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第一部 四季姫覚醒の巻

第六章 対石追跡 8

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「一つ、よろしいかしら? 皆さんは、その石を見つけて、どうなさるおつもりなの?」
 進展のない話がひと区切りついたところで、神妙な表情で奏が訊ねてきた。
「妖怪が血眼になって探している、謎の石。何らかの強い力が込められている可能性が、非常に高いですわね。宵月夜が封印されていた石と対になるものだとすれば、その石の中にも、何か邪悪なものが封じ込められている、と考えるべきでは?」
 奏の推測は、とても現実味のあるものだった。妖怪たちが探しているものなのだから、妖怪にとって、手に入れば大きなメリットになるはずだ。
 妖怪たちが得て喜ぶもの――。具体的には分からないが、人間にとっては危険なものかもしれない。興味本位で突いてもいい藪では、なさそうだ。
 もちろん、榎たちも悪い事態を考えていないわけではなかった。妖怪の欲するものが、人間に悪い影響を与えない保障はない。探す行為そのものが、大きなリスクに繋がる場合もある。
「もし、宵月夜がその石を手に入れて、今まで以上の危機が現代に訪れたら……。あなたたちは、問題を収束できるのかしら?」
 問われると、榎にも自信はなかった。
 白神石が宵月夜の手に渡ったときに、何が起こるのか。やっぱり、見当もつかない。
「一生、見つからないほうが、いい石なのかしら」
「危ない石やったら尚更、妖怪たちが先に見つけてしもうたら、まずいんと違うか? 先にうちらで確保したほうが、ええかもしれんで」
 口々に意見は出るが、いつまで経っても、はっきりと定まらない。
「……やっぱり、あたしたちだけじゃ決められないな。何が正しいのか、分からない。どうしてこんな時に、麿がいないんだよ」
 みんなが途方に暮れる中、榎は苛立った。
 怒りの矛先は、音信不通の月麿に向かっていた。
 月麿なら、何らかの情報をくれるだろうに。
 いざというときの、陰陽師相談窓口みたいなものなんだから、肝心なときにいてくれなくては困る。
「月麿でしたら、出張で伝師の総本山へ行っておりましてよ」
 怒りの呟きを耳にした奏が、けろっとした顔で返してきた。
 榎たちは驚いて、揃って奏に視線を向けた。
「伝師の総本山って、どこです?」
「東京でしてよ。六本木の一等地に、本社のビルがございますの」
「六本木!? めっちゃ地価の高い場所と違うんか!?」
 柊が声を張り上げた。大人の事情は知らないが、東京といえば大企業のビルが所狭しと立ち並んでいる場所だし、会社を構えているだけで、立派そうなイメージがある。
「伝師って、いったい何の会社なんですか?」
「表向きは、システム開発会社。裏では、陰陽師としてお祓い家業、ですわね」
 ちゃんと表の顔も持っているのか。世間からは忘れられた一族だと勝手に思っていたが、かなりお盛んにやっているらしい。
 奏の持つビジネスの才能は、家柄からきているものなのだろう。底の見えない伝師の、驚くべき一面を垣間見た気がした。
「麿、よく東京まで行ったもんだな。新幹線で?」
 あの格好で、公共の乗り物に乗れたのだろうか。なかなか度胸がある。
「うちの自家用ヘリコプターですわ。始終、悲鳴を上げて取り乱しておりました」
 奏が、またしてもさらりと、衝撃的な発言をした。
 陸路ならまだしも、平安時代の人間がいきなり空を飛ぶものにチャレンジするとは。百歩譲って飛行機ならまだしも、ヘリコプターだなんて。
 日本の上空を激しい音を立てながら飛ぶヘリに乗って、涙と洟水を垂れ流して悲鳴を上げている月麿の姿が、容易に想像できた。
「ヘリコプター持ってるんですか!? セレブ~! 椿も乗ってみたいなぁ」
 月麿への同情は、周囲からは微塵もなかった。椿に関しては、個人が所有するヘリコプターのほうに興味津々だ。月麿には悪いが、榎も椿と同じ気持ちだった。
「また、機会があれば、皆さんも空の旅へご招待いたしますわよ」
 奏も当たり前に応対していた。このメンバーが揃うと、どうしても常識はずれな会話が成り立ってしまうらしい。
「月麿ならば、もう自宅へ戻っている頃と思いますわ。一度、連絡をとってみては?」
 提案を受け、榎は改めて、髪飾りで月麿との交信を試みた。
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