上 下
38 / 336
第一部 四季姫覚醒の巻

三章interval~妖怪を狙うもの~

しおりを挟む
 半月の浮かぶ月夜。
 分厚い暗雲が垂れ込み始め、月を覆ったり出したりしている。
 雨の匂いが、濃くなってきた。そろそろ、長雨の季節だ。
 湿気た空気に害されたか、妖怪たちの放つ空気も重々しかった。
「夏姫だけならず、春姫の生まれ変わりまで出てきちまったか。めんどくせえな……」
 木の股に寄りかかり、宵月夜が舌を打つ。側では八咫烏の八咫が、申し訳なさそうに頭を垂れていた。
「すみませぬ、宵月夜さま。思った以上に妖怪たちの招集が難航しております。なんせ、多くの妖怪たちが、気配を殺して隠れております故」
「お前が謝る必要ない。時代が変われば、生き方や主君だって変わる。俺の存在が忘れ去れれているから、応じる奴が少ないだけだ」
 宵月夜が再び、その権力を活かして妖怪たちを服従させるには、千年という時は長く経ち過ぎていた。招集に応じて宵月夜の元に挨拶に来た妖怪は想像以上に少なく、更に宵月夜の命令に従ってこの地に残ったものとなると、更に少ない。しかも、下等妖怪ばかり。
 ほかの連中は、何かと多忙であると言い訳を連ねて、足早に己の陣地へと逃げ帰っていった。
 そんな逃げ腰のやる気のない連中を、一匹一匹引っ張り出してくる時間の余裕は、宵月夜にはない。
 かといって、今、手元にある戦力だけで、二人に増えてしまった四季姫の足止めをしなくてはならない現状は、厳しいものがあった。
「いっちょ、強い妖気でも飛ばして、来ない奴らを威圧してやろうか。そうすりゃ、怖がって出てくるだろうさ」
 宵月夜は、この場にいながら、隠れて一度も出てきていない妖怪たちを引っ張り出そうと、妖気を体内に貯め込み始めた。
 周囲を強い風が取り巻き、雲がものすごい速さで流れていく。
 宵月夜の様子に恐れをなした八咫が、慌てて止めに入る。
「なりませぬ! あまり妖気を表に出されては……」
 その直後。妖怪たちの気配とは異なる、嫌な気配が、周囲に流れ込んできた。
 周囲に潜んでいる、手下の下等妖怪たちが、怯えて暴れ出す。
 異変に気付いた宵月夜は、慌てて気配を殺した。
 しばらく、息を潜めてじっとしていると、何事もなく謎の気配は去っていった。
「この気配。奴ら・・も、健在か……」
 目を細め、宵月夜は深く息を吐く。心臓が、激しく高鳴っていた。
 震えてしがみ付いてくる八咫の背中を撫でながら、曇った空を眺めた。
「四季姫だけならず、あいつら・・・・までいるのか。相変わらず、この世は妖怪にとって暮らし辛い場所なんだな」
 ポツポツと、雨が降り出した。
 この雨が、妖怪以外の全ての存在を洗い流してくれればいいのに。
 そう、望まずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

【完結】ホウケンオプティミズム

高城蓉理
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞ありがとうございました】 天沢桃佳は不純な動機で知的財産権管理技能士を目指す法学部の2年生。桃佳は日々一人で黙々と勉強をしていたのだが、ある日学内で【ホウケン、部員募集】のビラを手にする。 【ホウケン】を法曹研究会と拡大解釈した桃佳は、ホウケン顧問の大森先生に入部を直談判。しかし大森先生が桃佳を連れて行った部室は、まさかのホウケン違いの【放送研究会】だった!! 全国大会で上位入賞を果たしたら、大森先生と知財法のマンツーマン授業というエサに釣られ、桃佳はことの成り行きで放研へ入部することに。 果たして桃佳は12月の本選に進むことは叶うのか?桃佳の努力の日々が始まる! 【主な登場人物】 天沢 桃佳(19) 知的財産権の大森先生に淡い恋心を寄せている、S大学法学部の2年生。 不純な理由ではあるが、本気で将来は知的財産管理技能士を目指している。 法曹研究会と間違えて、放送研究会の門を叩いてしまった。全国放送コンテストに朗読部門でエントリーすることになる。 大森先生 S大法学部専任講師で放研OBで顧問 専門は知的財産法全般、著作権法、意匠法 桃佳を唆した張本人。 高輪先輩(20) S大学理工学部の3年生 映像制作の腕はプロ並み。 蒲田 有紗(18) S大理工学部の1年生 将来の夢はアナウンサーでダンス部と掛け持ちしている。 田町先輩(20)  S大学法学部の3年生 桃佳にノートを借りるフル単と縁のない男。実は高校時代にアナウンスコンテストを総ナメにしていた。 ※イラスト いーりす様@studio_iris ※改題し小説家になろうにも投稿しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

いとでんわ

こおり 司
青春
村瀬隼人は大学受験を控える高校3年生で、夏期講習とアルバイトをこなす夏休みを過ごしていた。 ある日、何気なく作った糸電話を自室の窓から下ろしてみると、アパートの下の階に住む少女である橘葵から返答があった。 糸電話での交流を続けるうちに彼女の秘密を知ることになった隼人は、何時しか葵の願いを叶えたいと思うように。 同じ高校に通う幼なじみの友人にも協力してもらい行動を始める。 大人になりかけの少年少女たちの1ヶ月の物語。

我らおっさん・サークル「異世界召喚予備軍」

虚仮橋陣屋(こけばしじんや)
青春
おっさんの、おっさんによる、おっさんのためのほろ苦い青春ストーリー サラリーマン・寺崎正・四〇歳。彼は何処にでもいるごく普通のおっさんだ。家族のために黙々と働き、家に帰って夕食を食べ、風呂に入って寝る。そんな真面目一辺倒の毎日を過ごす、無趣味な『つまらない人間』がある時見かけた奇妙なポスターにはこう書かれていた――サークル「異世界召喚予備軍」、メンバー募集!と。そこから始まるちょっと笑えて、ちょっと勇気を貰えて、ちょっと泣ける、おっさんたちのほろ苦い青春ストーリー。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...