333 / 336
第三部 四季姫革命の巻
第二十九章 姫君帰還 2
しおりを挟む
2
弱々しかった地脈が、突然勢いを盛り返して溢れだし始めた。
その様子を見て、榎たちは驚きの声を上げる。
「地脈の門が、復活した!」
「ほんまに、妖怪はんたちが助けてくれたんどすか!?」
「おそらく、間に合ったみたいだな」
「すごい、まるで奇跡ね!」
本当に、奇跡としか言いようがない。開かれた活路に、榎たちは歓喜して声を張り上げた。
「これなら、通っても大丈夫かな」
「よろしいようですな。後は迷わず、まっすぐお進みなさい」
晴明のお墨付きならば、心配ない。みんな、地脈の前に立って準備を整えた。
過去に飛んだ時と同様に、逸れないように手を繋いで一列に並ぶ。
準備が整った頃合いを見計らって、最後尾に並んだ榎は、振り返って晴明に尋ねた。
「晴明さん、どうして、あたしたちのために、こんなに協力してくださったんですか?」
「……此度の伝師の崩壊。発端には儂も責がある故、見苦しいが罪滅ぼしも兼ねて」
晴明は少し言葉を濁しつつも、静かに語った。
「紬姫と鬼閻との密約を四季姫たちに注進したのは儂であるし、その際に封印石を用いること、人柱として烏の力を用いるように示唆したのもまた、儂である。全てはこの、老いぼれの話を受け入れて四季姫たちが行動したことが始まり。よもや、これほどの悲劇になろうとは、思いもよらなかった。まして、千年も先の世にまで、その火の粉が飛んでおろうとは」
そう語る晴明の表情には、悔恨が深く刻まれていた。四季姫たちの、伝師の運命に深く関わりすぎたと、心から悔いている様子だ。
晴明の力なくして、鬼閻の封印は叶わなかった。だが同時に、大きな代償を伴った。それを運命と捉えるには抵抗がありすぎるほど、晴明の関わった影響力は大きいのだろう。
「本来ならば許してくれといえる立場でもないが、此度の件で儂の罪を不問としてくださるのならば、戸棚に隠しておった唐菓子を盗み食いされた件は、目を瞑りましょう」
バレてた。
しかも、根に持ってた。
やっぱり食べたのはまずかったか。というか、こんな瀬戸際で持ち出して、過去の重大な後悔話と天秤に掛けるのもどうかと思ったが。
それで恐ろしい食べ物の恨みから解放されるのならありがたい取引だ。榎はとりあえず盗み食いの件は素直に謝りつつ、晴明の話を承諾した。
「四季姫様たちには、同じ陰陽師としてたいへん世話になり、良い刺激を頂けた。せめて、来世では幸せになってもらいたいからの。これが儂の、精一杯の手向け花となりましょう」
晴明は、榎たちに穏やかな笑みを浮かべた。榎たちも、晴明に笑顔を返した。
「何から何まで、ありがとうございました。晴明さん」
感謝の言葉を述べ。榎たちは一斉に、地脈の中に飛び込んだ。
弱々しかった地脈が、突然勢いを盛り返して溢れだし始めた。
その様子を見て、榎たちは驚きの声を上げる。
「地脈の門が、復活した!」
「ほんまに、妖怪はんたちが助けてくれたんどすか!?」
「おそらく、間に合ったみたいだな」
「すごい、まるで奇跡ね!」
本当に、奇跡としか言いようがない。開かれた活路に、榎たちは歓喜して声を張り上げた。
「これなら、通っても大丈夫かな」
「よろしいようですな。後は迷わず、まっすぐお進みなさい」
晴明のお墨付きならば、心配ない。みんな、地脈の前に立って準備を整えた。
過去に飛んだ時と同様に、逸れないように手を繋いで一列に並ぶ。
準備が整った頃合いを見計らって、最後尾に並んだ榎は、振り返って晴明に尋ねた。
「晴明さん、どうして、あたしたちのために、こんなに協力してくださったんですか?」
「……此度の伝師の崩壊。発端には儂も責がある故、見苦しいが罪滅ぼしも兼ねて」
晴明は少し言葉を濁しつつも、静かに語った。
「紬姫と鬼閻との密約を四季姫たちに注進したのは儂であるし、その際に封印石を用いること、人柱として烏の力を用いるように示唆したのもまた、儂である。全てはこの、老いぼれの話を受け入れて四季姫たちが行動したことが始まり。よもや、これほどの悲劇になろうとは、思いもよらなかった。まして、千年も先の世にまで、その火の粉が飛んでおろうとは」
そう語る晴明の表情には、悔恨が深く刻まれていた。四季姫たちの、伝師の運命に深く関わりすぎたと、心から悔いている様子だ。
晴明の力なくして、鬼閻の封印は叶わなかった。だが同時に、大きな代償を伴った。それを運命と捉えるには抵抗がありすぎるほど、晴明の関わった影響力は大きいのだろう。
「本来ならば許してくれといえる立場でもないが、此度の件で儂の罪を不問としてくださるのならば、戸棚に隠しておった唐菓子を盗み食いされた件は、目を瞑りましょう」
バレてた。
しかも、根に持ってた。
やっぱり食べたのはまずかったか。というか、こんな瀬戸際で持ち出して、過去の重大な後悔話と天秤に掛けるのもどうかと思ったが。
それで恐ろしい食べ物の恨みから解放されるのならありがたい取引だ。榎はとりあえず盗み食いの件は素直に謝りつつ、晴明の話を承諾した。
「四季姫様たちには、同じ陰陽師としてたいへん世話になり、良い刺激を頂けた。せめて、来世では幸せになってもらいたいからの。これが儂の、精一杯の手向け花となりましょう」
晴明は、榎たちに穏やかな笑みを浮かべた。榎たちも、晴明に笑顔を返した。
「何から何まで、ありがとうございました。晴明さん」
感謝の言葉を述べ。榎たちは一斉に、地脈の中に飛び込んだ。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる