2 / 19
海見猫
しおりを挟む
その猫は、今日も来た。
ここ最近ずっとである。
塀をよじ登って俺の部屋の窓を横切ると、その先に見える海を眺める。
ジロジロと、まるで何かを確認するように。
しばらくすると満足したように鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰っていく。
俺が猫に気づいたのが、だいたい1週間くらい前のことだが、
おそらくはそれよりもずっと前から来ているのだろう。
朝の香りと磯の香りが入り交じるここまで、トコトコとやって来るのだ。
今日もその猫が来た。
この頃は暑くなってきたので窓が開け放たれているのだが、
そんな事はチラリとも気にすることなく進んでいく。
俺は、聞いてみた。
「なぁ、お前は毎朝なにを見に来てるんだ?」
...。
当然なにか返ってくるわけもない。
猫はまた何かを確認するように海を眺めると、帰っていった。
「ってなことが最近あるんだよ」
その日の夜、友人を家に招いて2人で酒盛りをしていると、ポロポロっと零すようにその猫の話していた。
「へー、かわいいじゃん」
興味があるような、ないような、そんな曖昧な顔で相づちを打つものだから、深堀するかも悩ましい。
そんな気を使うほどの相手でもないのだけれど。
いや、深堀するほどの話題でもないのだけれども。
俺はツマミのカルパスを口に放り込んだ。
すると、友人はツマミのよっちゃんイカを口に入れたまま聞いてきた。
「明日は来んのかねぇ、その猫ちゃんわ」
開け放たれた窓にチラリと視線だけ送る友人に、俺もならうように視線を向けた。
部屋の明るさで窓の外は黒塗りされたように真っ暗だ。
友人はよっちゃんイカを飲み込むとそのまま横になって、問の答えも待たず、すぐに寝てしまった。
「来んのかね、明日は」
雨雲のおかげで月明かりもない海へそう呟いて、窓を閉めた後、しばらくしたら俺も眠っていた。
翌朝、雨音に目が覚めた。
シトシトと軽い音が部屋の中を満たしている。
「降ってんなぁ、来ねぇかー今日わ」
友人もちょうど起きたようだ。
そうだな、と友人に返事をしようとしたその時。
件の猫が、来た。
雨にヒゲを濡らし、時折鬱陶しそうに体を振って水を飛ばし。
それでもいつもと変わらぬ足取りで、トコトコと、現れた。
窓を横切って、いつものように海を眺めている。
「なぁ、あれか?」
友人が指をさしながら聞いてくる。
あれか?とはきっと、昨日話していた猫か?ということだろう。
「うん、あれ」
「俺、あいつが何考えてるか、何を見に来てるのかわかるぜ」
友人は猫の背中から目を離さない。
いや猫ではなく、猫と同じく海を見ているのだろうか。
俺は友人が話すのを待った。
しばらくすると、猫と同調したように、ゆっくりとこう言った。
「あぁ、今日も海は1つかぁ」
「ぶふっ、なんだそりゃ!」
俺は思わず笑った。
だが案外と、事実はそんなものかもしれない。
笑う俺達を横目に、猫は満足した様子で鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰って行った。
ここ最近ずっとである。
塀をよじ登って俺の部屋の窓を横切ると、その先に見える海を眺める。
ジロジロと、まるで何かを確認するように。
しばらくすると満足したように鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰っていく。
俺が猫に気づいたのが、だいたい1週間くらい前のことだが、
おそらくはそれよりもずっと前から来ているのだろう。
朝の香りと磯の香りが入り交じるここまで、トコトコとやって来るのだ。
今日もその猫が来た。
この頃は暑くなってきたので窓が開け放たれているのだが、
そんな事はチラリとも気にすることなく進んでいく。
俺は、聞いてみた。
「なぁ、お前は毎朝なにを見に来てるんだ?」
...。
当然なにか返ってくるわけもない。
猫はまた何かを確認するように海を眺めると、帰っていった。
「ってなことが最近あるんだよ」
その日の夜、友人を家に招いて2人で酒盛りをしていると、ポロポロっと零すようにその猫の話していた。
「へー、かわいいじゃん」
興味があるような、ないような、そんな曖昧な顔で相づちを打つものだから、深堀するかも悩ましい。
そんな気を使うほどの相手でもないのだけれど。
いや、深堀するほどの話題でもないのだけれども。
俺はツマミのカルパスを口に放り込んだ。
すると、友人はツマミのよっちゃんイカを口に入れたまま聞いてきた。
「明日は来んのかねぇ、その猫ちゃんわ」
開け放たれた窓にチラリと視線だけ送る友人に、俺もならうように視線を向けた。
部屋の明るさで窓の外は黒塗りされたように真っ暗だ。
友人はよっちゃんイカを飲み込むとそのまま横になって、問の答えも待たず、すぐに寝てしまった。
「来んのかね、明日は」
雨雲のおかげで月明かりもない海へそう呟いて、窓を閉めた後、しばらくしたら俺も眠っていた。
翌朝、雨音に目が覚めた。
シトシトと軽い音が部屋の中を満たしている。
「降ってんなぁ、来ねぇかー今日わ」
友人もちょうど起きたようだ。
そうだな、と友人に返事をしようとしたその時。
件の猫が、来た。
雨にヒゲを濡らし、時折鬱陶しそうに体を振って水を飛ばし。
それでもいつもと変わらぬ足取りで、トコトコと、現れた。
窓を横切って、いつものように海を眺めている。
「なぁ、あれか?」
友人が指をさしながら聞いてくる。
あれか?とはきっと、昨日話していた猫か?ということだろう。
「うん、あれ」
「俺、あいつが何考えてるか、何を見に来てるのかわかるぜ」
友人は猫の背中から目を離さない。
いや猫ではなく、猫と同じく海を見ているのだろうか。
俺は友人が話すのを待った。
しばらくすると、猫と同調したように、ゆっくりとこう言った。
「あぁ、今日も海は1つかぁ」
「ぶふっ、なんだそりゃ!」
俺は思わず笑った。
だが案外と、事実はそんなものかもしれない。
笑う俺達を横目に、猫は満足した様子で鼻を鳴らし、ひょこひょこと帰って行った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる