは

まったく想像できないと思う。


「でもね、あるときから変わったの。まるで、曇っていた空が晴れわたる空になったような感じでね。
そのとき、青彩が言ってたの。『私にもできることが沢山ある』って、そこから自分の心をちゃんと表情に出す子になってね。その表情に私も何度も救われたのよ」


なぜか、涙が溢れていた。


「嬉しいことも悲しいことも、楽しいことも、寂しいことも、誰かが関わることでしか生まれない感情だと思うの。青彩は佐助くんから沢山の感情をもらえたから、本当に感謝してるのよ」


「僕も今の青彩から沢山の感情をもらいました。今まで何もできていない分、今僕にできることはありますか?」


「そうだ!」


と何かを思い出したようにお母さんは

奥の部屋に行って

何かを手に取って持ってきてくれた。


「これ覚えてるかしら?」


「これって…」


僕が青彩にバレンタインの

お返しであげた些細な

メッセージカードであった。


そのカードには

ひとこと、大きな字で

『ありがとう』の文字が

書いてあった。


「青彩ね、大事に机の引き出しの奥に保管していたの。

あっ、これは内緒ね」


「自分でもなんか恥ずかしいです」

自分でも書いていたことを

覚えていない驚きと

照れ臭い感じが

なんか心地よかった。


うふふ、と青彩のお母さんは

微笑みながら

僕に何か伝えようと、息飲んだ。


「実はね…」


そのとき、

青彩の家の電話が鳴った。

お母さんは電話に出ると

顔色を変えて、何か話している。

それは良くないことであると

この僕でも勘付く。

電話が終わると


「ちょっと青彩のところに行ってくるから、今日はもう帰れるかしら」


「夜分に失礼しました。はい、歩いて帰れます」


「ごめんね。青彩はここの病院にいるから」


と僕に病院の名前を書いた

メモを渡してくれた。


僕にできることは何だろう。


ずっと、そんな自問を繰り返しながら

凍てつく寒さと

澄み渡る空気を肌で感じながら

暗く長い一本道を

一歩一歩、歩みながら

降り積もった雪を踏みしめて

僕は進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

処理中です...