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第一部 四季姫覚醒の巻

第六章 対石追跡 7

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 翌日、土曜日。
 連絡をとると、奏はすぐに四季が丘町へと赴いてくれた。
 話し合いは再び、佐々木家で行われた。
 榎たちが再訪すると、奏は一足先に周の家に招かれ、居間で正座をしていた。
 以前と変わらない、黒い巻き髪。落ち着いた色合いのツーピースを纏った奏の姿は、堂々として和の雰囲気にも溶け込んでいる。
 清楚な大人の女性、といった感じだ。
「お久しぶりですわね、榎さん」
 遅れてやってきた榎を見て、奏は懐かしそうに微笑んだ。
「――と、あなた方が、四季姫のお仲間?」
 榎の両脇に控える椿と柊を視界に捕らえ、奏は興味深そうに眉を動かした。
「初めまして、如月椿です! 綺麗なお姉さま、会えて光栄ですぅ」
 頬を染めて、恥ずかしそうに体をくねりながら、椿が挨拶をした。
 椿の特性、猫かぶりは、年上の人間に対して発動するらしい。久しぶりに見たテンションだ。
「師走柊や。よろしゅう頼むわ、縦ロールの姉ちゃん」
 柊は相変わらず、老若男女問わず物怖じしない。軽い挨拶を吐いて、堂々と偉そうな態度を見せていた。
「何だか、想像以上に賑やかですこと……」
 個性の濃い新メンバーを交互に観察しながら、奏はリアクションに困って、呆然としていた。
 妙な連中のいる場所へ呼ばれたものだと、奏も途方に暮れている様子だ。
「騒がしくてすいません。変わり者ばっかりなもんで……」
 四季姫を代表して、謝り倒すしかなかった。
 榎たちは席に着いた。周が茶菓子を運んできて、脇に腰を下ろす。
「もう、三人もお揃いになりましたのね。素晴らしい早さですわ、榎さん」
 改めて、一列に並んだ四季姫を眺めて、奏は穏やかな笑みを浮かべてきた。榎たちの活躍や進歩を、とても喜んでくれていた。
「皆さんも、強い退魔の力をお持ちなのですわね。羨ましいわ。わたくしにも力があれば、もっと皆さんのお役に立てるのに……」
 悔しそうな表情を見せ、奏は目を伏せた。
 奏は日本の闇歴史を支えてきた陰陽師、伝師一族の子孫だ。その能力を通常よりも濃く受け継いでいて、妖怪の姿もはっきり見えるし、場合によっては退治もできる。
 そのため、奏が四季姫ではないかと勝手に誤解して、迷惑をかけた時があった。奏は四季姫ではなかった事実や、陰陽師として四季姫の実力の足元にも及ばない無力さを、今も悔やんでくれている。
 残念そうな顔を見ていると、榎もだんだん、申し訳なくなってきた。
「奏さん、あまり自身を責めないでください。奏さんみたいに心強い味方がいるだけで、とても助かりますし、感謝しているんですから」
 榎は奏を宥めて、控えめに言った。
 何にせよ、奏は陰陽師の血を引く末裔として、色々と力になろうとしてくれているだけで、有難い。
 知識が豊富で、いざと言うときにはとても頼りになる、心強い味方だった。
 だが、榎の言葉は奏には届いていなかったらしい。奏は一人の世界に入り込み、なにやらブツブツと呟いていていた。
「わたくしに力があれば、もっともっと事業を拡大して、一大陰陽企業を築けたかもしれないのに……!」
 拳を握り締め、奏は押し殺した声を吐き出した。
「奏さん、本音が漏れてますよ」
 奏は生まれ持った能力を生かして、お祓い事業なるものを立ち上げていた。
 どちらかというと、妖怪退治よりも、宣伝や経営などの商売技術のほうが卓越している人だ。今も、榎たちに無償の助力を与えてくれながらも、頭の中ではビジネスの考えを巡らせて、やりくりしている。
 熱心に苦悩している姿を見ていると、榎は苦笑するしかなかった。
 奏も我に返り、周囲から呆れられていると気付いて、軽く咳払いをした。
「失礼いたしました。お電話で、榎さんから簡単なお話は伺いましたが、何やら変わった石をお探しとか」
 ようやく、本題に入る。奏は書類ケースを取り出して、中の紙束を机の上に広げた。石や文化財などに関した資料をプリントしたもので、榎たちが図書室で調べたものよりも、はるかに専門的だった。
 何が書かれているやら、さっぱりわからない。細かな文字の列や写真を眺めながら、榎はパンクしそうな頭と戦っていた。
「白神石、でしたかしら。可能な限りは調べたのですが、どの文献にも記載はありませんでしたわね。伝師の間でも、伝わっている伝承の中には、登場しない代物でした」
 やはり、手掛かりが少なすぎて、奏でもお手上げだったらしい。
「最初はどこかの神社などで、ご神体として奉られておるか、珍しい石として、お金持ちのコレクターの手に渡っているかと考えたんどすけれど、その線は薄そうですな」
 周も困り果てた表情で、息を吐いた。
 これだけ資料を虱潰しに探しても、似た石は出てこなかった。人の目に触れる状態で保管されているとは、考えられない。
「具体的に、どんな石なのか、お分かりになっているの? 何か特徴があれば、探しやすいと思いますが」
 榎は手提げ鞄の中から、真っ二つに割れた、黒い石を取り出した。
「この、割れた石を見てください。宵月夜が千年間、封印されていた、黒神石(こくじんせき)です」
 宵月夜が封印から解き放たれた後も、榎が部屋に持ち帰って保管しておいたものだ。月麿は、もう要らないと言っていたが、ミスを犯した榎自身への戒めになると思って、時々、引っ張り出して眺めていた。
 奏は石を手に取り、まじまじと眺めた。割れ目をきちんと合わせれば、一つの綺麗な球体に戻る。
「まん丸なのね。石と言うより、玉(ぎょく)かしら?」
「あんまり、重うないねんな。下手したら、ボールと間違えそうやで」
 椿と柊も、黒神石は初めて見るはずだ。奏から受け渡されて、触ったり叩いたりと、感触や特徴を探っていた。
「名前からして、白神石は、この黒神石と対になる石なのではないかと思うんです。だから、形も、この石とそっくりかもしれません」
 榎は憶測を述べた。根拠はないが、周と考えて出した仮説だ。
「きっと、真っ白なんでしょうね。名前からして」
「可能性はあるどすな。白は汚れがつきやすいどす。泥や苔に塗(まみ)れておったら、さらに探しにくくなっているかもしれまへん」
 周も頷いて、後押ししてくれた。
「もしくは、どっかの学校で、バレーボールやサッカーボールと間違えられとるかもしれへんで」
「触感で分かるだろう。流石に」
 柊のふざけた茶々入れに、榎は呆れて突っ込んだ。
 さんざん話し合った結果。
 奏の情報網を持ってしても、確実な手掛かりは得られそうになかった。
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